第1章 プロローグ
●7月初め 世田谷区南東部にある宗律寺
夕焼けに照らされる宗律寺の境内で、近所の子供達がかくれんぼをしていた。
そのうちの一人が本堂に入って隠れた。
彼は、磨き上げられた本堂の床を滑るようにしながら、隠れる所を探した。
本堂の真ん中には、一段高くなった台座の上に御本尊がある。
その後ろには、ちょうど子供が入れるくらいの壁との隙間があった。
その子はそれを見つけると、そこに滑り込んだ。
四つん這いになって外の様子を伺っていたが、走ってきたことと、見つからないようにと思う高揚感で息遣いが激しく、それが外に聞こえるような気がして、自分の口を押さえた。
後ろも見ようとした時、ふと、台座の後ろに貼られたお札に気が付いた。
それは、薄い木の板に貼られた物だった。
何かの文字の下に描かれた文様が、日頃やっているカードゲームの強いカードのマークに似ていた。
その子はそれを持って帰ろうと剥がそうとした。
だが、
「あ!」
それは半分あたりで折れてお札は破れてしまった。
「あ~あ……、ま、いっか」
その子はそれで興味を失った。
破れたお札は後ろに投げると、意識はまたかくれんぼに戻った。
●数日後 世田谷区某所 廃屋
その女性は、その何もない部屋の壁に背中を預け、足を投げ出して座るように死んでいた。
ただ、その死に顔は、何か安堵したようなやわらかな表情で目を閉じていた。
その女性の前で、小さな女の子が優しく微笑んでいた。
その子が何か言ったのか、その死体は、返事をしたようにも見えた。