今後の処遇について
目が腫れてもつっこまない優しいみなさん。
朝起きるとまぶたが重い。
そして熱い。
鏡を見ると、目が半分しか開いてなかった。
泣きつかれて眠るなんて、子どもの頃以来でないか?
くそっこの目どうしよう。
対処療法、濡れタオルで冷やす。
そう、冷えろ~冷えろ~と言うと、ジワーっとタオルが冷えるのだ。
魔法玉すごい。
魔法すごい。
さすがに、氷で~ろと言っても、出てこなかった。チッ。
泣いて多少はスッキリしたのか、気分の落ち込みは減った。
まあ、落ち込んでるけどね!
考えないようにする。
これからどうやって生きていくか、
生きていけるのか、
魔力なしでまともに生活できるのか。
ここで生活の援助してくれたとしても、
何かしら役に立てるのか。
いつか、帰れるのか。
そういうことを考えてしまうと
不安で不安でしょうがない。
心がぐちゃぐちゃになる感じがする。
だから、今は考えない。
なるようにしかならない。
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「さて、貴方の今後の処遇について話し合いを行うのですが」
銀髪の眼鏡こと宰相様(昨日グラネットさんに聞いた)、ゼクトさんが口火を切る。
ここはどこぞの応接室のような、昨日の謁見室と比べれば狭いものの、そこそこ広くて重厚な雰囲気の部屋だ。
ここには王様にお妃様はおらず、昨日よりさらに少ない数の人が集まっている。
もはや私の案内役・グラネットさん、ゼクトさん、そしてエーディスさん。
他に、昨日、王様に近い位置にいた気がするめっちゃ王子ルックの金髪の美青年。
柔和な顔つきの、でも昔名を馳せましたと言われても全く違和感を覚えないオーラが漂うお爺さん。
その他、護衛らしい騎士が部屋の外で待機している。
「その前に、一応自己紹介をさせていただきます。
私はゼクトルーヴィー・ジラーニュ・ワズィーリ。
この国で宰相を務めております。
名前が長いのでゼクトとお呼びいただいて結構です」
確かに長い、たぶんもう言えない。
遠慮なくゼクトさんと呼ばせてもらおう。
ゼクトさんが次に紹介しようとしたのは王子ルックの御仁だった。
彼はゼクトさんを制し、自ら前に進み出る。
「昨日は挨拶できず申し訳なかったね。
私はガルグール・インファ・クアルーズ。
この国の第一王子、と言えば分かりやすいかな」
おお、王子様!
本物の王子様!
「まさか異世界人に会えるとは!色々話を聞かせてほしい。宜しくね」
その綺羅綺羅しいルックスに爽やかな笑顔をプラス=女子爆発!
私は眼福を味わった。
一応、男ってことになってるから態度に出しすぎないように自制頑張ったよ……。
「こほん。それで、ガルグール殿下の隣にいるのが昨日も会ったと思いますがエーディス・ソマ。
彼は魔法師団近衛隊副隊長です」
なんちゃらかんちゃら隊副隊長というのがどんだけ偉いのかわからないが、
王様に国一番と認められている位なんだからすごい人なのだろう。
彼は興味無さそうに明後日の方を見ている。
この人も改めて見てもとてもきれいな人だ。
長い黒髪を後ろでゆったりと束ね、眼を伏せ、腕を軽く組んで立っているだけでも色気が駄々漏れしている。
印象的な緑色の瞳がちらりとこちらを見るが、すぐにそらされる。
まあ、怒ってるよね……。
「そして、こちらにいらっしゃるのが、前魔法師団長、ジーナスリーク・アメスパール閣下」
オーラ爺が好々爺然としたにこやかな笑顔で笑いかけてくる。
とりあえずこちらもにこやかに笑い返す。
同調するのが日本人。空気読みます。
と思ったら、頭を下げられた。
えっ!
「……すまない。ワシの不肖の弟子が迷惑をかけた」
「つまり、マルネイトはジーナス閣下の弟子だったのです。エーディスにとっては兄弟子に当たります」
苦々しそうなゼクトさんの追加情報が入る。
エーディスさんを見ると顔をしかめている。
みんな知り合いだったのか?仲は良くなさそうだけど。
グラネットさん以下、この場の全員の紹介も終わり、ゼクトさんが言う。
「話し合いの結果、貴方が異世界から来たと言うことは、内密にすることにしました。
今この場にいる者と、昨日いた者以外には、
貴方は遠い外国から来たと言うことで通しますので、そのつもりで」
「あなた様の安全のためですので、ご理解願いますぞ」
ジーナスおじいちゃんがじっと私をみやる。
私は神妙に頷く。
「わかりました」
確かに、迂闊に言わない方が良いだろうな。
……今までめっちゃしゃべっちゃってたけど!
「そして、貴方の処遇についてなのですが……。
学生、と言うことなので、学園に通ってもらうか、と思ったのですが、聞けばもうすぐ19歳だとか。
困ったことに、王立学園は18歳までなのですよ。
……無理やり留学生で押しきるか、そうでなければ何かしら仕事をしていただくことになるかと……。
今まで、仕事の経験は?」
「ええと、週に一回か二回ですけど、牧場でアルバイトしてました。
馬……こちらで言う、スレプニールに近い生き物の飼育と調教を学びながら働いてました」
「馬扱えるなら、厩舎で仕事してもらえばどうかな?」
にこやかにガルグール殿下が言う。
ふむ、とゼクトさんが眼鏡を押し上げる。
「貴方は如何ですか?学園に通うか、スレプニール厩舎で仕事するか、どちらが宜しいですか?」
学園かぁ……。
異世界トリップっぽい話の展開にはなりそうだけど。
でも、勉強付いていけるかな?
その辺に飾られてる何かの文字とか全く読めないし。
それに、
スレプニール!
馬!
「……。仕事します!
スレプニール、世話します!」
「わかりました。
では、アイカワツムギ殿は、遠い外国からスレプニールの扱いを学ぶために修行に来た、と言うことにいたしましょう。
私の遠い遠い親戚の知り合いと言うことにして、私の紹介でねじ込みます。
……それではエーディス殿、彼の面倒を見てもらえますか?」
エーディスさんが、今までで一番表情らしい表情を見せた。
イケメンはギョッとしてもイケメンだ。
「え!?俺ですか」
「ええ。貴方も一応、スレプニール厩舎にも籍はありますし。そろそろスレンピックですからちょうどいいでしょう?
彼のフォローしてあげてください。
彼、魔法使えないし、事情がわかってる人が近くにいる方が良いでしょう。
万が一何かあっても貴方がいればどうにでもなりそうですしね」
「……わかりました」
不承不承、返答するエーディスさん。
なんか、申し訳ないな……。
そこに明るい調子の声が飛ぶ。
「あ、エーディスの今住んでる別邸、部屋空いてなかったっけ?」
輝かんばかりの笑顔でガルグール殿下がエーディスさんに言う。
エーディスさんの顔が思いっきりひきつる。
ゼクトさんの眼鏡がキラリと光る。
「ああ、彼の住むところ、まだ決まってなかったんですよねぇ。
…私の紹介でねじ込む彼、置いてやってもらえま・す・よ・ね?」
「え?悪いですよ、どっかそれこそ厩舎にでも泊まれるとこあればそれで…」
「……わかりました」
私の訴えは届かず。
不承不承超え、苦々しく承知するエーディスさん。
ゼクトさんの無言の圧力、恐るべし。
大丈夫かな……?
エーディスさんめっちゃ迷惑そうだけど。
ゼクトさんは昨日の恐ろしい形相が嘘のような爽やかな笑顔で手を叩いた。
「さあ、これで決まりました。頑張ってくださいね、アイカワツムギさん」
いつも思うけど、なぜ毎度フルネーム?
ゼクトとマルネイトには因縁が。
(マルネイトには全くどうでもいい話)
エーディスとマルネイトの師事期間は全く被ってません。