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第04話 ユウヒ色の景色

 光が収まると、目の前は岩と砂だらけの荒野だった。

 後で聞いたが、転移魔術によって戦士たちは専用のバトルフィールドに飛ばされる、という設定らしい。


 自分の状況を把握したのもつかの間、大きな音が鳴り『バトル開始!!』と画面に表示された。


「いきましょうユウヒ様!」


「いや、実は……えっと」


 流れで戦うことになったが、このゲームのことは何も知らないのだ。

 ようやく対人(PvP)がメインのゲームだということはわかったが、それ以外は何もわからない。


 だが、彼女は僕のことを勇陽だと思い込んでいる。

 今さら基本的なことを聞いたら、怪しまれるかもしれない。

 でもそんなこと言っていられる場合ではなさそうだ。


「……ちょっとしばらくプレイしてないうちにド忘れしちゃって。どうすればいいか教えてもらっていいかな?」


 口から出たのは、かなり苦しい言い訳だった。

 カナホもぽかんとしている。ちょっと自分のバカさ加減に自己嫌悪しかけたが。


「えー!!?? でもそんなユウヒ様もお茶目でカワイイですぅ!! 仕方ないですねぇ、アタシが思い出させてあげちゃいますぅ!」


 この子もバカなようで助かった。

 ある意味、勇陽にぴったりな相方だ。


「いいですか? このフィールドには今、10チーム計20人のプレイヤーがいますぅ。武器や魔法で相手を倒しながら最後まで生き残ったら勝ちですぅ!」


「武器は……これか」


 背中に背負っていたバカでかい長剣を手に持ち、軽く振ってみる。

 現実なら、振り回すどころか持ち上げることすらままならないであろうサイズだ。

 だが、今はまるで棒切れかのように振り回すことができる。

 現実の竹刀よりも軽く感じるぐらいだ。


「ユウヒ様の武器はいっつもそれですよねぇ。攻撃力は高いけど、普通なら重くてスピードが下がるはずなのに、全然そんなの感じさせないぐらい速いんですよねぇ。ステータスがやばいですぅ」


「ステータス?」


「初期値は役職ロールごとに決まってますけど、プレイヤーがある程度好きに振り分けられるんですよぅ」


 カナホに教えられるがままに、メニューからステータス画面を開く。

 役職ロールは『アタッカー』。攻撃力が高いが防御力が低い役職らしい。

 そしてHP(体力)、MP(魔力)、ATK(攻撃力)、DEF(防御力)、AGI(敏捷性)、MAT(魔法攻撃力)、MDF(魔法防御力)の7つのパラメーターが並んでいる。


「うわ、なんだこれ……」


HP 5400+0

MP 120+0

ATK  418+250

DEF  250+0

AGI  385+250

MAT 289+0

MDF 149+0


 +の後に書かれている、振り分け可能な分はATKとAGIに振り切っていて、その他の能力は全て最低値だ。

 圧倒的な攻撃力とスピードで攻撃し、相手から攻撃は全て避ける。

 そういう考えがひしひしと感じられる。

 バランスなんて知ったものか、と言わんばかりのバカビルドだ。


 これじゃあ攻撃役アタッカーじゃなくて狂戦士バーサーカーだ。

 あまりのことに頭を抱えてしまう。


「あのバカ……こんなので勝ってたのか」


 自分はゲームをするとき、どちらかと言えば防御重視に育てたいタイプなので、まるっきり逆だ。

 というか、こんなの勇陽か小学生にしかできなさそうなビルドだ。


「ちなみにこれ、パラメーターの振り直しってできるの?」


「できますけどぉ。課金するか超レアなアイテムを使わないといけないですぅ。それに、どっちにしろ対戦中は使えませんよぉ?」


 一応それらしき物はアイテムボックス欄の隅にあったが、高価なものなら勝手に使うのは悪い気がする。

 ともかく、今はこのビルドで戦うしかない。


 あとは、2人ともHPが0になってしまったチームが脱落。

 基本的に敵にダメージを与える方法は2通り。

 持っている武器を使った通常攻撃か、スキルを使用した攻撃かだ。

 魔法は残念ながら、ユウヒの役職ロールでは使えないらしい。


 ドーム球場ぐらいの大きさのマップを歩き回り、他のプレイヤーを倒していき、最後まで残ったチームの勝利。

 ただし時間経過でマップはどんどん狭くなっていく。


 歩きながらカナホに教えてもらった基本的なルールはそんなところだ。


「最初の1分ぐらいは交戦しない位置になってるはずですけど、そろそろ敵に見つかってもおかしくないですぅ……あ、ほら! いました!」


 岩陰に隠れながら少しずつ進んでいたのだが、前方に剣を持ったプレイヤーが2人、あたりを警戒しながらこちらに背を向けて歩いていた。


「やってやりましょうユウヒ様!」


「あ、ああ……」


 ゲームとはいえ、人に斬りかかるというのはちょっと怖い。

 まるで本当の戦場にいるかのような臨場感。

 現実ではないというのに、足が震える。


 ふいに、頭をよぎってしまう。

 もし、負けてしまったら?


 今の僕は、『ユウヒ』という仮面を被っている。


 負けた時に『やっぱり大したことなかった』、『ただラッキーで勝っただけだった』。

 そう思われてしまうのは、僕じゃない。勇陽だ。


 僕自身はいくらバカにされても構わない。

 でも、あいつがバカにされるのだけは許せない。


「どうしたんですぅ? いつものユウヒ様らしくないですぅ!」


 ああ、そうだ。

 勇陽だったら、きっとこんな情けない姿は晒さない。


「大丈夫ですぅ! ユウヒ様なら、いつもみたいに敵をバッタバッタと倒して、あっという間に私を勝たせてくれるはずですぅ!」


 いつもの勇陽なら、そうだろう。

 でも、僕はあいつじゃない。

 外見アバターは勇陽の物でも、僕はあいつのおまけだ。


 あいつは試合の時、びびっていたか?

 ……まさか。


 たとえ相手が年上の男でも、自分より背が大きくても、どっかの大会の優勝者だろうと、恐れを知らないかのように構わず突っ込んで行っていた。

 そんな勇陽は、僕にとってはヒーローであり、憧れだ。


 僕はずっと、あいつになりたかった。

 僕じゃ、あいつにはなれない。


「大丈夫ですよ」


 ふいに、カナホが両手で僕の手を優しく包んだ。

 温度を感じる機能なんかないはずなのに、その手はあたたかく感じた。


「あなたなら、できます。あなたしか、いないんです」


 そうだ。今ここに勇陽はいない。

 あいつの名誉を守れるのは、僕しかいない。


『お前に託す』


 勇陽は僕に託してくれた。

 僕は勇陽の戦い方は何度もこの目で見てきたんだ。

 世界中の誰よりも、あいつの動きを知っている自信はある。


 だから、あいつのように戦おう。

 勇陽がラッキーで勝っただけの雑魚だなんて、絶対に言わせておくわけにはいかない。

 勝って、あいつが本当に強いやつだということを証明するんだ。


「ああ……そうだね。よし、やるか!」


 僕は……いや。

 オレは今、『ユウヒ』なんだ!


「オレが後ろから斬りかかる。カナホは……」


「私は補助サポート専門ですぅ! 援護は任せてくださいですよぉ!」


「……わかった!」


 カナホに背中を任せ、敵の前に飛び出す。

 体が驚くほど軽い。走る足も、剣を振る腕もほとんど重さを感じない。

 まるで羽が生えたみたいだ。

 今なら誰にでも勝てる気がする。


「はぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!」


 剣を思いっきり振りかぶり、相手の懐に飛び込んだ。

 向こうもこっちに気づき、持っていた剣で防ごうとしたが、間に合いはしない。


───ズシャッ!!!


 斬撃のSEが鳴り響き、ダメージが表示される。

 一撃で1000以上のHPを削ることができたが、まだ倒すには至らない。

 頭上に表示されたHPバーはまだ半分ほど残っている。


 相手は慌てて体勢を立て直し、こちらに向かって剣を構えようとする。

 だが、その動きは酷くノロノロとして見えた。


 敵が得物を振り下ろそうとする前に、こっちは剣を持った腕を大きく前に出した。

 そのまま相手の胸に突き刺さり、残りのHPを奪い去った。


『サカタを撃破!』


 撃破表示が出たその瞬間、


「うおおおおおおおおお!!!」


 後ろから、もう一人が斬りかかってくる。

 だが、遅い。遅すぎて止まって見えるぐらいだ。


「ハッ!!!」


 即座に横に回り込み、思いっきり胴を薙ぎ払った。


『ショータを撃破!』


 一瞬で、2人のプレイヤーが光になって消えさった。


───やった、倒した!


 圧倒的なスピードと力で、目の前の相手をなぎ倒していく感覚。

 そして得られる高揚感。

 これが、勇陽の見えている景色なのかもしれない。

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