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2話

寝ても覚めてもあの虫が頭から離れない。

夢とはいえ、自分に穴を開けたんだぞ。


でもその開け方が遠慮がちで、ひと噛みひと噛み慈しむように進むんだ。

おかげで毎日こそばゆくてたまらなかった。夢の中だけど。


こんな夢を見るまでは好きな子がいたのに。

あの黒い虫を探すべきなのか?


最近じゃ、その子と話していても「あの虫じゃないんだよな」って思ってるんだ。

好みのタイプは人間のはず。

どうして昆虫を恋しく思わなきゃならない。


毎日毎日堂々巡り。


こうなったらあの虫を捕まえてみるか。大事な想い人、いや、想い虫かもしれないのに殺してしまったら立ち直れないから、虫の飼い方を調べてみよう。


ところが、なんの虫かわからない。カミキリムシが1番近いけど、なんか違う。



う、うう


・・虫、結構苦手だ。


捕まえるどころか探すのさえキツくなってきた。


なのにあの黒い虫を思い出すとドキドキするんだ。つぶらな瞳、揺れる触覚。


いよいよ何か治療が必要なのかもしれない。



□  □


「ごきげんよう、オスカー様。何をしていらっしゃるの?」


「君は・・・」


「(名前すら認識されてないなんて!)ステラの友人でエマ・リカータと申します」


「ああ!ごめんね、いつもステラに集中していて周りを見てないんだ」


「それは・・素敵なことですね」ステラしか見てないなんて本当に素敵。


「で、一体何をなさって?」


「ああ、虫を探しているんだ」


「虫?!」


「ちょっと必要でね」


「そう・・ですか。宜しければお手伝いいたしましょうか?」


「君は虫が怖くないのか?」


「虫の気持ちが少々理解できると申しますか・・」


「は?」


「いえ。余計なことを申し上げました。あ、ステラは虫全般苦手ですよ」


「そうか。では虫を掴んで近づくようなことはしない」


「ちなみにステラはビーズが好きです。キラキラしたものを集めてるんですよ。ってご存知ですよね・・」


「いや、知らなかった」


「あとたぶん、優しいけれど少し強引な方が好きかもしれません」


「ほう・・」


「あと、トルテトルタというお店が好きで、たまに行ってますよ」


「・・・君は応援してくれてるつもりなのか?」


「はい!」


「それはありがたい」


「他にも何か知りたいことがあればお答えします」


「その・・彼女は好きな人がいるのだろうか」


「わかりません!」


「・・わからないのか」


「今、非難めいたニュアンスでしたね。残念です」


「えっ」


「わたくしはステラに極上の結婚をしてもらいたいのです」


「なるほど」


「今ので大体の人となりがわかった気がしますので、これで失礼します」


「え、これで?!虫は?」


「先程から真剣に虫をお探しのようではありませんので、私の手助けは不要だと判断しました」


「それは君が話しかけるからで」


「なるほど?」


黙り込んでしまったオスカー様に辞する礼をしてその場を去りながら、何か授業の課題で虫を探していたのかしら?と思ったけど、忘れた。


大事なのはステラの気持ちなのだから、そこをちゃんと理解できる男性と結ばれて欲しいのだけど、余計なことをした手前ステラに謝っておかないと。


「と、いうわけなの」


「私のためにありがとう」


にっこり笑って感謝された。


早く結婚して。



□  □


「やあ」


「オスカー様、ごきげんよう」


「昨日のやりとりだけで人柄を判断されることに納得がいかなくてね」


「なんとまあ執念深い」


「誤解だ」


「そうですか?」


「君は短絡的だな」


「そうかもしれません」


「その・・今後のために、もう少しお互いを理解する努力をしないか?」


「今後のためとは?」


「君とは仲良くしたほうが良い気がしたんだ」


「私の存在の認識すら怪しい感じでしたものね」


「否定はしない」


「それで、理解とはどう深めていくのでしょう?」


「4人で遊びに行かないか?」


「4人とは?」


「ステラと君とセオドアと私の4人で」


「欲望が丸見えですわね」


「それは仕方がない」


「ステラに確認してみます。この件に関して私の願望は一切ございませんので、ステラ次第です」


「わかった」


「それで、虫は見つかりましたの?」


「いや、見つからなかった」



□  □


「というわけなの」


「あら、面白そうね。ぜひ参加したいわ」


「じゃあ今度オスカー様に会ったらお返事しておいてね」


「わかったわ。ところで木を探すのは順調?」


「いいえ。諦めたの」


「そう」


「叶わぬ恋でわたくしに愁いが装備された気がするわ」


「そうね、それがあってもなくてもエマは最高に魅力的よ」


「最高なのはステラね。友達でいられて幸せよ」


「私も」


もしかして、あの麗しの樹はステラなんじゃないかとさえ思うわ。


□  □


「で、御用は?」


「どこに行きたい?」


「は?それはステラの行きたいところで」


「もちろんステラに尋ねたよ。でも君が行きたいところにも行こう」


「いえ、わたくしは別に」


「1箇所ぐらいあるんじゃない?」


「そう言われましても・・オスカー様とセオドア様が行きたいところで構いませんが」


「それだと理解が深まらない」


「そうですか。・・では、わたくし樹に恋しているので、木がたくさんあるところに行けると嬉しいです」


「木?」


「はい」


「木ってあの・・木?」


「語彙力に衰えが見えますね。驚かせてしまいましたか」


「えーっと・・君は木に恋をしている?」


「はい」


「わからないけど理解するための努力はする」


「はい」


「どんな木なのか尋ねても?」


「それはもう、わっさー、ゴツゴツ、シュッという感じで。・・説明するには私の語彙力が足りませんでしたね、忘れてください」


「ふっ」


「今、笑いましたね」


「かろうじてこらえたが」


「お互いに語彙力を伸ばすことを意識して勉学に励みましょう」


「そうだな」


「では失礼します」


「ああ」


□  □


「みなさまごきげんよう」


「ステラ、今日も素敵ね」

「本当だ」

「嬉しい」


「では行きましょうか」


オスカー様とステラが並んで歩く姿を眺めながら、セオドア様と歩く。


「ひとつ質問してもよろしいでしょうか?」


「何かな」


「セオドアさまはステラのことを好きですか?」


「好意はあるよ」


「随分穏やかですね」


近距離でセオドア様の瞳を覗き込む。


「激しくないとダメかな?」


セオドア様の瞳は濃い緑と新緑の色なのね。


「そうですか。私としては、ステラが幸せならどちらでも構いません」


「君は・・・虫だったことがあるか?」


「・・今、なんと?」


「いや、なんでもない」


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