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9話

「ははは」


自分の喉から乾いた笑いが聞こえる。


誰でしょう、この鏡に映る女性。


「メイクでこんなに変わるのですね。頭を殴られていきなり異世界に飛ばされたのかと思うぐらい別人だわ」


「あなたはものすごく化粧映えするわ。少しメイクを変えるだけで別人ね」


化粧をしてくれた女性が鏡越しに頷く。


「このメイクはパーティ向きよ。これを落として普段用を施してみるわ」


「なんともったいない!こんな別人になった顔を家族に見せたいのに」


「じゃあ、最後の仕上げにこのメイクをもう一度あなたにやってもらうことにするわね」


「気絶してもいいですか・・」


普段用、清楚、セクシーと3パターンを試し、それをまた落としてから、普段用を自分の手で塗り重ね、最後に別人メイクを教わりながら施した。


でもこれはいつかステラにも見て欲しいから、必死にメモを取って覚える。


クタクタになって帰宅して、リビングに入ると両親と弟のアベルが「誰!?」と驚いて絶賛してくれた。・・・メイク後を褒められると複雑な気分ね


今日で全てのレッスンが終わった。3日後にリカルドに「自分で1番似合うと思う服とメイクをして見せて」と指令が。・・一晩寝て全て忘れてないといいけれど。



□  □


「・・・」観察されている。無言で。


「70点」


「ええっ!」


「メイクがところどころ荒くてはみ出してる。まあこれは慣れしかないかな。服は今日のメイクの色にいまひとつ合っていない」


「ら、ラジャ」


「リカルドは厳しすぎるの、私から言わせて貰えば最高よ!素晴らしいわ!」


「本当?」


「ほら!リカルドが厳しすぎるからエマが萎縮しちゃったじゃない。どんなメイクをしてもどんな服を着てもエマの魅力的な中身には敵わないのだから、メイクや服はほどほどでいいのよ!リカルドが最高で厳しいアドバイザーっていうだけ」


「ステラが今日も美しい」中身も外見もいつだって綺麗。


「エマが涙目だわ」怖い目をしてリカルドを睨みつけるステラが珍しくて滲んだ涙が乾いていく。


「そうだね、アドバイザーとして厳しい点をつけたけど、友人として評価するなら90点」


「上がりました!」


「この子のこういうところ、可愛いね。でもエマは『これぐらいでいいだろう』とどんどん適当になっていく性格な気がする」


「うっ」


見抜かれている。


「僕の手掛けるブランドのイメージのためにも、油断しないでね」


「そんな重い責任をいつの間に背負わされて・・」


「僕にアドバイスされるということはブランドミューズであると了承したことになる」


「・・ステラ?」


「ごめんなさいね」

少しも悪びれない様子で謝られた。


「ブランドインセクトもしくはブランドバグなんて新しいんじゃなくて?ミューズなんて恐れ多いわ」


「昆虫を推すね。あ、でもバタフライシリーズとかレディバグシリーズとか展開したら面白そうだ。いいね、エマ」


ほんのちょっとの会話で次に手がける商品に繋げるなんて。


「新しいシリーズの広告塔にステラとエマになってもらおうかな。来週また二人で来て」


「いいわよ」

「・・いやです」


「ん?」これだけ世話をしてやっているのに断る選択肢があると思うのかと、リカルドの表情で空耳が聞こえた。


新商品のテーマに昆虫を使うなら是非ともカミキリムシを入れてもらおう。心でひっそり決意する。ルリボシカミキリなら取り入れやすいはず。



□  □


「で、どうしてメイクをしてきていないの?」


「羽化したことに気づかれないよう、じわじわ足していこうかな、なんて」


「まずは・・髪かしら」


「ええ。髪をおろすのも勇気が必要なのよ。明日はチークを足してみるわ」


「うふふ。エマらしくて可愛い」


「リカルド様のチェックを受ける日までには羽化完了予定よ」


「厳しいものね」


「ステラはリカルド様と仲良しなの?」


「好きだったの」


「・・え?」


「すごく好きだった。でも、エマを見ていて私も変わりたいと思ったわ」


「どう変わりたいと?」


「新しい恋をするの」


「ステラ!」


愛しさが込み上げて思わずステラを抱きしめてしまった。


「恋のライバルになるかもよ?」


「ステラのためなら同じ人に恋なんてしないわ!」


「だめ。ちゃんとお互いに頑張るの。ライバルになっても乗り越えて友達でいましょう」


「わ、わかった」


「うふふ、楽しくなってきたわ」


□  □


私が地味なりに少しずつ変化していくように、ステラがにこやかに色んな生徒と話しているのをみかけるようになる。


□  □


「ステラが変わろうとしている・・」


オスカーが寂しそうな顔で呟いた。


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