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プロローグ2 邂逅

 瞼の奥に光を感じた。意識がある――そのことにまずは驚いた。どうやら私は横たわっているようだ。背中を支えるものはない、しかし落ちてゆくような感覚もない、不思議な感覚。

「もしもし、時間じゃよ。もしも~し」

 やる気のなさそうな女性の声が耳に届く。私はゆっくり目を開けた。

 そこは真っ白な空間だった。天井の高さは――いや天井があるのかさえも分からない。身体を起こし辺りを見回すと、上下前後左右、どこを見ても無限に白が広がっていた。

「ようやく起きたか」

 先ほどの声が、今度は耳のすぐそばで聞こえた。声のした方に顔を向けると、人の顔が迫っていた。私は驚き飛びのいた。

「なんじゃ、そう驚くこともあるまい」

 と言って彼女はくすくすと笑う。私は彼女をまじまじと観察した。彼女は私と目を合わせるためにしゃがんでいた。顔立ちはきれいだと思う。服装は鮮やかな緑で古代ギリシアの着付けに似ている。桃色の髪はその服装によく似合っていた。頭にはアイリスの花をあしらった冠を戴いている。

「いくつか訊きたいこともあろうがそう焦るでない。それから落ち着いて聴くのじゃよ」

 目覚めてから抱いていた疑問の数々をとりあえずは飲み込むことにした。彼女は立ち上がる。その背格好は意外と小さく、出るところも出てない様子だった。

「失礼な奴じゃの! 初対面の女子に発育がよくないとは!」

「待て、心が読めるのか!?」

「ああ、なにせ神じゃからな!」

「神?」

 いくら社内一冷静で通じた私でも展開についていけない。一方神と名乗る少女は、そんなこちらを気にすることなく、私の周りを回りながら淡々と話し続ける。

「大方察してはいると思うが、そなた、清水勝雄は死んだ。じゃが事故死ということで、そなたの寿命は余っておる」

「事故まで運命かと思っていたが……」

「あれはイレギュラーじゃった。しかしそなたも社畜じゃのお。最期の後悔が仕事に関することとは」

「好きな仕事なんだ」

「そうじゃろうとも」

 彼女は私の後ろで立ち止まり、その手が私の右肩に置かれる。その手つきは優しかった。私が頷くと、その手はゆっくりと離される。

「で、寿命が余っているということでそなたは転生できることになったぞ」

「へえ、どんな世界に?」

「どんな世界がいい?」

「え、選べるの?」

 よく読む話と違った。私がたまに読んでいたネット小説では、オークか魔王が跋扈する中世ヨーロッパ風の魔法世界に有無も言わさず飛ばされるのだがここでは選べるという。少女は私の目の前で立ち止まり、胸を張ってみせた。

「もちろんじゃ! そなたは徳が高いからの。希望する世界を用意してやろう」

 迷うまでもなく答えは口を突いて出ていた。

「じゃあ鉄道の発展した世界、そして食事の美味しい世界」

「いいじゃろう。そなたの願いを叶えてやろう」

「ああそうだ、訊くのを忘れていた。その世界で私はどんな役割なんだ?」

「それはその世界でそなたが決めることじゃ」

 なるほど、私の異世界転生はRPGではなくオープンワールドのようだ。

「じゃあひたすら鉄道に乗ってもいいわけだな」

「無論、好きにするとよい。ああそうじゃわしからも。そなた、名前はどうする?」

「名前?」

「ああ。ちなみに固有名詞に使われる言語は、そなたの世界でいうところの印欧語族になるが」

 印欧語族、つまり、アルバニア語、アルメニア語、イタリック語派、インド・イラン語派、ケルト語派、ゲルマン語派、バルト・スラヴ語派、ヘレニック語派の8つの語派の総称だ。とはいえそれでも十分に絞り込めているとは言えない。私は無難に英語名を名乗ることにした。

「ウィナー=クリアウォーター」

「つまらない名じゃの」

「私らしくていい」

「じゃあ、転生させるでの」

 視界が白い光に包まれる。少女の姿が霞んでいく。そうだ、訊き忘れていたことがあった。

「そうだ神様! あなたの名前は?」

「わしの名か? そうじゃのう……。アイリス、とでも名乗っておくか」

 少女は最後に冠の紋章の花の名を名乗った。

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― 新着の感想 ―
[一言] 印欧語だからと英語名にしてアルバニア語の世界に飛ばされたら死にそう(アルバニア、英語は通じないし挨拶すら覚えないほどの難解な現地語大師よぉ……)
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