過去話 夢の夢?
私もごちゃごちゃしてきた。
そして、目が覚めた。
あれ?あれれれ?今私、寝たわよね?いえ、あれは夢?朝起きて、眠るまでの夢?そんな夢があるのかしら?
「シルヴィ!よかった、目が覚めたのね…!」
「アイリス…?」
そう、この娘はアイリス、私の大切な幼なじみ。そう、私はシルヴィ、シルヴィよね?シルヴィだわ。
「シルヴィ、頭の怪我は痛まない?というか覚えてる?あなたお庭で転んで、頭を打ってしまったの」
「ええ、ええ、覚えているわ。何もないところで…本当に鈍臭い…頭は大丈夫、あまり痛くないわ。それよりアイリス、まさかずっと付いていてくれたの?」
どれだけ気を失っていたのか分からない。外が明るいからそんなにかしら?だとしても申し訳ないわ。彼女は午後から剣の稽古とお勉強があったはず。
「ええ、お父様やお母様、マリアやお兄さま達と交代でね。あなたは丸一日気を失っていたの」
「一日!?本当に…?」
本当よ、とアイリスは頷いた。ええ、それは私、寝すぎじゃない?あんまり痛くないし、大した怪我じゃなさそうなのに。…あ、もしかして寝不足だったからかしら。どっちにしろ、迷惑をかけてしまったわ…。
「ごめんなさい、それは大変な迷惑を…」
「迷惑なんかじゃないわ!私やお兄さまがもっと早く気付いて支えてあげれば…!悔やまれるわ。それにシルヴィ、私たち、心配をしていたのだけれど?」
アイリスが拗ねたようにこちらをみてくる。さっきは悔しそうに眉を寄せていたのに、くるくる変わる表情はどれをとっても美人だ。生粋の美人はどんな顔も美しい、分かるわ、住む世界が違う、是非鑑賞したいわね。あら、私、今何を考えたかしら?
「ごめんなさ…あ、ありがとう、心配かけてごめんね」
「いいのよ!私、絶対シルヴィを守れるように強くなるわ!お兄さまより頼りにしてね!」
「まあ、アイリスは充分私を守ってくれているわ。頼りにもしてる。むしろ頼りすぎかしら」
「そんなことないわ!ああ、そうだ、シルヴィが起きたことをみんなに伝えなくちゃ!待っていて、シルヴィ、安静にしててね」
アイリスは今度は笑顔で、いつもなら、はしたないからと言ってしないのに、扉を開けて走って行ってしまった。私は小さく手を振って、そしてまた襲ってきた奇妙な感覚に思考を巡らせた。
…これは何?現実?夢?
いいえ、これは現実だわ。私は今この瞬間、現実を生きていると断言できる。だって頭の怪我は本物だもの。頬を抓ったら痛いし、お腹も空いてる。私の手を握ってくれていた、アイリスの手は暖かったわ。みんなみんな、現実よ。では、彼方が夢?あの井上詩織とかいう娘は私が見ていた夢なのかしら?
本当に?
だって井上詩織は『こちら』が夢だと結論付けたのだ。夢日記まで書いて、もう同じような夢を見ることはないだろうと信じていた。見れたら面白いけど、まあ無理だよねって。
ではやっぱり、こちらが夢なのだろうか。
だけど、だけど。
だけどやっぱり、今の私はその結論に至れない。
だって記憶がある。私の記憶、紛れもない、私の。あの時の怒りも、悲しみも、喜び、楽しさ、恥ずかしさ、様々な感情も全て私のもの。これが全部夢だというの?
私だけじゃない。アーサーも、アイリスも、おじさま、おばさま、マリア、庭師のトムおじさん、執事のヴォルフ、次女の人たち、従僕の人、料理人、お屋敷に住むみんな、みんな存る。まちがいない。王族、貴族、平民、この国の人たち、他国、世界、これまでの歴史が物語ってる。この世界が存在してるってこと。夢なんかじゃない。
だけどそれは、彼方も同じこと。
ああ、もう、ごちゃごちゃしてきた。目が回っているようだ。ぐるぐるして気持ち悪い。
思考が定まらなくなってきたところで、パタパタと足音が聞こえてきた。アイリスが戻ってきたのだろう。後ろに他の人たちの足音も聞こえる。
ちょうどいい、いったん考えるのはやめよう。それから私も夢日記をつけよう。もしかしたら今夜は、井上詩織なんて女の子、影も形もないかもしれない。
扉が開いて、アイリスが入ってきた。次いでアーサー、おじさまおばさま、マリア、トムおじさんも、ヴォルフもいる。
散らかった思考は放っておいて、今は目の前の大切な人たちにもみくちゃにされることに専念した。