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全地全農異世界開拓記  作者: 烏帽子
【第一章】
5/10

  第一話 旅ゴブリン

「農業ですか? 旦那が?」


 グルドゥンは怪訝そうな表情を浮かべていた。

 よく分からない田舎者が農業をしたいと言っている。正直どう反応したら良いのか分からないと言った感じに見える。


「やれば良いんじゃ無いですかね?」


 全くその通りだ。勝手にやれば良いのだ。しかし俺の考えている事はそれだけじゃ無い。


「いや、農業だけじゃなくてさ。何て言うか……。そう! 自給自足! ってやつをやりたくてね」


「はぁ……」


「農業の方は何となくでやれちゃうんだけど他の事が出来なくて困ってるんだよ」


「何となくで出来ちゃうってのはすげえ事なんですが、要するに何も計画がないって事ですかね?」


 図星だった。思わず目の前の小人から視線が逸れる。


「旦那は分からない人だね。旅をしてるって話でしたっけ? それなら土地なんて持ってないですよね? 農業やるには土地が一番だ」


 なるほど。言われてみればその通りだ。

 現段階で〈衣食住〉の〈食〉しか何とかなっていない。その食ですら食べれる木の実でこなしているだけの話だ。何となく生きているだけというのは宜しくないのだが、どうも上手くいかない。


「幸いこの辺は人間の縄張りじゃないんでね。人間の勝手てのは効かない場所ですわ。ここらに本拠地を構えたらどうですかい? あ、いや、人間も群れるんでしたっけね? それならもっと人間の住処に近い方が良いのかね?」


「あ、その辺はこだわり無いです」


 正直言うとこの世界に来てから二週間、誰とも話さない一人暮らしを続けていたのだがそれ程苦しいとも思わなかった。元々自分は社交的ではなかったのだが慣れというのは恐ろしいものだ。

 それに自給自足。それは自分の生活に必要なものを自分の力で手に入れる事だ。他人の力に頼ってはいけない。


「じゃあ、森の奥が良いですかね? どうせやる事もないんであっしも手伝いますよ? 旦那が農作業やるならあっしは狩りでも釣りでもやりますかね」


 ゴブリンは人間じゃないのでノーカンにしよう。

 それに農業系スキルで固めてはみたけど、自給自足狩りや釣りにも興味はある。ちょうど良いゴブリン先生がいるんだから色々教えてもらっても良いだろう。しかしーー。


「ありがたいけどグルドゥンは何か目的があったりするんじゃないのか?」


「いや、あっしは流れ流れる雲のようってやつなんで旅に目的は無いんですよ」


 なるほど。旅ゴブリンの名の通りという事か。


「それに旦那はゴブリンを邪険にしなさそうですからね。あっしもまた旅に出ますんで旅の中継地点作りを手伝うって感覚ですかね? まあ、何となくですがね」


 そんなものなのか。

 とりあえず異世界農業生活はこの森を拠点に始めてみる事にしようか。


◆◆◆


 場所は森の奥。家を作る為に木を伐採して木材を作る。

 石器の斧を作って使ってみたのだが切り倒すまでになかなか時間がかかる。しかし俺が切り倒すと何故か木の中の水分が蒸発するらしい。これもスキルの影響だろうか。

 家が出来るまで吹きっさらしの中で過ごす訳にもいかないので東屋を作ってみた。

 このくらいなら素人でも何とかなるものだ。公園にあるような屋根付きベンチが完成した。ベンチの部分を少し広めにすればベッドも兼用出来る。足元は直接の地面だが特に気にしない。靴の脱ぎ履きが無くて結構楽なくらいだ。


「壁は作らないんですかい?」


 グルドゥンが不思議そうな顔をしていたので「いずれ壁も作るよ」と言っておいた。まあ、東屋自体は単なる休憩施設だから本格的な家を別に作らないといけないな。

 本拠地が出来たら農地開拓を始める。ーーと言っても持って来た木の実を植えるだけだ。

 グルドゥンには狩りの途中で食べられそうな木の実や果実を見付けたら持ち帰って欲しいとお願いしたのだが、流石に昨日の今日では収穫がないようだ。


 ーー三日が経過した。

 グルドゥンが育った木を見合えながら呆気に取られていた。


「ーーっはー……!? 何で三日前に植えた種がこうなっちゃうんですかね?」


 そんな彼に「『農業は何となく出来る』って言ったろ?」と答えると「おー。怖っ」と苦笑いが返って来た。自分でも少々怖いがこれが一般的な反応なのだろう。なるべく秘密にしたいがそうも行かないんだろうな。

 俺も釣られて苦笑いを浮かべていた。


「じゃあ、あっしは何か狩って来ますわ」


 グルドゥンはそう言って森に入っていった。武器は俺の作った石斧なので大して大きな獲物は獲れない。弓でもあればそれなりの事が出来るらしいのだが、今はネズミやモグラのような小さな生き物がメインになる。これで得られるタンパク質は十分な贅沢なのだが調味料が欲しい。せめて塩が欲しい。


「あ、それなら俺も行くよ」


 俺の目的は〈種〉だ。

 グルドゥンに頼んでいるのだが彼は狩猟で忙しそうだ。それなら自分で探した方が早いような気がしたのだ。


「構いませんが気を付けて下さいよ? この森は魔獣も多いですから」


 この世界で言う〈魔獣〉は〈獣〉と大して違いはないと言う。その形状は様々なのだが獣は魔法を使わない、魔獣は魔法を使うという違いがあるだけらしい。魔獣を食肉の為に狩る事はごく一般的にあるのだが、ゴブリンのような人型の魔獣を狩る時は大体〈駆除〉が目的となる。どうやら地球と同じように、二足歩行の生き物を食べるのには忌避感があるようだ。逆にゴブリンが人肉を食す場合もあるのだが大抵は不味いので仕方なくといった理由らしい。

 グルドゥンがニヤニヤ笑いながら人間の味を語った時は背中に薄寒いものが走った。彼なりの冗談だと思いたいものだが一応食糧には注意しないといけないようだ。

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