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11 勇者食堂は恋の味? それとも故郷の味 (勇者視点 )


 俺はやっとのことでアンを説得して報酬を山分けにした。


 グ~キュルキュル


 お腹が鳴った。


(そう言えば、今日はまだ飯を何も食べていない)


 アンを見た。


 それは一緒に行動をしていたアンも同じだろう。


「メシにでも行く?」


「うん!」


 アンが本当に嬉しそうにうなづいた。


 それを見て、そんなに喜ぶなんて、よほどアンも腹が減っているのだろうなと思った。


(さて、店をどうしよう)


 俺は日本からこの世界に転移して来てからは、一人で外で自由に外食したことなどない。いつも勇者として王国の管理下にあった。しかもここリンデルバーグ国は魔王城への遠征の時に通過しただけだ。


 飲食店が連なる街の中心部にさしかかると、あの立体看板が目に飛び込んできた。


 フライドチキンの白髪のメガネおじいさんのように、店の前にそそり立つ巨大フィギア。


 それは俺だ。



   ☆  ☆  ☆  ☆  ☆



「勇者様、夕食は何になされますか」


 料理長のラワジフが俺に訊いた。


 ヤツはこうして律儀に毎回、俺にメニューを訊いてくる。


 ラワジフはプロレスラーみたいなゴツい身体に短い髪をしていて、コックというよりヤクザみたいな風貌をしている。


 本人は真面目なんだろうが、俺の好みを訊くなど意味のないことだ。


 なぜなら、いつも二択しかないからだ。


 メインは肉か魚か、調理法は焼くか煮るか、主食は硬いパンかゆでた芋か。


 これだけだ。


 ちなみに味付けは塩だけ。


 肉に塩まぶして焼いたやつに、ゆでた野菜、硬いパン。何も言わないと毎日これだ。


 食材や調味料が無いわけではない。もちろん焼き肉のタレとかがあるわけではないが、豚肉もジャガイモも人参も大豆もある程度の種類の香辛料だってある。


 なのに恐ろしく食の文化が未開なのだ。


 もっともそう思うのは、現代の日本から来たせいというのもある。イギリスに英語の勉強のためホームスティした同級生たちは、口々に海外の食生活の単調さを訴えていた。


 食事(外食)が、うまくて、バリエーション豊富なのは、現代日本特有のことらしい。


 だが、仮面の勇者として国家に管理された日常を送っている俺にとって、楽しみは食事くらいだ。


 それが、茹で豚と茹で芋に塩振ったやつが毎日では、日本人の俺にはたまんらん。たまらん。


 日本なら囚人だってもっとマシなものを食っているぞ!


「ラワジフ、たまには違うものが食いたい。うーん、そうだな。俺の故郷の料理が食べたい」


「勇者様の故郷の料理と言われましても……」


(だよね。口で言っても分かるわけない)


「そうだ、なら厨房に案内しろ」


「はい?!」


「俺が作る」


「そんな! 勇者様御自らが厨房に立たれるなんて……」


「いいから」


 実は俺は高校生の時から飲食店でバイトをしていた。高校生の時は配膳や下ごしらえ程度だったが、大学生になると料理を作るようになった。また一人暮らしで自炊もしていた。


 厨房にゆくと、結構、いろいろな食材や調味料があった。また王宮の厨房なので、国中からお取り寄せができるのも知った。


 宝の持ち腐れだ。


(これならいけるんじゃない)


 そこからが別の意味の勇者伝説の始まりだった。


 俺は、自分による、自分のための、自分の料理づくりに没頭した。


 魔王軍との遠征にも、ポーターに食材や調理道具一式を持たせて、戦いの合間に料理した。


 そして勇者という権威を利用して、ベーコンの生産、醤油もどきの開発などをした。


 そんなある日、脇でそれをサポートしていたラワジフが王都に店を出した。


『勇者食堂』という店だ。


 ヤツは俺が開発した「肉じゃがもどき」や「ピザもどき」の料理をその店で出した。


 それが、大ヒットした。


 連日、大行列となり、社会現象にまでなった。


 俺から聞いた、ケンタの話など異世界の知恵をフルに使ったのだ。


 ラワジフは俺の専属料理人を辞めると、貴族連中から出資を募り、俺から聞いた知識を利用してフランチャイズでのチェーン店の展開まで始めた。


(ラワジフ、お前、日本に来てもやっていけるぞ。ワオ!)


 話が長くなったが、そうしてサンダースおじさんみたいな仮面の勇者の巨大フィギアが、勇者食堂のトレードマークになったのだ。





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