7話
「自分の内面を晒すことと、犬として番おうとしているところを見られるのと、どちらがより恥ずかしいのかわからなくて少し混乱しています」
「それは犬のほうだと思うのだが・・」
「自分の恋だの愛だのを考えるより、ステラの恋愛を考えているほうが楽なのかも」
「ふむ」
「ステラにはこんな人がお似合いかしら?それともあんな人?なんて想像するのが楽しくて、とびきりの人と結ばれて欲しいと思いつつ、自分の理想や願望もステラに重ねている部分が」
「ほう」
「ステラならどんな男性と恋愛することもできるでしょう?そうであってほしい。それでつい私の夢を重ねてしまっているかもしれません」
「エマの理想の男性ってどんな人だろう」
「あ、でも邪な気持ちもあって、ステラのそばで霞んでいる私に気がついてもらうには、ステラが早く結婚してくれたら助かるとも思ってます」
「僕は前からエマに気がついているよ」
「ありがとう。話していてわかったわ。私の中で、ステラに理想を重ねている部分のほうが大きい、と」
「どちらも自分のため、というのが本音かな」
「うっ。突き刺さる着眼点です・・」
「正直でいいと思う」
「内面を晒すほうが恥ずかしいとわかりました。そして、自分勝手だということも」
「いや、犬・・。まあ、いろいろ考えすぎなんじゃないか?」
「こんな私で良ければ、デート・・」
「さらに興味が増したよ」にっこり笑うセオドア様に久しぶりにときめいた。
□ □
「というわけで、セオドア様とデートしようかと思うのだけど、ステラが嫌ならやめるわ」
「嫌ではないのだけど、エマを取られるみたいで少し寂しいわ」
「ステラ!なんて可愛いの」
「ねえ、そのデートに私とオスカーも行っていい?」
「いいけど、それはもはやデートではないわね」
デートではなくなることが妙に面白くてクスクス笑っていると、
「私は、エマにはオスカーがお似合いだと思うの」ステラが呟いた。
「ん?今なんて言ったの?」
「ねえ、その日は髪をおろしてきてね。久しぶりにまとめていないエマの髪が見たいわ」ステラが私の編んでいる髪を優しく掴む。
「うーーん」
「エマのきれいな髪を見たいわ」
「おろすと邪魔なの」
「私のためにお願い」
「・・・わかった」
「嬉しい!楽しみにしてる」
「あと、その日着る服を一緒に買いに行きましょう」
「わざわざ買わないわ」
「エマに私の服を選んでほしいの」
「・・・わかったわ」
「嬉しい!」
今日はステラがなんだかおかしい・・
さっそく一緒に服を見に行くと、ステラの服を1着選んだあとは私に服を色々当てて着替えさせられる。ステラが褒めてくれたものの中から2着選んで、その服に合う靴も買った。可愛い服だし似合っていると思うけれど、たぶん着ないわ。
帰宅してから自分のクローゼットに服をかける。茶色、グレー、ベージュ、黒が占めている中に淡い綺麗な色が加わった。清潔感だけを大事に、形は動きやすさと着心地を優先。地味でいるのってなんて楽なの。
□ □
デートの日
「髪はおろさなきゃ」
毎日きっちり編み込んでいたので、ただ下ろすだけのスタイルに慣れなくて、なんだか切ってしまいたくなる。服や髪型のことを考えたのなんて久しぶり。ステラの横で霞むと言いながら、その状況をどれだけ楽しんでいたのかを自覚する。髪型を変えただけでなんだか落ち着かない。ステラと話す男性を観察するのも楽しんでいたの。
・・・ステラの頼みとはいえ、急に髪型を変えるなんてやっぱり変じゃないかしら。
なにかで身を隠したくなる。でも・・隠してばかりはつまらないとほんの少し思う。少し変態の時期が近いのかしら。あ、これは昆虫のほうの変態の話。カミキリムシも完全変態だから。
□ □
「今日は印象が違うね」
「変態の季節です」
「何を言っているのかな?」
ステラがオスカーと一緒に合流した。
「エマ!おろしてきてくれたのね」
「ええ」
「オスカー、エマの髪を見て」
「ああ」
「薄い茶色の髪に金色の髪が混じっているでしょう?」
「本当だ」
「この髪が光に当たるとものすごく綺麗なの」
「なぜ二人で私の髪を鑑賞しているの?」
「綺麗だからよ」
「やはり気分は虫です」
「うん?」
「変態の季節なんだそうだ」
「羽化が近いのかな?」
「やはりオスカー様は素敵ですね」やっぱりステラとお似合いだわ。
輝くような笑顔と髪に3人の心がまた動く。