4話
「随分変わった質問だね」
「実は、どの木だったのかさっぱりわからなくなりました」
「なるほど。だからどちらがより重要なのかを訊きたいと?」
「それっぽい木を探すのと、虫を探すのとでは探し方が違うかなって」
「虫のほうが興味がある。でも1番興味があるのは君だよ、エマ」
「あら、わたくしの名前を覚えてくださったんですね」
「以前から覚えてる」
「それは・・嬉しいです。とても」
「エマは好きな人がいる?」
「ああ。私、以前は人が好きでした」
「い、以前?・・人?」
「はい」
「今はもう好きではない、と?」
「正確には人間より木のほうが好きになってしまった、ですね」
「木を」
「はい」
「ええっと・・」
「愛情を秤にかけると樹への愛情が重くなってしまいまして。随分おかしな話ですよね。私も困っているのです」
「詳しく聞かせてもらっても?」
「思春期感満載の話になりますがよろしいでしょうか?」
「それは聞くと僕も悶えてしまうような話だろうか」
「どうでしょう?私はこれからする話を悶えるほど恥ずかしいとは感じていませんが、思春期というのは他人の羞恥心を刺激してしまう面も多々あると思いますので、もしかしたら身悶えするほど恥ずかしいかもしれません」
「ちょっとだけ覚悟を決める時間をもらってもいいか?」
「どうぞ。私は別に聞かせたいわけではないので。・・そうですね・・いきなり隣で愛の歌を熱唱されるようなレベルの恥ずかしさはないと思うので、そこそこの覚悟で大丈夫かと」
「愛の歌を披露されて喜ぶ女性もいるだろう?」
「そうですね。私もプロの方にそれをされると喜ぶ面もあるかもしれません。ですが、この場合は『素人が自作で愛の歌をいきなり伴奏も無しで自分に酔いつつ披露』というレベルでしょうか」
「なるほど。ナルシズムがポイントなんだな」
「セオドア様は理解がはやくていらっしゃるのね。自分に酔うというのは中々本人が気づきにくいポイントなのに、人が酔っていると精度抜群で気がつくものですね」
「そうかな?」
「あ、まさに酔っ払いに似てるのでしょうか。酔っ払いに『酔ってる』と言っても、『酔ってない』と返ってきますものね。私の父もご機嫌で足元が怪しいのに酔ってないとよく笑うのです」
「若干話が飛躍している気がするよ」
「失礼しました。では、覚悟はいかが?」
「できたと思う」
「夢を見たんです。最初は薔薇として生きて樹に憧れ、次は虫として生きて木をかじりつつ住んで、最後は若木として樹に憧れました」
「う、うん」
「ひっそりとセオドア様に恋をしておりましたのに、この夢を見て以降はセオドア様より樹のほうが素敵に見えてしまうのです。人間と植物ですよ?」
「とんでもない方向から矢が刺さったな」
「セオドア様の魅力が減ったという話ではないのです。私が人間ではなく樹に惹かれていて、しかもそれが夢のせいだなんて。思春期の病としか思えません」
「実は僕も同じ病にかかっているみたいだ」
「もともと妄想癖がありますので、夢のせいでこうなるのもどこか納得しているのですが、今回は影響が強くて長いのが少々困ります。・・・はい?」
「引っかかるのにタイムラグがあったね」
「同じ病にかかっていらっしゃるとは?」
「僕は虫に恋してるみたいなんだ」
「あら」
「しかも夢の中で僕は樹で、カミキリムシにかじられてしまうんだ」
「ええっ」
「それ以来、カミキリムシを思い出すとドキドキしてしまう。ただ、実際は本物の虫を見てかわいいとは思えないのだが」
「私も夢の中の木にドキドキしますが、実際それっぽい木を見てときめくわけではありません」
「こんな偶然ある?」
「すごい偶然ですね」
「運命だと思わない?」
「運命?・・・いいえ」
「え?」
「単なる偶然・・というより何か策略が?」
「なんだって?!」
「私の話を聞いた後ですので、同じように話を合わせることは簡単でしょう?」
「・・・確かに。でも僕は君にドキドキしているつもりなんだが」
「自分が虫に恋する変態だと公言してしまったことへの緊張感もしくは後悔の動悸の可能性は?」
「全くないとは言えないが。変態呼ばわり・・そうだ!虫の種類がカミキリムシだというのは証明になるんじゃないか?」
「・・・本日はまずカミキリムシという言葉が先に登場していたように思います」
「そうだったか」
「はい」
「困ったな。どこからどう証明すればいいんだ?まさかこういう展開になるとは」
「話を合わせてこられたと仮定して、合わせて何が得になるんでしょう・・」
「君と仲良くなりたい」
「そんなことでよろしいんですか?」
「仲良くなって偶然じゃないことを証明するよ」
「楽しみにしておきます」
□ □
結局、虫がいた木は見つからず、ステラとオスカー様のところへ戻る。
「エマと仲良くなる約束をした」
「それは楽しそうですこと」
「私もエマと仲良くなりたい」
「オスカー様とは割と仲良くなった気がしますが」
「この程度で?!」
「不満でいらっしゃる・・」
「じゃあこうしましょうよ。わたくしとエマ、オスカーとセオドア様の4人でしばらくランチでも一緒にいかが?」
「いいね」
「・・それだとステラの恋愛が進まないような・・?」
「なにか言ったか?」
「いえ、効率的な打算を。では、私はときどきそのランチの会に参加いたします」
「ときどき?」
「気が向いたときだけ参加します」
「・・・仕方ない」
「それでは足りない」
「寂しいことを言わないで」
「『仕方ない』が一番嬉しいです。ありがとうございます、オスカー様」