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3話

「この森林公園はどうかな」


「わたくし、一人で散策してきてもよろしくて?」


「なぜだ」


「諦めたとはいえ、やはりじっとしていられなくて」


「それは例の恋の話か」


「ええ」


「良ければ一緒に探したい」


「・・いえ、一人で探したいです」


「どうして」


「自分の世界に浸りたいから」


「オスカー、エマは自分の世界がとても大切なんですの。こうなると、中々入れてもらえませんわ」


「そうか」


「では。ステラ、後でね」


ひらひらと手を振り、木を眺めながら進んでいく。途中振り返ってみると、オスカー様とステラとセオドア様の3人でベンチに座っているところだった。


どちらがステラの恋人になるのかしら。楽しみね。


これだけたくさん木があると、探し甲斐があるけど、どの木をチェック済みかどんどんわからなくなるわ。ランダムに生えてるし・・


そうね、虫の本能を思い出してみましょう。魅力的な木に住みたい、もしくは喰らいたい。私は虫よ。本能でフラフラできるかしら。


この木は・・美味しくなさそう。あの木はなんか嫌。その木は細すぎるわ。この木はなんか良いわね、ちょっと匂いを嗅いでみる。


・・違うわね。


「ふっ」


後ろで笑いをこらえたような吐息が聞こえた。


「ついてこないでって言ったのに」


「ごめん。どうしても気になって」


「よろしいのですか?セオドア様とステラが二人きりになってるわ」


「構わない」


「・・?」


「今は君の木を探すことに興味津々なんだ」


「たぶん見つかりませんよ」


「そうか?」


「見つからなくても構わないわ」


「不思議な答えだな。で、今は何をしていたんだ?」


「ちょっと仮想していたの」


「どんな?」


「どうしてそう私のことをお尋ねになるの?」


「気になるんだ」


「美味しそうな木を五感で感じようとしていたわ」


「わかるのか?」


「わかるかどうかオスカー様もやってみては?」


「・・なかなか難しいことを言うね」


「まず、嗅いでみてください。結構違いますよ」


「わかった」


「どうですか?」


「こっちの木のほうが良い匂いがする」


「私はこちらのほうが好きです」


「どれ」



「うわっ!!」


「どうなさったの?」


「虫がいる」


「オスカー様は虫がお嫌いなんですか?」


「苦手だ」


「ではなぜこの前探していらしたの?」


「事情があって」


「あら、この虫」


「なんだ?」


「カミキリムシに見えます」


「これが?」


「ええ、おそらく」


「やっぱり虫は苦手だ」


「虫も私達が苦手でしょうね」


「なるほど。それもそうだ」


「虫も大変なんです。穴から出たら鳥に食べられたり」


「そ、そうか」


「そうです」


「・・・」


「そろそろ戻られてはいかがですか?」


「いや、ますます君を見ていたい」


「困りましたね」


「本当に」


「集中できないので、私はもう戻ることにします」


「そうか」


「付いてきてごめんなさいは?」


「ごめん。でも面白い」


「反省してませんね」


「君は面白いな」


「面白いと言われてもあまり嬉しくありませんね」


「最大級の褒め言葉なんだが」


「虫になった気分です」


「ん?」


「いえ」


・・・・


「オスカー様は意外と口下手なんですのね」


「意外かな?」


「ええ。いつもステラと楽しくお喋りしてるイメージなので」


「ああ・・ステラとは幼なじみみたいなものだからね」


「そうだったんですか」


「君は清々しいほどに私に興味がないね」


「そうでもありませんよ。ステラとお似合いだわ、とか関心があります」


「なるほどそういう興味か」


□  □  □


「素敵な木は見つかった?」


「残念ながら。カミキリムシの登場で」


「カミキリムシ?」


「はい。カミキリムシらしき虫がいてオスカー様が喫驚なさいましたの」


「君は・・樹を探しているの?」


「はい」


「私がびっくりしたことを暴露して放置はどうかと思うんだが」


「君は虫が怖くないの?」


「虫の気持ちが少々理解できるものですから」


「無視か」


「今、ダジャレが聞こえた気がしましたが耳触りが良くないので引き続き放置いたします」


「良ければその虫がいた樹に今度は僕と一緒に行ってもらえるだろうか」


「構いませんけど・・意外とみなさん虫と樹木に関心が高いのですね」


「ダジャレの濡れ衣を着せられたうえ放置か」


「今日は空耳がよく聞こえます」


「奇遇だな。僕にも聞こえる」


「わたくしもよ」ステラが満点の星空みたいにキラキラ笑った。


「では、参りましょう」


「ああ」


□  □


「エマのこと気に入った?」


「面白いな」


「最高なの」


「ステラはセオドアと話してどうだった?」


「とても楽しかったわ」


「そうか」


「わたくしもエマのように面白くなりたい」


「彼女は面白いと言われるのが嫌なんだそうだ」


「では、顔や容姿を褒めてみると喜んでくれるかしら」


「とれもきれいな顔をしているのに、独特の面白さが先に目につくな」


「一度瞳を覗き込んでみて。理知の輝きに吸い込まれそうになるから」


「そうか」


「ええ」


□  □  □


困ったわ


どの木だったか全くわからない。


「セオドア様」


「なにかな」


「カミキリムシとカミキリムシがいた樹、どちらがより魅力的でしょうか?」



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