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過去話 お洒落と決意

もう一歩も動きたくない。

私は、鉛のように重い体をベッドに沈めてそう思った。しかし現実は無情。この後は昨日から始まったプロジェクトとやらの一環である、湯浴み時のケアとエステがあるのだ。嘘だろ、こんなに疲れてるのに。


今日は、おじさまが言っていたように勉強やらなんやらの予定は全くなし。そのかわり、朝食後、直ぐにマダムローズ+数人がやってきて、私は着せ替え人形と化した。マダムローズとは王都一人気のデザイナーで、王都一人気のオートクチュール、兼お針子さん。叩き上げのスキルと抜群のセンス、また新しいもの好きで、幅広い世代の貴族に人気の人らしい。なので、マダムローズはいつも予定がぎっしりなところ、今回はおじさまとおばさまのコネで急遽来てもらったという。なんだろうか、コネって。そしてこのマダムローズがまた凄かった。見た目は優しそうなマダムで、金縁メガネが印象的だったのだが、来て早々、「何という原石!来ましたわ来ましたわ!インスピレーションがジャンジャン降ってきましたわ!!」と目を輝かせて叫んだ。この私が人見知りを発揮する間も無く、来ていたワンピースを剥ぎ取られ、まずは採寸。その後は既製品のドレスを何着も代わる代わる着せられ、くるくる回ったり歩いたりさせられた。どれだけのドレスを購入したかは把握できていない。同時に小物も購入していた。


ある程度既製品の着せ替えが終わったら、そのうちの一つを着せられたまま、マリアによって化粧とヘアメイク。呆然とする私を無視して事は進み、マリアは見事アイリスやおばさまから合格を貰っていた。よって、マリアは今日から私付きの侍女兼化粧とヘアメイク担当である。いや忙しいな大丈夫かマリア。


着せ替え人形から解き放たれたと思ったら今度はオーダーメイドドレスのデザインや生地選び。流石はプロのデザイナー、私がマリアに化粧などを施されている間にいくつものデザインをシャッシャッと書き殴っていた。それを見てアイリスやおばさまが真剣に意見を飛び交わしている中、私は白く燃え尽きたかのように項垂れていた。というか、まず話を聞いてもよくわからない。もう少し、いやまじで、流行とかオシャレの知識、勉強しよ…。


みんなの熱い議論はとんでもない盛り上がりを見せ、もはやどれだけのドレスと小物「靴含む)を購入したか考えるだけで頭が痛い。私はただ遠い目をして、マリアが入れてくれたお茶を飲んでいることしかできなかった。


私がお茶を3杯飲み、お腹もタプタプになってきた頃、ようやくマダム達の議論は終わりを迎えた。生き生きとした顔で颯爽と帰っていくマダムを見送って、タプタプのお腹に何とか昼食を詰め込んだ後、今度はおじさまも加わって宝石商の方を迎えた。


そしてまた胃が痛くなる時間が始まった。宝石商のおじさんはニコニコしながら数々の宝石と、装飾品を取り出した。気に入った宝石があれば、こちらもまた装飾品に加工してもらえるらしい。お察しかと思うがもちろん私はさっぱりわからなかった。値段も見ないフリをした。


おばさまやアイリス、さらにはマリアまで加わって、あーでもないこーでもないと言い合いながら煌びやかな宝石を囲む姿はいっそ笑えてきた。ははは、私はもう何もわからない…。

おじさまはおじさまでおばさま、アイリスに贈る宝石も別に選んでいた。さすがおじさま、モテるはずだわさ。


首やら耳やら腕やらに装飾品を当てられたり、顔映りがどうとか、あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜もうわから〜〜〜〜ん!!好きにしてくれ!と、私は自分の体を彼女たちに委ねた。


全てが終わった後の夕食の席で、私はぐったりと項垂れていた。対してアーサー以外の三人は非常に元気で活力漲っていた。こんなにハードな1日は初めてだ。無理、夕食とか無理。


「シルヴィ、大丈夫か?」


「アーサー…ええ、いや、あまり…」


あんまりにも私がぐったりしていたからだろう。アーサーが見かねて声をかけてきた。アーサーは今日は登城して、騎士団での演習があったらしい。なんだかんだ家にいた私よりよっぽど疲れているはずなのに、そんな様子は微塵も感じられないから尊敬する。


「だろうな。久しぶりに外部の人間と接したんだ。無理はしないで今日は早く休んだ方がいい」


「ありがとうアーサー、そうさせてもらうわ」


アーサーの優しさに思わずジーンと感動してしまった。みんな優しいけど今日は怖かった。あのテンション、正直ついていけない…。


「ところでお兄様、今日のシルヴィを見て何も思いませんの?昼食もいらっしゃらない日でしたから、私夕食でのお兄様の反応を楽しみにしていましたのに」


「シルヴィはどんな格好をしても似合うな」


「そういうことでは…はあ〜〜〜全くだめだめですわねぇ」


「ダメダメとはなんだ。そういうことを聞いてきたんじゃないのか」


「ちょっと違いますわ。はあ…もう、知りません」


呆れているアイリスを横目に、私の心はフィーバー真っ只中だった。どんな格好でも似合うって!くっ…アーサーめ!イケメンがそんか簡単に女の子褒めたらいかんよ!勘違いしてしまうよ!まあアーサーのそれは妹分に対するものなんだけどね、勘違いすんなよ私!


ゼエゼエ、心の中で荒い息を整える。器用だな私、がんばれ私。そう、もうお察しの方も多いかもしれないけど、私はアーサーが好きだ。恋愛的に。だってさ、小さい頃からこんな格好いい人がそばで私のことを気にかけて、大事にしてくれてるんだよ?どこの少女漫画だよ、好きになるしかないよ。でもね、私はちゃんとわかってるよ、幼馴染ポジションって少女漫画では報われない事が多いんだよ!そもそも、アーサーはまじで私のことアイリスと同様に妹としか思っていないって事がわかる。わかりすぎるくらいわかる。アイリスよりも私の扱いが丁寧なのは単純に私の性格とか、生い立ちの所為。アーサーは、私を守るべき妹分と認識している。


だから別に、期待はしていないし、こんな厄介な娘をドルイット家の嫁に…なんて図々しいことも考えていない。私は将来魔道士か研究者になってこの家から出ていく。だからアーサーへの想いも断ち切らなくちゃ…。


なんて思うと思うか?うるせ〜〜〜〜〜〜知らね〜〜〜〜〜〜!!!!

そんなシリアスなヒロイン面できね〜〜〜〜!!!魔道士か研究者は目指す。これは決定事項。だってこれは、公爵家という後ろ盾がないに等しい私が、この実力主義国家で自分の立ち位置を確立させるために必要な事だから。それはいいの、てかそれならいいじゃん。もし魔道士になれたら、もし研究者になれたら、私って結構価値ある令嬢じゃない?見なりにだって気をつけ始めたし、マナーも教養も学んでる。顔だって整ってる方だし、これで手に職つけたら別に何も後ろめたいことなんてないよ。公爵家に捨てられた?関係ないね。私今魔道士(研究者)だも〜んってスタンスを取れればいいじゃない。それに最近は幼馴染みものの少女漫画なんてザラにあるし(?)


つまりね、別にアーサーが好きならくだらない理由で諦めるのはやっぱりやめにしようって思うわけ。こんな厄介者、ドルイット家のためにも家を出て行かなきゃ…って思考はすでに逃げだよね。アーサーに振られるのが怖いから。どうせ家でてくなら当たって砕けた方がいいじゃん。


砕けないように努力したってバチは当たらないはずだし。もちろんアーサーがちゃんと好きな人ができたら話は別だけど、それまでは私が頑張ってもいいよね、うんうん。


夕食が終わり、冒頭のようにベッドに寝転がっていた私は覚悟を決めた。アーサーにアプローチする。でも今日は疲れた。疲れすぎてかなり心の中で言葉遣いが乱れた。失礼、私、昂るとちょっと言葉が乱れるオタクですの、オホホ。今後は気をつけるからもう寝かせてくれない?


そんな私の願いも虚しく、部屋にやってきたエステ隊によって、私は風呂にひきづられるのであった。

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