そんなこともありました
読んで頂ければ幸いです。
懐かしい物を見つけました。
私がまだ学生だった頃、婚約者様から贈られた 対の腕輪・・・。
互いの瞳の色の宝石を嵌め込んだちょっとした特殊魔術効果のついたものでした。
あの頃の学園は多少変わった・・・いえ、困った方々が出没(?)していましたから。
特殊魔術も念のためでしたが、まさかあそこまで役立つとは思いませんでした。
さすがは婚約者様です。
私と婚約者様はいわゆる政略に近い恋愛結婚でして、顔合わせの時にお互いが一目惚れしてしまい、すぐさま婚約がととのった形となりました。
それからは学園の入学までお互いの家にいったり、街中デート等楽しい時間を過ごしていました。
入学前日に婚約者様から 『結婚するまでの指輪の代わりに』 の言葉と共にこの腕輪を頂いたことは今でもとても良い思い出です。
あとこの腕輪の特殊魔術なのですが、「魅了・幻惑・精神操作」等も防いでくれ、『これがあれば悪い虫が近寄ってきても大丈夫。最近の学園はなにかとあるからね。保険だよ。』とも言っていました。
今は対策がとれてきて数が減りましたが、あの頃は「真実の愛」の言葉の下、婚約破棄が流行していたのです。
しかも婚約破棄した方達は、大部分が魅了や幻惑にかけられた状態だったらしく当時は大騒ぎになりました。
私と婚約者様は腕輪がありましたから最小限の被害ですみました。他にも、私達の周辺の方達も魅了無効等の魔術術具を身に付けていたので、大事には至らなかったようでなによりでした。
が、流石にこんなに婚約破棄や仲違いが続くのはおかしいと皆さんもお思いになり、調べたところ「真実の愛」の真実が発覚したのです。
魅了や幻惑などを使っていた方達は、良くて修道院や廃嫡からの平民墜ち、僻地行きの強制労働、最悪の場合牢獄へ収容された方もいたようです。
魅了されてしまった方達も、入院や強制的に領地へ行かされたり、新たに婚約した方や元の婚約者と復縁出来た方は極少数だったと記憶してます。
次代を担う若者達の失態事により、最初の頃は「他国の陰謀か」と思われていたのですが、詳しく話を聞くと「ヒロイン/ヒーロー」や「主人公」等の言葉しか出てこず、ただ単に小説と現実の区別がつかなくなった人達と認識され、この症状が出た人達は〈主人公(ヒロイン/ヒーロー)症候群〉と呼ばれるようになりました。
それから無事、学園を卒業した私達は結婚し、今の私の左手には腕輪に変わり結婚指輪 (もちろん特殊魔術付き) がはめられています。
子宝にも恵まれ、幸せな日々を過ごしています。
今でも当時、あの学園に通っていたと言うと皆さん『大変でしたね。』と同情的な言葉をくださいますし、実際にトラウマを抱えている方もいるようですが、
私としては 私の婚約者様 今は 私の旦那様 のお陰で当時の事は
『そんなこともありました。』
と思う程度なのです。