別れの挨拶
仕事を終え、お別れ会をしてくれるというみんなに連れていかれる。
今日は急すぎて無理だとぶーぶー言っている人もいたのだが……。
「明日は明日で前日になっちまうもんな?」
「ソマ副長と過ごすんだろ?」
「てことは今日しかない!」
という三段活用で今日になった。急に言って申し訳ない……。
エーディスさんと過ごすかどうかはちょっとなんとも言えない。
今も、術式の調整で王宮へ行ったきり戻ってきていないし……。
最後の一日くらいは一緒にいたい、けど。
「それにしても異世界ねぇ……」
「そんなのが本当にあるなんて……」
「まあでも、納得いく部分もあるよな」
「色々知ってるのに変に無知なことあったし、こっちの知識がないって思えばなるほどな~って感じだよね」
お店に着き、思い思いに飲み物を注文し、リンガーさんが乾杯の音頭をとる。
「よし、ツムギが無事に帰還できるように力を尽くそう! 乾杯!」
「「「乾杯!」」」
「ツムギ殿、せっかくだから飲んだらどうだ?」
「ジープスさん……。そうですね」
私は言われるがままにお酒に口をつける。
NO未成年飲酒! でも飲まないと落ち込んでやってられない気分だ。
喉がカッと熱くなる。
「げほっ」
「わあ、そんな一気に飲んだらむせるって!」
元モレルゾチームの騎士が親切に水を渡してくれる。
私はそれを飲みつつ、ちびちびお酒を舐めた。
「寂しくなるな~」
「本当だな」
「戻ってこれるのか?」
私はその問いに首を振って答える。
「だよなぁ……」
戻ってこれるならこんなに今胸を締め付けられることはないだろう。
厩舎の皆がとても良くしてくれたから、ここでの仕事を続けられたと思う。
皆に会えなくなるのは、寂しい。
「今生の別れになっちまうのか……」
「うっうっ! 寂しいぞ!」
泣き出す隊員にかける言葉が見つからない。
「よ! ツムギ」
「還るんだって?」
「ルシアンさん、クリオロさん!」
「リンガーに言われて慌てて来たぞ、もっと早く言ってくれよ……」
「すみません……」
「まあ、事情があるんだろう、責めてやるなよ」
来て早々、口を尖らせるクリオロさんをなだめるルシアンさん。
そこへリンガーさん、カシーナさんアラグさんペルーシュさんがやってきた。
カシーナさんたちは揃って浮かない顔をしている。
私も人のこと言えないけど。
「ツムギ……」
「すみません、色々と……」
「謝らないでくれよ、俺たち、ツムギには感謝してるんだぞ」
潤んだ目のカシーナさんがそっと私を抱擁する。
「あなたのお陰であたしはスレプニールの騎士になれたようなものよ。……ありがとう」
「カシーナさん……」
「ツムギが居なかったらフィリーチェと上手くいったかわからないよ、励ましてくれてありがとな……」
「ツムギの頑張りを見て、勇気を貰ったよ!」
「スレンピックで結果を出せたのは君の尽力あってこそだよ」
「この厩舎の空気を変えたのはお前だ、ツムギ。感謝してるぞ」
口々にチームメイトが私に感謝を述べる。
くそ、涙腺を刺激するんじゃない……!
私はお酒を煽り、無理やり笑顔を作った。
「私こそ、皆さんが居なかったら……
全く知らない世界で、ここまでやってこれたのは、間違いなく皆さんのお陰です。
ほんとに、本当にありがとうございました!
……ほんとに、、
皆さんに、会えて良かったです」
泣きそうになって、目を伏せる。
カシーナさんが私にぎゅっと抱きつく。
私もカシーナさんにしがみついた。
「元気でね……」
「うう、……さ、寂しいです」
カシーナさんが泣いてる。
それを見て、私もポロリと涙が溢れ、頬っぺたを伝う。
一度決壊した涙腺が止まることはなく、ひたすら止めどなく流れる。
色々なことを思い返していた。
カシーナさんに騎乗を教えたこと。モレルゾとやりあったこと。皆でご飯に行ったこと、スレンピックの練習をしたこと……。
いつも頼もしいリンガーさん。
穏やかで気遣い屋のルシアンさん。
ムードメーカーのクリオロさん。
真面目で熱血なアラグさん。
意外と行動力のあるペルーシュさん。
向上心があってカッコいい女性のカシーナさん。
そして、エーディスさん……。
スレンピックという目標に向かって一丸となって頑張ったあの半年間。
とても濃密な時間を過ごせた。皆のおかげ。
そんな皆に、もう会えなくなるんだね……。
しんみりしてしまった会はなんとなくお開きになった。
最後の日、還るときにまた会えるだろうけど。
「ぐすっ」
「あ、ツムギ。エーディスさんが迎えに来てくれたわよ」
背中を撫でてくれていたカシーナさんの優しい声に顔を上げる。
エーディスさんが泣いている私に目を止め、眉を下げた。
「それじゃあ、俺らも帰るか。また明後日、な」
「はい……」
皆を見送り、エーディスさんが私に手をのばす。
その手を取ると、転移した。
家に着く。
お風呂に入り、髪を乾かしてもらう。
お酒のせいか、頭がふわふわして、とても眠たい。
「お酒、飲んだの?」
「のみました……」
「気分は?」
「だいじょーぶ……」
「そっか、もう寝る?」
そんなこと言わないで欲しい。寝たらまた、還る日が近づいてくる……。
「寝ない!」
ベッドに隣同士で腰かけていたエーディスさんの腰だめに抱きつく。
そのままベッドに倒れこむ。
微かに笑っているエーディスさんの胸元に頬を擦り寄せる。
「寝たくない……です」
すりすりと感触を楽しみながら、ぼそぼそと呟く。
「寝たら、かえる日、来ちゃう……」
「じゃあ……何か、する?」
「ぎゅってして……」
エーディスさんが私に腕を回してくる。
ふと、思い出して聞いてみた。
「身体、うごくの……?」
「まあ、完全にではないけど、日常生活に支障はないくらいには動くよ」
「復活はやくない!?」
ちょっと目が覚めた。
「魔法で筋肉を無理やり動かして、どう動かすか身体に思い出させた」
「せ、セルフリハビリ……」
私がおどろいていると、エーディスさんが頬に唇を寄せてくる。
「だって……ツムギに触れないなんて、嫌だし」
「ん、エーディスさん……」
口づけが降ってくるので、受け入れる。
深く、何度も口づけられて、なにも考えられなくなる……。
「ツムギ……」
「あ……」
首筋を撫でられて身体が小さく跳ねる。
唇を当てられ、胸元に手が、伸びる。
私は目をぎゅっとつぶり、与えられる刺激に耐え、
その甘いしびれに揺蕩った……。
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