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8話

「どこに行くのですか?」


「今、東の森林公園に移動遊園地が来ているらしい」


「まあ!小さい頃に1度だけ行ったことあります」


「オスカーとステラは付いてくる気か?」


「もちろんですわ」

「行く」


□  □


「こ、こんなにガタガタと揺れるものでしたか」


「これは壊れる恐怖感のほうがすごいな」


セオドア様と二人で乗ったコースターが思いのほかスリル満点で、降りたときには体のあちこちが強張ってしまっていた。


「オスカーとステラも乗ってみて」


「やめておくよ」

「やめておくわ」


「せっかく遊園地に来たのに」


オスカーを挑戦的な目で見つめてみる。


「オスカーはチキンでいらっしゃる」


「今度は鳥か。犬だと相性が良かったのに」


「!!」


「また二人でもじもじするのはやめてくれないか」


「では、エマが私と一緒に乗ってくれ」


「んな」


「鳥になったのかな?」


「ステラと乗ってください」


「私は乗りたくないわ」


片方の眉を上げて私を挑戦的に見てくるオスカーに


「しょうがないですね、一緒に乗ってあげます」と強がって偉そうに答えると


「ありがとう」眉が同じ高さに戻った。


□  □


「に、2度目のほうが別の恐怖感が加わります」


「弱虫だな」


「私は1度乗って、さらにもう一度挑戦する勇者」


「えらいえらい。そんなに怖いなら、手を繋いでおこう」


「手を繋ぐ余裕など、この乗り物には発生いたしません」


「残念」


いざ動き始めると、オスカーが楽しそうに笑い始める。


「お狂いあそばして?」


「見ているより楽しいな」


「こ、これを楽しいと」


「余裕のない君を見るのが楽しい」


「ややS気味でいらっしゃる・・」


「そうかもしれないな」


「そんなこと認めないでくださいーー!」


「あはは」



□  □


ステラがサディストに寄り添える性質ならぴったりよね。まあ、知らないんだけど。

コースターを降りたときにほんの少しそう思った。


よろよろとベンチに腰掛け休んでいると、セオドアさまが飲み物や食べ物を運んで来てくれた。


「何か食べると回復することもある」


そう言って差し出してきたたのは美味しそうなクリームが乗ったカフェオレで、飲んでみると甘さが体に染み渡る。


「セオドア様が最高に優しい」


「珍しく褒められた」


「珍しいかしら?」


「変態扱いしか記憶にない」


「おかしいですね。いつも褒めているつもりでいたのに」


「え、どこが?」


「オスカーのことは少々貶していて、セオドア様のことは心の中で褒めてしまっていたのかしら」


「心の中で褒めてくれていたんだ・・」嬉しそうに瞳が揺れる。


「あ・・・」


「ん?」


「いえ」


今、一瞬セオドア様と樹か重なった気がした。



□  □


「オスカーとステラが一緒に白馬に乗っているのを見たい」


回転木馬に二人を誘導してお願いしてみる。


まるでおとぎ話のような気がして。そんな絵になる二人を見ることができたら、私の理想をステラに押し付けるのを卒業しよう。


「いいわ」


二人が並んでいる光景はやっぱり美しくて、私の中のおとぎ話が完結した。

ステラを言い訳にして、前に進もうとしなかった自分も楽しかったけれど、


「やっぱり変態の季節です」


無意識に呟いた言葉にセオドア様が「楽しみだ」と返してくれた。


□  □


「ステラ、お願い!」


「えっと・・?」


「どなたか美容アドバイザーを紹介してくれない?」


「エマ!」


ステラが瞳をキラキラ輝かせて私の手を握ってきた。


「ついに!ついにこの日がきたのね」


「ど、どうしてそんなに興奮して・・?」


「私の隣でどんどん地味になっていく親友に私がどんなに寂しい思いを抱えていたか」


「そんなに?!」


「地味でも大好きよ。エマならなんだっていいの。でも着飾るエマも見たかったの」


「着飾るとまでは言っていないわ」


パチンと両手を合わせてにっこり微笑み


「エマにずっと紹介したかった人がいるの」


□  □


「で、あなたが」


「よろしく、エマ」


「オスカーに似てるような」


「オスカーは弟」


「紹介するわ、オスカーのお兄様でリカルドよ」


「なんて美しい・・」オスカーよりさらに中性的で大人の魅力が加わっている。


「ありがとう、エマ」


ここまで美しいと蝋人形に見えてくる。暑いところに置くと溶けるかしら・・


「リカルドに任せておけば大丈夫だから」


「よろしくお願いします」


「エマはどうなりたい?」


「完全変態でいう成虫です」


「うん、独特なんだねエマは」


「たぶん今、サナギあたりだと思うのです」


「どんな蝶になりたい?」


「素材を最大限活かせればそれ以上は望みません」


「ふうん」


「モンシロチョウのサナギがモルフォチョウのサナギに変更は出来ないから」


「・・・」


「はっ!私は蝶ではありませんでした!」


「・・」


「カミキリムシでお願いします」


「リカルド、とびきりチャーミングなカミキリムシに羽化してみせて」


「ステラの頼みならなんでも」


微笑むリカルドの美しい顔にほんの一瞬別の何かが混ざる。



□  □


「とりあえず数年はこのシルエットでドレスを作るようにして。服はこれだけ買えばしばらく困らない。髪は前髪を切る。顔は眉を整えるだけで随分垢抜ける。元が綺麗だから濃い化粧も必要ない」


「ら、ラジャー」


この3日、自分に似合う色や形を提案され、リカルドが鬼軍曹に見えてきた。


明日は髪型を整え、メイクを教わる。サボっていたおかげでまぶたに何色を乗せればいいのかすらわからなくなっているのでありがたいけれど、気力をガリガリと削られてもう疲労困憊。


羽化って大変なのね。

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