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全地全農異世界開拓記  作者: 烏帽子
【第一章】
8/10

  第二話 森の住人

 深さ五メートル程の穴の中に落ちていたのは四人のコボルトだった。後は梯子。どうやら二度目のドジョウは木の上の方の実が狙いだったようだ。グルドゥンの推測では刃物を使うというので穴の上から声をかけてみた。


「君らはコボルトかい?」


 特に感情を込めて言った訳ではないのだが穴の中と外では随分と感情の温度差があるようだ。


「ここから出せ!」「ぶっ殺すぞ!」「恥を知れ!」「卑怯者!」等々。


 随分とブーメランな声が返って来た。どうやら自分たちが泥棒であった事を理解してはいないようだ。

 さて、これだけ敵意を向けられるとわざわざ話をして諭すのも面倒だ。どうしたものか。

 そんな事を思っているとグルドゥンが石を投げ始めた。


「おいおい」


 グルドゥンでも気を遣っているのだろう。当たったら痛い程度の小石を選んで投げているのだがなかなかのスピードだ。当たった順にコボルトたちから悲鳴が漏れた。


「何をしやがる!? 俺たちが何をしたって言うんだ?」


 腕で顔を庇いながら一人のコボルトが言った。


「あーん? したからやってんじゃねーかよ」


「何だと!?」


 言うが早いかグルドゥンの投げた石がそのコボルトに当たった。「ぎゃんっ」と言う悲鳴と共に後ずさる。


「この木に生えてた実を盗んだのはお前らだろ?」


「盗んだ!? 木の実を勝手に採って何が悪いって言うんだ?」


「はいはい、言い訳は良いんですよ。小屋が建ってますよね? 道具が置いてありますよね? 木が生えてますよね? これらを関連付けて考えられなかったんですか?」


「そ、それは……。し、知らなかったし! あんたらが住んでるなんて知らなかったから!」


「はいはい。〈知らなかった〉のね。知らなかったから許されるって訳でもねーんですがね。まあ、どうやら小屋に誰かが住んでいて今は何処かに出かけているようだ。誰もいないのなら自分たちで好きにやっても良いやって考えちゃった感じですかい? 実際のところ知らなかったと言うよりも、目先の欲に駆られて知ろうとしなかったんでしょ?」


「そ、それは……」


 グルドゥンの理詰め怖い。

 地球の子どもに同じ事をすればすぐに泣き出してしまうと思う。現にコボルトたちも既に泣きそうになっている。


「お前らはどうやってかこの場所を発見して食料になる木の実を見付けた。小屋が建っている事が気になってはいたがついつい誘惑に負けて木の実を盗んで行った。そんで無くなったからまた来た。二度目は計画的にってやつだな。その梯子が証拠だ」


 コボルトたちは完全に黙り込んでしまった。ここからは犯人が自身が悪にならざるを得なかった犯行の動機を話しお涙頂戴するシーンに繋がるのだが、俺にとってはそんなものはどうでも良かった。正直言うと木の実泥棒の犯人が落とし穴の罠にはまった時点で満足だったのだ。これ以上はもう蛇足でしかない。


「ご苦労。名探偵グルドゥン」


「そりゃ何の称号ですかい?」


「……さあ?」


「それよりも辺りを警戒ですよ」


 グルドゥンはそう言うとその辺にあった棒切れを握ると軽く振って重さを確かめた。そして右には石斧、左には棒切れと言う装備に落ち着く。


「ここに四匹の子ども……だと思うんですが。で、そろそろ日が暮れるって事はですね」


「ーー大人が探しに来る」


「正解! 群れで来るのが普通なんで旦那もクワでも持ってて下さいよ」


 そうなんだよ。武器が無いんだよな。今度石槍でも作っとこう。柄を長くすればそれなりに使えるはずだ。


「その心配はない」


 茂みの中からのそりと現れたのは俺よりも頭一つ分背の低い二足歩行のイヌだった。


「大人のコボルト?」


 そのコボルトは両手を上げると「ああ、その通りだ」と答えた。そして「話を聞いていると非はこちらにありそうなんで出て来た」と、続けた。

 腰巻に長靴のような靴。手には弓と、背中には矢筒だろうか。胸に斜めに巻かれたベルトで背中に背負っている。俺の脳内で昔ながらの原住民のイメージがぴったり当てはまった。


「一匹か?」


 グルドゥンが棒切れの先を突き出して尋ねた。それに対してコボルトは両腕を上げたまま「話が通じるんだ。せめて一人と言ってくれないか?」と答えてニカっと笑った。

 コボルトの名は「ラリー」と言った。帰りの遅い子どもたちを探しに来たのだと言う。


「お前ら反省してんのか!?」


「盗んだんじゃないよー。本当に人が住んでるって思わなかったんだよー」


 穴から引き上げられた子どもコボルトの四人は、その場に正座させられるとラリーにめちゃくちゃボコボコにされてめちゃくちゃ怒られていた。全員顔を腫らしての顔中の穴という穴から汁を流しながら声を上げて泣いたが最後まで〈盗み〉は認めなかった。根性があるのだが少し気に入らない。


「まあ、俺も食ったから同罪って言や同罪なんだがまさかこんな事になってるとはな……」


 ラリーは頭をかきながらボソボソと漏らした。


「あ、いや、そこまでのーー」「旦那、弱腰はいけねえや」


 俺の言葉を遮ってグルドゥンが言った。


「俺たちはこの旦那のおかげでそれなりの食料が手に入る。つまり食料を作って生活してるって訳だ。その生活の一部を持って行かれちまったってのは痛い」


「何か欲しいものはあるか? こちらから出せるのは金属武器、道具、森の地図、その他だ。流石に全部は出せんぞ?」


 話の途中ではあったがラリーが面倒臭そうに答えた。

 それに対してグルドゥンは「話が早いのは良い事だ」と答えた。するとラリーは「腹の探り合いではあんたに勝てそうにないんでね」と、先ほどのようにニカっと笑った。

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