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全地全農異世界開拓記  作者: 烏帽子
【第一章】
9/10

  第二話 森の住人

 ーー翌日。

 何故か俺の住処が賑わっていた。

 コボルトの子どもたちがこぞって集まって来たのだ。数は十二、三か。男女問わずまだ背中に背負われているような赤ん坊までいる。挙げ句の果てには「旦那! 何か俺たちに手伝える事はないか?」とか言い出す始末だ。正直面倒臭いです。

 結局俺たち(主にグルドゥン)とコボルトが取り決めたのは簡単な内容だった。

 こちらから出すのは食料として使える木の実で、コボルト側が出すのは金属武器と森の地図だった。

 コボルトたちは器用である。ちょっとした金属や細工物の加工はお手の物だと言う。

 事実彼らによって持ち込まれたクワやオノは今までの石器とはまるで違う金属製だ。これらの加工を自分たちでやっていると言う事だ。今度実際に加工場を見学させてもらいたい。

 それにしてもやったぜ。これでまた農作業が捗る。

 ちなみに森の地図に関しては強制的に押し付けられた形になる。理由は、そこかしこにグルドゥンが仕掛けた罠がそれなりに機能しており、野山を駆けて獲物を獲るコボルトたちに対して地味な脅威になっていたのだ。要するに〈地図をやるから罠を張るならこれを見て考えて張れ〉と言う事なのだろう。ちょっと申し訳ない。

 さて、話が戻るがコボルトの子どもたちである。彼らがここにいる理由はいくつかあるのだがその一番は敵対勢力の存在だった。

 ラリーはのらりくらりとはぐらかしてはいたのだが人の口にとは立てられない。何より子どもたちの口が軽かった。


「ケットシーってのがいてーー」


 コボルトがイヌ型の亜人とすればケットシーはネコ型の亜人だと言う。お互い昔からこの森に縄張りを持ち特に何かあった訳では無いのだがとにかく仲が悪くちょっとした事で衝突を繰り返しているらしい。

 イヌとネコか……。そりゃ仲が悪そうだ。他にはネズミもいるかもな。

 

「ネズミは知らんな。ゴブリンは滅ぼしたけどな」


 子どもたちがペラペラと話してしまうなら仕方がない。ラリーがニヤニヤと答えた。

 グルドゥンに対しての挑発だろう。しかし彼は全く持って挑発には乗ってこなかった。何故なら彼はゴブリンであるにもかかわらずゴブリンが嫌いだからだ。


「そりゃ、良い事をしなすった。放っておけばこの森全体がゴブリンの物になってたでしょうからね」


 さも自分にとってはどうでも良いと言った具合にグルドゥンにラリーは「張り合いがないな」と、ため息混じりに答えた。

 とにかくコボルトの目下の敵はケットシーでありコボルト集落の場所は既にケットシーに知られているし、もちろんケットシーの集落の場所もコボルトたちは知っている。


「まあ、子どもたちを匿って欲しいと言う訳じゃないんだが、集落に何かあった時にみすみす全滅ってのは避けたいんだ。そもそもケットシーってやつらは本当に好かん。あいつらはコボルトを奴隷としか思っていない!」


「どう言う事?」


「昔から比べられて来たのだが、我々コボルトは忠義に厚い種族だ。主人と認めた者には絶対的な忠誠を誓いその力を捧げて来た。それに対しケットシーのやつらは自由気ままで、その時その時の状況によって付く相手を変えてくる。昨日まで味方だったと思ったら今日から敵なんて事は日常茶飯事のように起きてきた。挙げ句の果てにはコボルトの子どもを誘拐して奴隷扱いなどと言う非道まで行う始末」


 なるほど。どうやらこのコボルトとケットシーには見た目と同様イヌ、ネコの習性が顕著に現れているようだ。これでは同じ獣人、亜人と言えども相性が悪くなるのは仕方がない。


「そして何より食べ物の問題だ! 我々の好みは肉。やつらの好みは魚。何から何まで本当に相入れないのですよーー」


 長い事溜め込まれていたのだろう。ラリーの演説のようなケットシーへの文句、不満が延々と続いた。そして最後に「ーーと言う事で我々にご協力願いたい」と言う言葉で締められた。

 協力といっても戦いに加担する気など俺にはさらさら無い。

 そもそも農業スキルに全振りした俺は戦闘には全く向いていない。子どもたちの保護くらいは問題ないがもしケットシーが攻めて来たらどうしようかと言う不安もある。地球ではスキルを持たなかった俺でも棒を振ったりくらいは出来るだろうがその程度でしかないのだ。


「保護くらいは良いんじゃないですかね?」


 そう言ったのはグルドゥンだった。


「まあ、コボルトの為にケットシーと戦争ってのはごめんですが、食料に余裕はありますし、保護ついでに働いて貰えば良い訳ですしね」


 グルドゥンの言葉にラリーは「労働というならきちんと対価は出るんだろうな?」と、尋ね返した。

 なるほど。そう来るか。


「何言ってんだ? せっかく匿ってやって、食わせてやるんだから無償奉仕だろうが?」


「食わせてくれるんなら、まあ、構わん。扱いが悪ければどうせ逃げてくるだろうしな」


 それもそうだな。

 とりあえず俺は軽い気持ちでコボルトの子どもたちがここに住む事を許可した。しかしそれならそれで準備が必要になる。

 先ずはまともな家の建築だ。東屋は東屋で雨露を凌げるが単なる休憩所に過ぎない。きちんと壁のある雨風を防げる家を作らなくてはいけない。

 さて、これから忙しくなりそうだーー。

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