5話
「ご飯を一緒に食べるというのは中々親密な行為なのだと知りました」
「ほう」
「いつもは家族かステラか1人で食べるのですが、こうやって4人で食べていると仲良くなったような錯覚をする心理システムなのですね。興味深いです」
「じゃあ、いつも私と一緒に食べているのだから、錯覚じゃなく本物の仲良しよね?」
「もちろんよ。私はとっくにステラが大好きで大切。仲良くできてるなんて奇跡よ」
「私のほうこそ、エマと仲良くできていることに感謝しかないの」
「では僕たちと食事を共にし続けていればいつかは本当に仲良くなれるってことだよね?」
「・・それはどうでしょう?」
「なんでそこで『はい』じゃないの?!」
「まあ・・異性ですし」
ステラの伴侶候補の方々なので仲良くなるにしても慎重になるのは当たり前だと思うの。後でステラにどちらの男性がより好みかを尋ねてみましょう。
「では、より親密になるために私に食べさせてみてくれないか」
「給餌ですか。興味深いですね。ステラは私がオスカー様に給餌しても構いませんか?」
「もちろんよ、むしろ見たいわ!」
「では」
比較的安全な距離を保ちつつ、ソースなどが垂れたりしないものを探す。ハムとチーズのサンドイッチなら大丈夫かしら。
「いざ!あーん」
「ふっ」
「笑いましたね」
「5秒待ってくれ。整える」
「5、4、3」
「ほんとに数えるのね」
「ほんとに数えるのか」
「2、1、はいあーん」
「あーん」パクっとオスカー様が齧りついた。
咀嚼しているオスカー様を眺めながら考える。
「たしかに、親密な錯覚を起こしますね。親鳥になった気分です」
「そっちか」
「そっちなのね」
「私は雛鳥の気分ではないが」
「ではどんな気分でしょうか?」
「なんとも言えない甘い気分だ」
「甘いですか。・・オスカー様はバブみがあるのですね」
「バブ?・・その言葉の意味は知らないが、褒められてはいない気がするよ」
「褒めていないこともないような。私も初めて使った言葉なので意味が不安定です」
「どういう意味で言ったか教えてもらっても?」
「赤ちゃん扱いされて喜ぶ可愛らしい変態かと」
「げほっ」
「どこに褒めてる要素があった?!」
「可愛らしい、変態」
「は?」
「『可愛らしい』は褒めてますよね?」
「そうね」
「そうだな」
「『変態』も褒めてますよね?」
「どうしてそうなる?」
「褒めてるかしら?」
「性的な意味で使うと侮蔑用語かもしれませんが、日常の行動で変態だと指摘するのは『人とは違うところで魅力を感じることができる希少なタイプ』という意味で使っているのですが、間違っていたのでしょうか?」
「うん?」
「人とは萌えのポイントが違うのは『変態』ですが、人と萌えや好みが違うのは当たり前で、より狭くて人があまり攻めていかない角度からの萌えを発見できている人に称賛の意味も込めて『変態』と伝えます。ただ、人には萌えのポイントを中々恥ずかしくて言えなかったりしますし、それを口に出せた時点でかなりの勇者。変態は勇者です!」
「なるほどな」
「じゃあ僕はこの前褒められたのか?」
「わたくし、変態になりたいわ」
「何か今おかしな呟きが混じっていた気が・・」
「まあとにかく、昆虫も『完全変態』の種がありますし、意味は違いますが、形に囚われず人と違う様は魅力だと思っています。蝶は美しいけれど、イモムシだって美しいんです。ついでにカミキリムシも。好みの違いだわ。だからステラ、無理に変態にならなくていいわ」
「ほんの少し昆虫扱いされた気がするのは気のせいかしら?」
「たぶん気のせいじゃないよ、ステラ」
「ステラはいつでもなんでも綺麗よ」
「なんの話だったかわからなくなった」
「オスカー様が赤ちゃんプレイが好きだという話です」
「絶対違うよね?」
「オスカー・・」
「濡れ衣にもほどがある」
「ふふっ」
「なんでそんなに嬉しそうに笑ってるの?エマ」
「やっぱりオスカー様は優しくて素敵です」
楽しそうにニコニコと笑うエマに3人の心がそれぞれ動いた。
□ □ □
「ところでステラ」
「なあに?」
「先程の男性二人の内、より魅力を感じている方はどちら?」
「ふたりとも魅力的よね」
「どちらかが飛び抜けているわけではない、と?」
「そうね」
「それは・・残念だわ」