17話
「発情期かもしれません」
「どうしたのかな?」
「なんかこう・・本能的に抗えないホルモンの暴走を感じています」
「ふむ。それが僕に対してなら嬉しいけど、どうやら違うみたいだね」
「精神的なものと身体的なもののズレが酷くて、混乱するのは羽化したあとすぐに飛べない虫と似ている気もします」
「僕が受ける印象だと、虫というより犬の発情に近い話だと思うが」
「残念なことに、私がわかるのは犬のオスの気持ち・・」
「ははっ」
「今、面白いところがあったかしら?」
「君を諦めなきゃいけない話かと思ったら、そうでもなくて少し楽しくなった」
「なにか変でしょうか、私」
「色々と気がついていないようだからね」
「ヒントをくださる?」
「嫌。あげないよ」
「うーん・・・」
「悩んでいるエマも可愛いね」
うんうん唸っている間にセオドアが頬にキスをした。ほわっとあたたかい気持ちになる。
「お邪魔かしら」ステラのの声が聞こえて、物思いから覚めて顔をあげる。
「何が邪魔なの?」
「二人が親密な様子だったから、私はお邪魔かなと思って」
「ステラが邪魔になる日は来ないわ、永遠に」
「嬉しい」今日もステラが美しい
「私は邪魔だろうか」
「オスカーは邪魔なときもあるかもしれません」
「ぶはっ」セオドアが笑う
「何がそんなにおかしい」
「このまま拗れあっているといいね」
「拗れ合う?」
「あら、オスカーとエマが拗れているの?」
「私のどこが拗れているんだ」
「教えてやらん」
「どうやら私の気持ちを良く理解しているのはセオドアのようです」
「そうだね、エマ」
にっこり笑ったセオドアに感じる安心感。
セオドアと微笑みあっていると、ステラが
「では今度は5人で遊びに行きましょう」と言った。
□ □
「アスラン様、今日はお招きありがとう」
4人でアスランの屋敷にやってきた。
「では、私はセオドアとオスカーを樹のところへ案内してくるわ」
ステラとアスランは二人でお茶をして待つという。
3人でゆっくり進でいく。
「ここにあるのか」
「ええ」
「不思議とどこへ進めばいいかわかる」
「お前も?」
「オスカーもか」
「では二人の後について行くことにします」
どこを見ても木々の景色の中、二人がどんどん深くへ進む。
ふっと体が軽くなった感覚がしたと思ったら、3人で樹の前にいた。
「これが」
「この前より樹が大きくなってる・・」
そう感じている間にもどんどん頭上に枝が広がり、3人がすっぽりと木漏れ日に包まれた。
「これってもう・・」
「異次元に迷い込んでないか?」
同じ樹だと感じるのに、見ている形はもはや別物で、周りの景色が消えて風で少し揺れる木漏れ日しか見えない。
「ここから繋がる別の世界が見えるような気がする」
「懐かしいところに来たような感覚だな」
「セオドアが懐かしい気持ちになるのならわかるけれど、オスカーも懐かしいのね」
「実は私も樹の夢を見たんだ」
「「・・え?」」
「言うと嘘っぽくなると思ってね」
「だから黙っていたと?」
「そういうことだ」
「オスカーは樹の視点だったの?」
「そうだとも言えるしそうじゃないとも言える」
「どういうことだ?」
「木でもあるし、風でもあるし、全てが自分だったような感覚だ」
「・・・そう。不思議な絵本のような話ね」
「だから、犬になったときは驚いた」
「全てが自分だったのに、いきなりの犬だものね」
「僕はずっと樹の視点で、エマは色々な視点、オスカーは全ての視点か」
「それぞれ、物の見え方や感じ方が違うということかもしれません」
「そうかもしれないな」
「でもわたくし、ひとつわかりました」
「なんだい?」
「セオドアに感じるのは穏やかな愛で、オスカーに感じるのは色欲です!」
「「ぐはっ」」
「な、何を言い出すんだ」
「さすがエマ」そう言って眦に溜まった涙を拭いながら笑うのはセオドア。
「色欲もしくは繁殖欲を追求しても幸せにたどり着けない気がします」
「そうかもな」
「そんなのわからないだろう!」
「だって人間ですよ?理性で大体抑え込めるではありませんか。性的に惹かれること=愛だとは思えません。人によってはよりたくさんの人と関係を持つことが繁殖欲を満たすかもしれませんし、相手の優れた遺伝子を求めて性的に反応しているだけかもしれません。人間だけが理性で、心で相手を愛することができるはずです」
「なるほど」
「性的に惹かれる本能こそが一番のセンサーかもしれないぞ」
「性的に惹かれたところで、一生その人を好きでいられるとは思えない。遺伝子を残すことが幸せだとも限らない。本能ではなく、理性のほうが恋愛に大切なことでは」
「ふむ。ではエマは僕に性的な魅力を感じていないということか」
「私には性的にしか惹かれていないということか」
「あら、わたくしとしたことが随分あけすけでしたわね」
『ふふっ・・エマは人間を楽しんでいるようだ』




