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過去話 一年後

あの事故から約一年が経った。

二足草鞋の生活は思ったよりも順調に楽しくやれているように思う。ちなみにシルヴィ改造計画とアイリスの立てたプロジェクトは上手くいっていて、私は見た目も中身もそこそこ見れるレベルの令嬢になっている、と思う…。いや、客観的に見てもわからん、私ってまじでちゃんと令嬢できてんのか?まあいいか。


シルヴィ改造計画は上手くいっているといったが、最大の成果は何といっても、魔道士になれたことだ。ふふふ、もう一回言おう、私は魔道士になれた、この歳で、こんなに早く。しかも王宮付きの魔法省勤めだ。ヒャッホウ。


何と、今まで行っていた魔法の研究とその研究結果に基づいて書いていたいくつかの論文を王宮の魔法省に提出したところ、特例で魔道士になるための試験を受けさせてもらえたのだ。試験の内容は筆記と実技。今まで少し疑っていたけれど、私は魔法に関しては中々ハイスペックだった。チートだ。これってよくある異世界チートだ。見事試験に合格した私は、最年少で魔道士に認定された。本来ならば、年に一回、春に開かれる魔道士の認定式と魔法省の入省式に参加するのだが、私はなんと、国王陛下直々に認定書と認定バッジの授与をしてくださるらしい。何故って?いろいろ特例だからなのと家の事情があるからだよ。


この際なので王宮の魔法省などのシステムについて確認しておこうと思う。

この国、ラディアナ王国は王政であり、トップはもちろん国王陛下だ。政治も、統制も、最高責任者は国王陛下であるが、その下にいる各省の代表者も王を支え、国を治める重要人物である。何となく日本の政府っぽくて安心している。私が入省することになった魔法省だけでなく、省は分野別にいくつか存在している。例えば財務省、貴族省、外務省、防衛省、なんと厚生労働省なんてものもある。日本のとはまた少し違うけど。それぞれの省には所属を示すバッジがあって、入省の時に身に付けることを義務付けられる。魔法省と防衛省には二種類のバッジが存在していて、騎士と一般職員、魔道士と研究者または一般職員で分けられている。まあ日本で言う弁護士バッジみたいなものだね。ちなみにおじさまが騎士団長としてトップを務めるのが防衛省。貴族省は各年、この国の四大公爵家の当主が持ち回りで勤めている。あのネグレクト親父がトップの年があるだなんて世も末だな。


魔法省のトップは魔道士長である。現在はアイザック・バートリーが務めている。彼はバートリー男爵家の次男だったと記憶している。男爵家でありながらトップに上り詰めた努力と才能の持ち主。尊敬している。魔法に対して並々ならぬ情熱を注ぎ、今回の私の論文にもすごい量の質問や反論の文書を送ってきた。私もついオタク魂に火がついて、文書の三倍くらいのお返事を書かせていただいた。そして王宮でで会えるのを楽しみにしている、というメッセージとともに、私の試験合格通知が届いたのだ。実力主義って素晴らしい。


と、いうわけで私は今おじさまと共に王宮にいる。


もう一度言う。私は今王宮にいる。


ははは、5歳からドルイットの邸敷地内からほとんど外に出た事がない私が、まさか王宮にいるなんて…ね。冒頭でも触れたが、陛下から直接認定書とバッジの授与、魔道士長から入省の許可宣言がなされるからだ。アンビリーバボー、そんな仰々しい感じにする必要ある?あるのね、はあ、気が重い。


「そう堅くならなくてもいい。陛下も魔道士長殿も気の良いお方だ。シルヴィ、君は本当に凄いことを成し遂げたんだ。胸を張りなさい。私は君が誇らしいよ」


「おじさま…はい、ありがとうございます」


優しく笑うおじさまに少しだけ緊張が解けるのを感じた。おじさまの笑顔は凄い。と言うかおばさまやアーサー、アイリスもそう。彼らが笑ってくれていると、安心する。頑張ってきて良かったと思える。魔道士になれた時も、私よりも喜んでくれた。凄い凄いと褒めてくれて、アイリスやおばさまなんか涙ぐんで、マリアもすごく笑ってた。その事が、魔道士になれたことよりもずっとずっと嬉しかった。そういえば、アーサーには頭を撫でられた。すっごく嬉しかったけどすっっっごく複雑だった。そうか、やっぱり妹扱いか…頑張ってきたんだけどなあ、数ヶ月程度じゃ変わんないよねぇ。てかアーサー鈍過ぎ、私の努力不足だけが原因じゃないよ絶対(責任転嫁)。


そんなことを考えていたら、いつの間にか陛下の御前だった。ウッソだろ私。そんな気づかないことある?思考トリップし過ぎじゃない????


陛下はまあ素晴らしい男前だった。キラキラしてた。よだれも出た(嘘)。美しい赤い髪に蜂蜜を溶かしたような金色の瞳。子持ちのおじさんとは思えないほど若々しくたくましい身体…じゅるり、はっいかんいかん。


よだれを堪えつつ、陛下の隣に立つ人物に目を向ける。こちらは真面目そうなおじさまだ。深いグリーンの髪と同じ色の瞳がなんともミステリアス。背も高いしモテそう…この世界もしかして顔面偏差値高過ぎ?そんなことある?


「やあ、わざわざ来てやったぞ」


お、おじさまーーーーーーー!?えっ、陛下の御前だよね!?ここ、え??????(困惑)


「お前…一応国王の前だぞ。姪御殿が困惑しておろう」


「全くですね。いくら我々しかいないとはいえ、初めの挨拶くらいまともにしたらどうなんだ?」


「ははっ、まあ良いじゃないか」


和やか…だと…!?こんなに和やか良いのかこれ。国のトップとの対面だよ?困惑する私をしてやったり顔で見たおじさまはまた笑った。もう何が何だか…。


「すまんすまん、さ、シルヴィ、挨拶を」


「あ、え、は、はい。ご挨拶が遅くなりまして申し訳ありません。シルヴィ・ランドールでございます」


この状態で!?いや、もう、いい、諦めた。もうなんかいいや。うん、いいじゃないか、すんごい怖い人とかじゃなくって。私は慌ててカーテシーと共に名前を述べた。


「ははは、挨拶が遅れたのは私達のせいだから気にしなくて良いよ。それよりシルヴィ嬢がこんなに美しく、カーテシー1つとっても素晴らしい令嬢だとは驚いたよ」


「何?お前私の言葉を疑っていたのか?」


「ウィリアムは親バカだからなあ…誇張して言っている疑いが晴れなかったんだ」


「私も陛下と同意見ですね。っと、そろそろシルヴィ嬢が限界ですね。さっさと授与と宣言をしてしまいますか」


「それもそうだな」


そこからは先ほどまでの空気が嘘だったかのように真面目に認定書とバッジが陛下から授与され、魔道士長からも宣言をしていただき、そして握手をして本当にさっさと事は終わった。あまりの温度差に私の心は困惑が増し、正直胃がキリキリしてきた。なんたる無様な。

そんな私の胃の状態など知らない大人三人組はまたも和やかに談笑を始めた。そしてとても優しい目で、私の方を向いた。


「シルヴィ嬢、君は最年少で魔道士となった。これは特例ではあるが、対応は変わらないことを約束しよう。そのバッジは今日からなるべくいつも身につけるようにしてほしい。当然、学園に入学してからも制服につけるように。君は家のことで苦労しているとの報告を受けている。言い方は悪いが、君がただの一令嬢に過ぎないなら、私が君に何かしてあげられる事はほとんどない。だが君は努力し、実力を示した。誰に何を言われようとも、君は魔法省の職員であり、王宮付きの魔道士だ。君が国のためにこれからも魔法の研究をし、その力を使ってくれる限り、私は王として、そしてこのアイザックは魔道士長、君の上司として君を守ると誓おう。もちろん、ランドール公爵家は君が望まない限り君に手を出す事は今この瞬間をもってできなくなった。安心しなさい」


「私も、君の実力を認め、部下として、仲間として、そして同志として君を守ろう。君の魔法の研究も、実力も、知識も、並大抵の努力では獲得できなかったのだろう事は想像に難くない。その努力に敬意を表し、君のこれからの居場所をより良いものにしていくことを約束する。これからよろしく頼む」


「シルヴィ、さっきも言ったけれど、君は本当に凄いことを成し遂げたんだよ。君は自分で、自分の未来を切り開いたんだ。それも、考えうる限り最善とも最高ともいえる未来だ。君は力を示した。それは君を押しつぶそうとする、くだらない考えを持ったくだらない人間を跳ね除ける力だ」


涙が出そうだった。認められた、その事が堪らなく嬉しかった。ドルイット家のみんなだけでなく、私の力は認められるものなんだって、そのことをようやく実感できた。私はなんて恵まれているんだろう。その事実がまた私を歓喜させた。家族には恵まれなかった。だけど私は不幸じゃない。私には守ってくれる人たちがたくさんいるのだ。私自身を見て、評価してくれる人たちがいるのだ。


涙がにじむ目に気づかないふりをして、私は精一杯の笑顔とお礼の言葉を口にした。

今日は驚くことばかりだったけれど、同時にとても嬉しいこともあった、そんな日になった。

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