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過去話 シルヴィ改造計画

ここから先、基本シルヴィターンで参ります

この二足草鞋の生活に、初めは戸惑ったものの、2ヶ月も経てばいやでも慣れてきた。だって寝たら勝手に切り替わるし。今まで自覚してなかっただけでずっとこうやって生活してきたわけだし。そして、私の性格の変化に、初めは驚いていたドルイット家の人々も、今ではすっかりいつも通りだ。


ちなみに、詩織のターンで調べたところ、今のところシルヴィのいる世界観の乙女ゲームや小説、漫画やアニメなどはなさそうだった。この世界、私のいる国の名前はラディアナ王国という。世界観は中世ヨーロッパ風。魔法ありのファンタジー世界。魔獣なんかもいたりする。階級はわかりやすく、王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵、平民。騎士は階級ではなく称号のようなもので、優秀であれば貴族でも平民でも、そして男でも女でもなれる。魔道士も同様。そこはなかなか優しい世界でよかった。


私は公爵家の令嬢でありながら、ネグレクトされて侯爵家にお世話になっている居候。今まではそれが申し訳なくて、実の家族に見捨てられていることが悲しくて悔しくて、捻くれてうじうじ悩んでいた。あまつさえ、その惨めったらしい被害者意識でおじさまやおばさま、アーサーやアイリスが注いでくれている愛情を心の底では信じられず、悲劇のヒロインぶっていた。つまり可哀想な私に酔いしれて、それを免罪符にしたく無いことから全力で逃げて、やりたいことだけやっていたわがまま娘だったってことだ。何それ恥ずかしい。


そこで私は、シルヴィ改造計画を始動させることにした。自室の机の引き出しを開き、私は数日前から書き記していた書物を取り出し、ペラペラめくった。


客観的に私自身、シルヴィを捉えることができるようになった私は、今までの私に引いた。もう全力で。詩織の記憶を共有できる今、私は私の状況が、そんなに悲惨では無いことが理解できる。なぜなら私は今愛されているから。気恥ずかしくなってしまうが、これは事実だ。ネグレクトという問題は確かに深刻だし、見過ごしておける問題では無いのかもしれない。だけど私は知っている。その問題を抱えているのは私だけでは無い。今まで見ないようにしてきたけれど、この世界にもたくさんあるし、日本にだってたくさん溢れている問題だ。ニュースになることだってある。そしてニュースに流れるとしたら、それはほとんどが最悪のパターンだ。


それに比べて私はどうだろう。私は5歳の時に救われた。そして今幸せだ。ならそれで良いはずだ。親子だ兄妹だ言っても、所詮は他人。分かり合えないことだってある。そしてあちらは私の話など聞こうとしない。周りの意見も。ならそれで良いじゃ無いか。私がすがりつく必要なんて無い。今の私にはドルイット家のみんながいる。過去は忘れて、未来を生きなきゃね。


と、いうわけで。自分の中に折り合いをつけることができた私は、今まで自分が目を背けて逃げてきた問題と向き合うことにした。それは、貴族令嬢としての義務。社交やマナー、教養、そして将来のこと等。マナーやダンス、令嬢としての教養はすでにおじさまとおばさまにお願いして、家庭教師の先生に来ていただいている。今までサボっていた分を取り戻すため、かなりハードなスケジュールとなっているがこれは自業自得なので甘んじて受け入れる。必要最低限のマナーしか身につけていなかった私が悪いの、私が悪いのよ、うう…。


そして将来のこと。私は幸いにも勉強ができる。今まで令嬢としての義務を放棄して、ずっと勉強や魔法の研究をしてきただけあって、知識量もさることながらジャンルの幅広さやレベルもかなり高レベルのものを理解している。まあつまり私は魂レベルでオタクなんだね。自分の好きなことには全力ってやつ。小さい頃に現実逃避の一環で魔法にどハマりして、そこから研究に手を出すほどにのめり込んでしまった。アーサーやアイリスが家庭教師の先生にお勉強を教えてもらう前に、私は独学でその上の上のさらに上レベルの勉強を済ませてしまっていた。貴族の子供は、15歳になったら王立学園に通うことになっている。普通は、その学園での勉強のための下準備、くらいの勉強を15歳までに身につけておけば良いところ、私はその上の学術院入試レベルの学力を持っているというわけ。ちなみに学術院は、まあ日本で言う大学、それも東大レベルの学校というよりは研究所に近い。年齢問わず、高レベルの勉強そして研究がしたい人が入る機関だ。また、おじさま達曰く、私には魔法の才能がある、らしい。アーサーたちがお勉強している時間、私は家庭教師の先生から魔法の技術について教わっていた。つまり実技。これがめちゃくちゃ楽しいんだな。ファンタジー万歳。


話を戻して、将来のことなんだけど、私は多分嫁にはいけない、よねぇ。だって訳ありだし。実の両親は私のことなんてもう忘れてそうだし。というかあの人たちは私をランドール公爵家の恥だと考えているから、政略結婚の道具としても使う気はなさそうだ。と、いうわけで私は将来独り身でなんとか生きていかなくちゃいけない。今は子供だから良いけど、アイリスには婚約者がいて、学園を卒業したらお嫁に行ってしまうし、アーサーは今婚約者はいないけど、きっと素敵な令嬢と結婚して、このドルイット家を継ぐ。そこにいつまでもこんな魔法オタクが居候していたら迷惑だ。寂しいけどね。だって私…いや、やめよ。とにかく、私は独り立ちしなくちゃいけない。そしてこの世界、この国は女性の就職に優しい。能力があれば女性でも仕事ができる。よって私が目指すのはずばり、魔道士だ。しかも王宮付きの。王宮付きの魔道士は女性も一定数いて、独身者や地方出身者のために寮があるのだ。なんて素晴らしい。魔道士がダメなら学術院に入る。こちらは研究オタクが多く、わざわざ家に帰るのも面倒くさいという人がとても多いらしい。よってこちらも敷地内に寮が存在する。学術院でそれなりの成果をあげれば、正規の研究者と国から認められ、御給金がもらえ、寮もタダ。私にはもってこいの環境だ。


したがって、この将来の夢を掲げ、これからも勉強と魔法の鍛錬、研究を重ねて行こうと思う。その上でシルヴィ改造計画を進めて行こう。当面はマナー、ダンス、教養だ。


「お嬢様、ダンスの先生がいらっしゃいました」


「ええ、今行きます」


マリアに声をかけられて、私は『シルヴィ改造計画』と日本語で書かれている書類を引き出しにしまう。万が一誰かに見られても大丈夫なように、私はこの計画書を日本語で記しているのだ。これは異世界ものの物語から得た知識だ。


今日もまた、ある程度、最低限は貴族令嬢と呼んでも良いくらいには成長するために、嫌がる心を無視して、家庭教師の先生のもとに向かうのであった。

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