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猟人の星  作者: 伊藤 薫
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[4]

 重く垂れこめた灰色の雲から、雪が降り続いている。


 普通なら今ごろは暑いアウグストの誕生月なのに、何で雪が降るのだろう。ぼくがぼんやりとそんなことを思い、軍曹に話しかける。軍曹はブランデー入りの熱い紅茶を啜りながら言った。


「帝国軍の作戦だろう」


 50日前、この星―サリュート星系第8惑星クルプキに突如、帝国軍は侵攻した。地殻に眠る鉱物資源を奪取することが目的だった。この星に駐留していた連邦軍との戦争が長期化し始めると、帝国軍は人工太陽を破壊し、この惑星を万年冬にしてしまった。


「兵糧攻めにしようとしているんだ」軍曹はそう続けた。


 ぼくが配属された歩兵小隊は、元公民館だった瓦礫になった建物を根拠地にしていた。連邦軍の兵士たちは窓から離れた暗がりにしゃがみ込んで、口々にぼやいていた。


「また撃ちまくってやがる・・・くそっ、アイツら眠らないのか?」


「興奮すんなって。たぶん、若造が自動火器で遊んでるのさ」


「ありゃ1挺だけじゃないぜ」


 遠くで、銃声が雷鳴のように轟いている。


 厳しい訓練を耐え抜いたぼくは2週間前、この町―ロヴァニエミを防衛する連邦軍の歩兵連隊に配属された。ところが、ぼくだけが小隊長が運転するジープで司令部に連れて行かれた。司令部は、街の郊外の屋敷に置かれていた。2階建ての赤煉瓦造りの屋敷。


 連隊長は屋敷の書斎で、ぼくに狙撃手である軍曹と組むように命じた。


「君はスポッター(観測兵)だ。軍曹をよく補佐するように務めること」


 ぼくはしゃちほこ張って高い声を出した。


「軍曹はどちらにいらっしゃいますか?」


「おそらく温室だろう」


 小隊長に「こっちに来い!」と怒鳴られ、ぼくは裏口から庭に出る。庭は柵つきの家庭菜園、バラ園、温室、厩などが散らばっていた。その間を石畳のテラスとおびただしい植え込みが縫っている。

 

 小隊長はガラス張りの温室に入り、ベンチに寝ていた兵士に歩み寄った。傍らに狙撃銃が立てかけてある。連邦軍制式のボルトアクション式ライフル―エミル・レオンM19/30。倍率3・5倍のPU光学照準器を装着していた。


 顔の上にベレー帽を載せて寝ている兵士を顎で示して「これが軍曹だ」と言い、小隊長はぼくをその場に残してどこかに行ってしまった。ぼくは軍曹を揺り起こす。


 軍曹はそのままの姿勢で「何だい」と眠そうな声を出した。「大ダコが来るか、戦争が終わるか以外のことでは起こすなと・・・」


「軍曹の観測兵になるよう命じられました」ぼくは言った。


 顔からベレー帽を取り、軍曹は起き上がった。白い肌に短くまとめた鳶色の頭髪が映えている。軍曹はじろじろとぼくの顔を見た。


「だいぶ若く見えるな。何歳だ、えっ?」


「13歳です」


「なんだと」


 ぼくの答えに、軍曹は思わず眉をしかめた。


「ちょっと待ってろ」


 軍曹は狙撃銃を肩に吊るして温室を出た。ぼくは思わず軍曹の後をついて行った。軍曹が向かったのは連隊長がいる屋敷の書斎だった。連隊長は軍曹の顔を見ただけで用件を察したらしく、面倒そうな表情を浮かべる。


「今度の観測兵、まだ子どもじゃないですか」


「今は兵士の数が足らないんだ。そんなにとんがるな」


 連隊長は苦々しく言った。


「戦場で子どものお守りはできません」


「君が好むと好まざるとに関わらず、この星に子どもはいない。全員が兵士だ。この星で戦争が始まった時点でだ」


 軍曹はため息をついた。


「世も末ですな。子どもが戦場に出てくるなんて。この戦争は下手したら負けますよ」

 

 軍曹は結局、ぼくを連れて、撃ちあいの現場を渡り歩くことにした。軍曹は短期間に、目覚ましい勢いで戦果を増やしていった。1日に15人もの帝国軍の兵士を仕留めたこともあった。敵にも徐々にその名前は恐怖とともに知れ渡るようになった。

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