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① 私に食器をくださいな

本編・異伝とはまたちがう味付けしてみました。これ書くきっかけはというと、どうにも消えないタイトル詐欺臭をなんとかしたくて。なら他の子書けばいいんじゃないかと思いまして。

「あの、取り皿を2枚ください」


 ここは食堂兼酒場。おかしな会話ではないだろうに、調理場から料理を出した若者は絶句した。


 なぜなら異性に食器を求める言葉、それはこの近辺では未婚の男女間に限って求婚の意味があるのだよ・・・





 昨今、カストルファン大陸では小旅行ブームだ。かつては新婚旅行に他大陸に1か月ほど行ったものだが、それ以外では仕事や子育てがひと段落するまで家を空けることはなかった。だが人は衣食住に不足がなくなると娯楽を必要とするもので、各国はそれぞれ自国の観光ガイドブックを作成しだした。


 ただ自国民だとどこがアピールポイントかわからず、まずは他国に行ったことのない人たちにモニターとして自由に旅行してもらった。すると自分たちでは思いもよらない下町の酒場も好評だということがわかり、


「え?うちが特集?」


「ええ、前回の若い女性客向けのランチ特集が好評でして。くわしく個別にもやってほしいと」


「まぁ、うれしいわ~。留学生さんに色々聞いた甲斐があるわぁ。今度ごちそうしなきゃ、うふふ」


 女将さんのほくほく笑顔を見ている青年もつられて嬉しそうになった。「観察」スキルを持っていたため、幼いころから「よ!将来は大臣さんだな」と言われていたが、学院で学ぶころにはそれよりも目指したい目標ができた。両親も応援してくれ無事卒業、晴れて王伝編集官となった。


「最初の王伝編集官と呼ばれた人物は『私は望むものを記し残した。君たちもそうあるといい』と言われた。私もそうしてきた。次は君たちの番だ」


 祝いの言葉とともに金色に輝く証と本を一人一人に贈るのは宰相。くすぐったく心に湧くのは選んだ仕事への誇りと幼い頃の自分。僕にとっては見知った人々の日常こそなによりも愛おしい。彼らを残したい。自分と木工職人の息子と酒場の息子。3人組幼馴染はよく遊び、よく学んだ。そして意外ともてなかった。彼らに向けられる好意がないわけでもないのだが。


「ちょっと見て。あの子誰狙いかしら」


 一人で突撃するとそう思われる。では3人ならいいのかというと。


「狙った相手に気に入られるとは限らないのよね」


 3組同時成立でないと友情に亀裂がはいる。女児でもわかる難易度だった。友人知人先輩後輩。目には見えない彼女たちの攻防の末、彼らは女性慣れしないまま純情僕ちゃんに育ったのだった。





「嬢ちゃん、はいよ取り皿」


 固まったまま動かない跡取り息子に肘鉄食らわせて親父さんは慣れない愛想笑いで皿を渡す。ホールには女将さんと彼の妹もいるが支払いと配膳で手は空いていない。観光できた女性客もそう思い取りに来たのだが。今のやり取りに思い当たることもないので礼をいって戻っていった。


 3人組の女性客は他国から来たのだろう。仲良く食後に回る予定の場所のことを話していた。ただその中の一人がちらちらと調理場に目を向けていた。あいつにもようやく春がくるのかも。



 後でランチ時は取り皿と水はセルフにしたらとかアルバイトも増やしたらとか提案しておこう。一人客ならワンプレートがいいらしいが、友人同士なら別々に頼んで分けるんだなと新たな発見をした。


 ん?暇してるんじゃないよ。気になった日々のできごとをレポートにまとめて報告するのが今の仕事だから。取り皿のことじゃないよ。むしろ2人の反応の違いだ。この辺は昔から木工関係の仕事してる人が多いんだ。職人には弟子がいて、彼らは腕を上げると食器を作って好きな子に贈ったんだ。


「この食器で毎日君の手料理を食べたい」


 うまくいった話が増えると使う言葉も増えてくる。時代も経ると職人以外にも使われるようになり、今や女の子からの告白にも使われるそうだ。


「この食器で毎日ご飯つくってあげる」


「このペアカップほしいな」


 言葉は増えても食器が関わるのが共通で、それはいつしか文化となった。それらを日々まとめていると新たな出来事があった。酒場にアルバイトの女の子が来るようになってから妹ちゃんの様子が変なのだ。兄とアルバイトの子のやりとりを見ていて機嫌が悪くなる。友人であるその子と兄が仲よくなるのが気に入らないとかではないらしい。ある日の仕事終わりに


「このままじゃだめだわ!」


 仕事着のまま着替えもせず夜の帳に飛び出していった。びっくりしている兄に一声かけて後を追う。


「行先はわかるのか?」


「わかるよ」


 最近、木工職人のあいつは一人暮らしを始めた。親方である親父さんの弟子卒業の課題に食事もおろそかになるくらいがんばってる。それを心配して、妹ちゃんが差し入れにいってるのも知ってる。でも他の女の子もやってるからね。焦ってるんだろう。あえて急いで追いかけないのも僕なりの思いやりだ。


 やがて静かな夜の街並みに大きな声が聞こえてきた。さらにゆっくり近づき「聞き耳」発動。・・・そんなスキルないけどね。


「こんな遅くどうしたんだい?」


「・・・」


「兄ちゃんとケンカでもしたのかい?」


「!・・・・・なのよ」


「え?」


 顔を赤くしてうつむいたから彼には聞き取れなかったが、「観察」スキルは聞き逃さないよ。


 『なんでいつまでも妹扱いなのよ』


 そうつぶやいて顔を上げたときには自らに対する怒りと、わかってもらえない悲しさが混ざりあっていた。初めて見る妹ちゃんの泣きそうな顔に想い人は兄と同じ戸惑いの表情をしてる。それは自分が3人の「妹」の立ち位置に甘えていたからだと知ったのだ。


 おおっと、妹ちゃん風呂上りの若者に抱き着くという暴挙にでた。家族に報告案件だ。


「同棲?そんなもんまだだめに決まってるだろう!」


 後で2人とも親父さんズに怒られるがよい。


 妹ちゃんの勢いを受け止めきれず抱き着かれたまま尻もちをつくと、やつは致命的なミスをしでかした。泣き出した妹ちゃんをつい「背中ポンポン」したのだ。これは完全に子供扱いだろ。今の妹ちゃんからするととどめを刺されたようなものだ。怒りが頂点に達した彼女は抱き着いた相手を押し倒した挙句馬乗りになって、ご近所にまで響く大声で叫んだのだ。


「あんたのへたくそな食器はあたしがもらってやるんだからぁ~~~~~」


 あ~、これで外堀が埋まった。もうこれ以上は見る必要ないやと思い戻って報告をする。すると女将さんは


「あらあら、まぁやっと?」


 もう妹ちゃんの花嫁姿を想像したような笑顔だ。ええ、ええ、言われた本人以外関係者皆知ってましたとも。逆に親父さんは頭から湯気が出てきそうだ。やれやれ。もうじき妹ちゃんを送ってくるだろう我が友に忠告しとかないとな。今はやめとけって。


 でもなぁ、このこと書くとしてタイトルどうしようか。あ、そうだ、さっきのセリフもらおう。




「私に食器をくださいな ーーー 国別求愛語録集」




 ちなみに彼が書いたこの冊子、1か所編集会議で直された。


「私に食器をくださいな ーーー ウェディングストーリー」




 各国の学院図書室・街中図書館の恋愛小説コーナーにそっと並ぶことになった冊子は、いつのまにか他国の同僚たちも参加してシリーズ化していた。甘いのも酸っぱいのもしょっぱいのもあるそうな。

これ書いてふと思い出したのは、30年も前ろくに言葉も話せないのに一人で欧州行ったこと。食べたい料理のメニューわかればなんとかなるなるで押し通した。若かったなぁ・・・

 

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