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還る日

 早めにチェックインした宿は、ダブルベッドの一部屋だった。


 部屋の中で、エーディスさんと向かい合う。



「その……。ごめん。君が嫌になったなんて、そんなことあるわけない。これは……俺の問題というか……」



 歯切れの悪い言葉。

 エーディスさんは、目を伏せ、私にこんなことを聞いてきた。



「君の故郷にも新婚旅行ってあるんだろう? どういう感じなんだ?」

「どういう……? 普通に、記念の旅行みたいな感じですかね? 自分達のお祝い的な?」

「な、なるほど……。

 ……さっき、こっちの新婚旅行について話したよね。夫婦水入らずで引きこもる、って」

「?」

「引きこもって、なにするか……わかるよね?」

「なにするか……?」



 のんびりするんじゃないのか?

 なにかすること、あったっけ?

 エーディスさんは私の様子を見てため息をつく。



「ええと、つまり……。子どもを作るわけで」



 ほう、なるほど。


 って!!!!


 エーディスさんは耳まで赤くなりながらぼそぼそと言った。




「こちらの新婚旅行は、要するに子作りするための旅なんだよ」

「そ、そうなんです、か」

「俺としては、ただの調査の旅のつもりだったのに、あいつが新婚旅行とか言うからつい……意識しちゃって」

「そ、そうでしたか」

「だから、できるだけ近づきすぎないようにしてた、ただそれだけなんだ。君が嫌なんてあり得ないよ、今だって触れたくてたまらない」



 エーディスさんに熱っぽく見つめられて、顔がますます赤くなる。


「触って、ください」

「な、」


 私はエーディスさんに抱きつく。

 彼は狼狽えつつも、観念したのか私を抱き締めてくれる。



「ダメだってば……抑えが効かなくなるだろ」

「良いですよ」

「何言って……」

「エーディスさんなら、良いです」



 じっと緑色の瞳を見つめる。

 私は少し背伸びをして、目を丸くするエーディスさんに口づける。



 一瞬、呆けた顔をしたエーディスさんの瞳に、熱がこもる。

 私は目を閉じた。



「んん……」



 深く口付けられて、ふわふわとした心地になる。

 背中に回された腕が強まる。



 唇を離すと、真っ赤な顔のエーディスさん。



「エーディスさん……」

「ああ、もう! 煽らないでよ……」

「別に、良いって言ってますよ?」

「だって、まだ仕事してるんだから!」

「新婚旅行……ですよ?」

「ツムギ……いつになく積極的、だね?」

「だって、すごく寂しかったんですもん」

「く……可愛い」



 なんだか悔しそうに言うエーディスさん。

 私もびっくり。自分にこんな積極的な一面があるとは思ってなかった。



「わ、わかってる? そういう行為、してもいいの?」

「わかってますよ。えーっと、避妊さえしてくれるなら」

「ぐ……」



 エーディスさんが唸る。

 私に手を伸ばしかけ、静止する。


 エーディスさんは、しばらく黙って私を見つめていたが、ハッとして首をぶんぶんと振った。



「だ、ダメだ! 多分、一回そういうことしたら、タガが外れる! たぶん仕事にならなくなるよ!」



 だめだめ。そう呟きながら距離を取るエーディスさん。

 私はお構い無しにエーディスさんの隣にぴったりくっついた。

 彼はやれやれと大きなため息をつくが、もう無理に離そうとはしなかった。


 しかし、ふと表情を曇らせる。



「ツムギ。……言っておかないといけないことがある」

「な、なんでしょう?」

「還るための日取りを調べたんだ。……次は、1か月後」



 1ヶ月後?

 私、1ヶ月後に、還るの?


 ハッと顔をあげた私に、小さく頷き、エーディスさんは固い表情で話続ける。



「この日は、最大のチャンスなんだ。大気中の魔素量が一時的に強まる。君が還るときにどれくらいの魔力が必要になるかはまだわからないけど、魔素量が多ければそれだけ均衡崩壊を抑えられる」

「均衡崩壊……」

「……この日を逃せば、次は2年くらい先になるかもしれない。ならないかもしれないけど、今はそれくらいしかわからない。

 2年後も、次のチャンスと同じくらいいい条件とは言えない」



 この日取りは、日々変化する大気中や大地、太陽や月等からの魔素量の変化を調べるもので、私が還るのに必要と思われる最低ラインを設定し、それを越える日を割り出すものらしい。


 1ヶ月後のチャンスは、珍しいほどかなりの好条件らしく、これほどの機会は10年単位で巡ってくるか来ないかと言ったところだそうだ。

 還るための最低限の環境自体は、年に数回はあるらしいのだが、今回はうってつけとも言える条件だと言う。



 転移は少なからず周辺の魔素を消費し、周囲に影響を与えている。

 町にある転移陣にはそれを防ぐ術式が組み込まれているし、自分で転移する場合も、周辺の影響を防ぐために自らの魔力消費量が多い術式が使用されるのだ。

 私のような世界を跨ぐ転移は、相当の影響を及ぼす。

 それはこちらに来たときの魔素均衡崩壊の規模からも明らかだった。



「禁忌を犯さずに、より少ない影響で失敗することなく安全に君を還すには、制限と、複雑な構築のための下準備と、この日取りが必要なんだ。

 ……だから、できるだけ急がないといけない」

「……」

「早くマルネイトの居所を調べよう」



 私は、頷くよりほかなかった。

 エーディスさんが、私の頬に唇を落とし、囁いた。


「ねえ、君の還る座標がわかったら……その時は、抱いてもいい?」



 私はエーディスさんの目を見て頷いた。

 顔が、じわりじわり熱を持ち、思わず頬を手で覆うけど、エーディスさんは気合い十分といった面持ちで拳を握る。




「よーし、そうと決まったら、さっそく調査に行こうよ!」



 はやく終わらすぞー!とヤル気満々のエーディスさんに連れられて、町に繰り出すことになった。


 あれ? 私、とんでもない約束したんじゃね?



ブクマ、評価ありがとうございます☆


どこまでいけるかな笑

18禁描写はしませんのでご安心を……(^-^;

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