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1 追放だって? ちょうどよい機会だ、さようなら(勇者視点)


「勇者様、軍法会議にかけられることになりました」


 俺は仮面の下で笑った。


「どうしてそうなる」


「敵である魔王と通じていたという容疑です」


「馬鹿な」


 俺は先日、魔王城まで攻め込み、魔王と対峙した。


「魔王よ、覚悟しろ」


 俺と魔王は一対一で睨み合った。


 俺の方が実力は上だ。こうして互いに魔力で力の探り合いをすれば一目瞭然だ。


 魔王は無表情を装っているが、かなり焦っているのがわかる。


 俺は、倒す前に、最後の和平交渉をした。


 というのも魔王を倒しても魔族や魔物がいなくなるわけではない。


 統率の取れなくなった魔族と魔物がゲリラ的に暴れるだろう。


 それに後継者の魔王も生まれるに違いない。


 ならば、ここで和平交渉をしたほうが双方にとって利益だ。


「どうする?」


 魔王は折れた。


 そして人族に有利な条件で休戦が成立した。元々は反魔族主義の人族が勝手に国境付近で暴れて仕掛け、世界大戦にまでなったのであり、非は人族側にあった。だが、魔王軍の攻勢も容赦がなく戦争の被害は多くの民に及んだ。この泥沼の戦争を人族の責任を問わない形で終えることができれば大成功と言えた。


 戦争は終結し、被害は最小限に抑えられ、人族の村が魔王軍の襲撃にさらされることを防止できた。


 その結果に国王も国民も喜んでいた。


 はずであった……。


 なのに平和になったとたん、宰相が国王に、和平は俺が魔王と通じての出来レースで、人族を裏切ったのではと耳打ちし、それを国王が本気にし始めたのだ。


 愚かなことだ。


 もしかすると平和になったので、魔王すら戦わずしてひれ伏せさせる俺の力が邪魔になったのかもしれない。


「勇者様、明日、法廷に出廷せよとのことです」


 小姓がさっきの軍法会議の話を続けた。


「で、俺はどうなる?」


 小姓は青い顔をした。


「俺は異世界転移者だ。こういう場合の過去の判例を知らない。知っているなら教えてくれ」


「普通でしたら死刑です」


「ほお」


「でも、今回は和平そのものは成立していますし、国王様自らが和平協定に調印されておりますし、今現在何も問題は起きていません」


「ならば、なぜ裁かれる?」


「あの時、勇者様は魔王を殺すことができたのに、そうしなかったのは怠慢だと宰相が主張しているからです」


「馬鹿な。そうしたら、収拾がつかなくなるぞ。魔王の敵討ちと、統制の取れなくなった魔王軍の暴走で、戦乱が続くことになる。多くの民が死ぬぞ」


 小姓はうつむいて黙ってしまった。


「まあいい。それで俺は明日死刑になるのか?」


 小姓は首を振った。


「いえ。これまでの功労と、現在の平和はそれはそれで評価するということで、多分追放刑になります」


 俺は笑った。


 強引に召喚魔法で、人拐い同然にこの世界に連れてきておいて、今度は追放するとは身勝手なことだ。ただ、追放されても俺は痛くも痒くもない。もともとここは故郷ではないからだ。


「追放されても構わない。むしろ俺の方から出ていってやる」


「ただ……一つ問題があります」


「なんだ」


「明日の裁判では、その仮面が外され、名前を呼ばれます」


「何だと!」


 召喚された俺は、これまで「勇者」としか呼ばれておらず、魔王軍の暗殺者から守るために、仮面をつけ、素性を一切明らかにしてこなかった。


 俺のいた元の世界でも、テロ対策の特殊部隊員は、黒のマスクをして名前を隠し、身元を一切秘匿していたが、それと同じだ。


「それは困る」


 俺は世界が平和になったし、元の世界に戻す方法は無いと言われていたので、これからはこの世界で、モブになり、自由気ままにスローライフを楽しむつもりでいた。


 ここで身バレすると、色々面倒だ。町を歩いていて普通に「勇者様!」とサインを求められるのもうっとうしい。というのは冗談だが、身バレしたら俺を抹殺しようとする者や利用しようとする者があとを絶たないはずだ。


 なぜなら、戦争が終結しても勇者としての超人的力はそのままだからだ。一対一の戦闘では、この世界で俺の右に出る者はいない。


「それはまずいな」


 俺は決めた。


 幸い、俺の仮面の下の顔は国王と一部の高官以外は知らない。


 召喚魔法で転移してから、すぐにこの仮面をつけさせられたからだ。


 国王も、一度しか見ていない俺の素顔はもう忘れているかもしれない。


 明日の裁判で身バレする前に、この国から逃げることにしよう。


 だが、敵を欺くにはまず味方からだ。


「分かった。死刑にならないというのなら、明日の裁判には潔く出廷しよう。そして公正な裁きに服そう」


 小姓の顔には安堵が浮かんだ。


(さて、どうやってここから抜け出すかな)


 もっとも桁外れの力を持つ自分にはたやすいことだった。


 実はこの国の王も宰相も大臣たちも本当の俺の力は半分も把握していない。だから、この俺を軍法会議にかけて追放するなんて真似ができるのだろう。


 なぜ隠していたかと言えば、俺はあいつらに誘拐されたようなものなので警戒して、いざという時のために備えていたのだ。隠していてやはり正解だった。


 それに、魔王軍との戦いでも、全力を出す必要はなかった。相手が弱すぎたからだ。


 魔王と対峙した時はさすがに全力を出そうとした。


 それを察知した魔王がビビって戦わずして停戦に応じたのだ。

 

 魔王だけは俺の力をある程度分かっているはずだ。


 しかし、魔王とは睨み合っただけで何もしてないので、同行していた魔王討伐パーティの面々、つまり騎士団長や宮廷魔道士長らは誰も真の力を知らない。


(さて、この城から、おさらばするかな)


 俺は、一人になると仮面と全ての装備をはずした。もちろん聖剣もおいておく。


 一番地味な服に着替えた。


(行くぞ)


 手をかざすと魔法陣が現れた。


 転移魔法だ。


 俺がこれを使えることを知っているやつはいない。


 紫色の魔法陣の中に俺は消えた。






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