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エッセイ「カレーライス事件」

作者: 川越ふみ

小説ではなく、エッセイです。

 子供達に好きな食べ物は何かと訪ねると、『カレーライス』と答える子供は多いだろう。自分も子供の頃にその質問をされたら、そう答えていただろう。そしてそれは大人になった今でも変わらない。

 小学6年生の時、家庭科の授業でカレーライスを作る事になった。授業は4時間目で、これが終われば給食の時間だった。そんな給食前にやる事自体おかしな話だが、その時は、給食が2回あるとか言って、アホみたいに喜んでいたりした。馴れない包丁さばきに悪戦苦闘しながらも、それぞれの班のカレーライスが無事出来上がり、試食タイムになった。時間が時間だけに、みんな給食のごとくたらふく平らげた。

 そして家庭科の授業も終わり、続いて本当の給食の時間になった。食べ盛りのワンパクな自分達にとって、そんな事は問題ではなくお得感さえ漂い、歓喜していたが、給食当番が大食器のふたを開けた瞬間、それは悲鳴に変わった。あれ?さっきまでこの匂いが漂っていたような...。そう、本日の献立は、紛れもなくさっき作って食べたばかりの『カレーライス』だった。ゲップをしようものならカレーライスの味がまだする。今月の献立表は教室に貼られていたが、全く見ていなかったのはうかつだった。そうすれば、事前に家庭科の先生に意義を申し出る事も出来たはずだ。家庭科の先生も先生で、調べておいてくれよといった感じだが、まさか先生も家庭科のカレーライス実習と給食のカレーライスがかぶるなんて思ってもいなかったのだろう。

 クラスメイトの給食のおばちゃんに対する殺意が漂う中、物凄いテンションの低い給食タイムが始まった。「それでは、いただきます」という給食当番のお決まりの挨拶がイヤミにさえ聞こえる。ただ一人もりもりカレーライスを頬張る先生を横目に、あまり箸というかスプーンのの進まない友人達。しかし、やはりそこは食べ盛りの自分達だ。先程とは違うプロが作ったカレーライスに「うまい、うまい」とおかわりさえした。そんな事が出来るのも、『カレーライス』だからこそなんだろう。だてに子供の好きな食べ物ランキングに毎回上位にいる訳ではない。さすがはカレーライス。他の物であったならば、30人程のクラスメイト達で給食センターに殴り込みに行っていたかもしれない。

 なんとか殺意を抑え込み、学校が終わると真っ直ぐ家路に向かった。家に到着し、玄関に向かう際、腹が立つ匂いが立ち込めた。まさか...。勢いよく玄関を開け、母親を見ずに、じっくりコトコト煮込んでいる鍋を直視した。

「今日はカレーライスよ!」

 母親は満面の笑みで自分にそう言った。

 勢いよく玄関の扉を開け、入った来た自分の姿は、母親には外にまで立ち込めるカレーのスパイしーな匂いに、興奮のあまり飛び込んで来たカレーライス大好き息子に映ったのだろう。無理もない。母親には自分がカレーライスが大好きだという過去のデータがインプットされてはいるが、今日、学校であった最新の出来事は、母親にはまだ送り込まれていないのだから。

 自分はその現実に感情が一周し、笑けてさえきた。そんな自分の笑みに、母親は、もー、この子は本当にカレーライスが好きなんだからと勘違いしたに違いない。感情が一周しておかしくなりつつある自分には、今日の出来事を笑って話せる余裕はなかったが、そこは食べ盛りの自分だ。給食時より更にテンションが低くはあったが、その日の夕食をなんとか済ませ、眠りについた。

 次の朝、目が覚め、起きだすと、「昨日のカレーが余ってるんだけど食べる?」

と母親が自分にそう言った...。うかつだった。カレーライスが夕食の翌朝は余ったカレーがお決まりなのをすっかり忘れていた。翌朝のカレーがまたうまいんだこれが。普段だったら、そうまっさきに食いつく所だろうが、いくら食べ盛りの自分といえども、もしこの誘いにのれば4回連続カレーライスになってしまうと、早朝から腹が立った。

「うるせー!!」

 母親に対し、自分は今日の第一声でもあるその言葉を叫んだ。

 今思えば、それが反抗期の始まりだった。

 くだらないエッセイをお読みいただき、ありがとうございました。

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