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猟人の星  作者: 伊藤 薫
12/12

[12]

『本日、半年に及ぶ聖戦の後、苦闘に耐え忍んだロヴァニエミは・・・』


 ラジオやニュースは連邦軍の勝利を告げていた。破壊された人工太陽は修復され、惑星の長い冬も終わらせた。生き残った兵士や街の住民は嬉しさのあまり、降り注ぐ陽光の下で誰彼なく出会った人々を抱擁した。


 連邦軍総司令部はクルプキの防衛に従事した部隊に対して、大々的に褒賞を発表した。ところが連邦軍の人事部長がクルプキに向かう輸送船を待つ間、40個の勝利勲章が入っているスーツケースを失くしてしまった。翌日、スーツケースはクルプキの宇宙港の片隅にある倉庫で見つかった。勲章が1個無くなっていた。おそらく酒をひっかけて酔った兵士が自分の活躍をちゃんと評価していないと考えて失敬したのだろう。人事部長は「はなはだしい不注意」の廉で告発されて軍事裁判にかけられた。


 ロヴァニエミでは、司令部が置かれた郊外の屋敷に勲章の受賞者が招集された。他に集まったのは受賞者の仲間で、手が空いていた兵士たちだけだった。


 連隊長が兵士たちの左胸に勝利勲章を留める。受賞者はレイラ・ヤコヴレフ軍曹の他に歩兵小隊の機関銃手、砲兵隊から来た砲兵だった。砲兵は式典に出られなかった。小隊長が代理で勲章を受け取った。その受賞者の砲兵は前日、戦死したからだった。


 宿舎では勲章を授与された機関銃手を囲んで、祝杯をあげた。仲間は勲章のメダルを酒が入ったグラスに落とす。機関銃手はそのグラスを受け取り、酒を最後の一滴まで飲み干して勲章を歯で咥えてみせる。周囲から歓声が上がり、また誰かが乾杯の音頭を始める。


 束の間の勝利にわいて祝杯を何度もあげる兵士たちの中に、レイラの姿は無かった。

 

 ぼくは眼を覚ました。衛生部隊のテントの中は明るかった。久しく見なかった陽光が射しこんで眩しいぐらいだった。ベッドに仰向けに寝ているぼくは胸の辺りに何かが置かれていることに気づいた。胸元に手を伸ばす。冷たい感触。胸に置かれていた物を顔の前にかざした。金色のモールが入ったリボンのついた銀の星形をしたメダル。ぼくはメダルと一緒に添えられた手紙を女の看護兵に読んでもらった。


『私に女性狙撃手として初めてとなる勝利勲章の授与が決まった。驚きだった。その栄誉に値するような働きを、私は何一つしていない。もしこの星の戦いで栄誉を浴するべき者がいるとすれば、それは貴官らこの星の住人であるはずだ。餞別として貴官に私の勲章を渡しておいた。どうか受け取ってほしい。

 

 そんな謙遜じみた受章の感想すら、今の私には白々しい。私は以前とは違い、戦争で受ける勲章や名誉などにはしゃいだり喜んだり、覚悟を新たにするなんていう気持ちにはもうなれない。それどころか、戦争という殺し合いの世界で、また消し去ることが出来ない不幸な烙印を押されたような気分だ。

 

 今の私にとって戦争とは、悲惨で残酷なものだけだ。焼け焦げた廃墟の街。路地に重なる腐乱した遺体。異星の住人たちの怯えた眼差し。貴官の身体から溢れ出た血液。衛生部隊のテントの中で手足をもがれた負傷兵の呻き・・・戦争での勇敢さや愛国心、栄光、名誉、賞賛。そんなものは薄っぺらで嘘や偽善、まやかし事にしかみえない』


 終わりが来た。ぼくは突然、そう思った。自分が悲しいのか。軍曹を哀れに思えたのか。涙が溢れ出た。女の看護兵はぼくを抱きしめて、額にキスをしてくれた。胸が引き裂かれている。脳裏に浮かぶ乏しい語彙でそう思った。


 ぼくは声を上げて泣いた。

最後まで、お読みいただきありがとうございました。

わずかな間だけでも楽しんでいただけたら幸いです。

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