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最後の日

 眠気でぼんやりした頭が少しずつはっきりしてくる。


 ふと目を開けると、エーディスさんと目が合う。

 微笑みかけられて、昨日の記憶が戻ってきた。

 身体を撫でる手の感触を思い出して、頬に熱が上がってくる。



 ちらりと自分の格好を確認する。

 服は……キチッと着てる。

 変な感覚とかは、ない。


 ……。


 たぶん、寝落ちしたわ。



「エーディスさん……」

「おはよう、ツムギ」

「おはようございます……。すみません、ね、寝ちゃって……」

「ん? 大丈夫? 頭痛いとかある?」

「いえ……大丈夫です」



 エーディスさんが微笑み、私の頭をそっと撫でる。

 優しい手つきに、思わず目を細める。


 その表情が、切ない。


 ……明日には、還るんだ。



「エーディスさん、今日は……?」

「準備は終わらせたから、今日はどこか出掛けようか?」

「はい!」



 一緒にいられるんだ!



 ウキウキしながら、ピクニックに行くことにした。

 サンドイッチを詰めて、飲み物もって。



「さ、お手をどうぞ、お嬢さん」



 エーディスさんが笑いながら私の手を取り、シオンに乗せてくれる。

 その後ろに身体を軽くしたエーディスさんが跨がり、いざ出発!




 向かった先は、以前花粉を採った泉の畔だった。

 前回は夜に来たけど、昼間も湖面がキラキラしてとても素敵な景色だった。

 あの花は咲いていないけど、違う色とりどりの花が咲いている。



 シオンは嬉しそうに草を食み、私たちは草のクッションの上に腰を下ろしてとりとめのない話をした。



 話しながら、手慰みに花冠を作ってエーディスさんに載せてやる。

 うーん、似合う。

 彼はしげしげと花冠を眺め、


「器用だね~」


 と呟く。


「そんなに難しくないですよ。作ってみます?」



 ふたりで花冠を作って遊んだ。

 その後は、笹のような葉っぱで舟を作って泉に浮かべたり、草笛をプーピー鳴らしたりと野性味溢れる遊びを教えてあげると、エーディスさんはいたく感心した。



「こんな遊びしたことないや。幼い頃から王宮へ出入りしてたからあんまり同年代の友達とかも居なかったし……」

「そうなんですか……」

「面白いね、これ」



 つんつんと笹舟を揺らして言うエーディスさんに、パシャリと水をかける。

 エーディスさんが一瞬驚いた顔をしたあと、ニヤリと笑って私にも水をかけてくる。

 しかし私は飛沫を気にせず、仕込む。



「ふふふ……いけ! 水鉄砲だ!」


 手に溜めた水を勢いよく噴射してエーディスさんの顔をびしょ濡れにした。



「わっ!なにそれ! ……よーし、そうくるならこうだ!」



 指を突きつけると、そこから水が噴射されてくる。

 あー! 魔法か! それは卑怯だぞ!



「ズルしないでくださいよ!」

「ズルじゃないよー」


 お互い笑いながら攻防が続く。

 私も負けじと手から水を出すが、見えない壁に弾かれた!?


 なに~!?



「ずるいずるい!」

「ふっふっふ」



 防御魔法まで展開し出したエーディスさんに水をかけられ、私はびちょびちょだ。

 もう知らん!


「てーいっ!」

「うわっ!」


 私はエーディスさんに飛び付いて体当たりして、無理やり一緒に泉に落とした!



 ざっぱーん!


 頭から落ちた私たちは水面に顔を出し、笑いあった。


 泉はそこまで深くなかったので立つと胸の辺りまでだ。



「やってくれるね、ツムギ」

「エーディスさんこそ、防御魔法はズルいでしょ?」

「えい」

「ぶっ! ……やったな~!」




 はしゃいで遊んで、完全な濡れ鼠になった私たちはようやく水から上がり、草の上に寝そべる。


 エーディスさんは服を脱いで上半身裸である。

 見たことは何度もあるんだけど、なんとなく直視できずに目をそらす。



 ズボンは履いたまま乾かしたらしく、あぐらをかいたエーディスさんが私をちょいちょいと呼ぶので近寄ると腕を捕まれてその上に座らされた。



「ちょ、また濡れちゃいますよ!?」

「乾かしてあげるから大人しくして?」



 背後から抱き締められて、なにも言えなくなった私は動かずにじっとしていた。

 無言のまま、服が乾いていくのを感じる。


 乾いたあとも離してくれないので、声をかけてみた。


「乾きましたね……」

「身体が冷えてるよ」

「そう、ですか?」

「うん……」



 エーディスさんの唇をうなじに感じて、ピクリとする。

 お腹に回されている腕が脇腹をくすぐるように動き、思わず身じろぎしてしまう。



「え、エーディスさん。……サンドイッチ食べませんか?」

「ん、そうだね。お腹すいてきた」



 ぱっと放されて、食事にする。

 食べたあと、ごろりと横になり、目を閉じるエーディスさんの隣で同じように横になる。



「私……明日、還るんですね」

「うん……」

「なんか、信じられないです」

「心配しないで。上手くいくから」

「そこは信じてますから、大丈夫ですよ」


 私がそう言ってエーディスさんを見つめると、私の頬を撫でながら、そっと目を伏せ小さな声で呟く。


「君は……少しくらいは、還りたくないって思ってくれてる?」



 私が目を見開くと、彼は笑いながらゆるゆると首を振った。



「ふふふ、冗談だよ。答えなくていいからね」



 私はエーディスさんに、抱きついた。



「ツムギ……」

「色々、ありがとうございました」



 背中に回された腕が強まる。



「エーディスさん……大好き」



 そう言って、唇を寄せる。

 何度もキスを交わして、見つめあった。



「好きです、好き……」

「俺も……好きだよ」



 上気した頬に、情欲のけぶる瞳。

 躊躇うようにそっと背中を撫でる手。


 私は覚悟を持って頷いた。



「エーディスさんになら、何されても、いい……です」



 返事の代わりに、口づけが深く、長いものになる。

 誰にも触らせないところに、そっと触れる指先に、喜びすら感じる。


 長いキスが終わり、耳許で囁かれる。



「……帰ろう」



 慌ただしくシオンに乗り、帰宅の後。


 私たちはお互いを求めあった。


次100話!

ようやく還ります。

やるかやるまいか悩んだんだけど、まあ、良いよね?と、思いましたまる。

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