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調査

 慰労会も終わり、日常が戻ってくるな、と思ったら、エーディスさんが出掛けると言い出した。

 仕事の一環として行くようだけど……。



「結構遠くまで行くんですね?」

「うん。だからしばらく留守にするから」

「えーと、殿下の護衛ですか?」

「……マルネイトの転移先に調査に行く」



 私は、エーディスさんの隣に座って、彼を見つめる。

 何で私を置いていく気なんだかなぁ。



「私も、行きます」

「危険、かもしれないよ?」

「離れないって約束しましたから」



 エーディスさんは嘆息するも、後で許可を取ってきてくれた。


 シオンは厩舎に預け、色々準備を済ませてから、私たちは旅だった。



 表向き、新婚旅行である。

 こっちにも新婚旅行ってあるんだなぁ、と変なところで感心しつつ、気になることが……。




「せっかくなんだし、新婚旅行もかねて、楽しんでおいで。

 夫婦水入らずで仲良くね!」


 と、出発間際に殿下に言われてから、エーディスさんの様子がおかしい。


 べたべたしてこない。


 最近はなにくれとなく触ってきてたエーディスさんが!


 私がなにか変なことして怒ってるとか嫌がられてるとか、そういうことはない、はず。


 あの殿下の台詞が発端であることは間違いないと思う。

 新婚旅行って、触っちゃいけないとか何か決まりごとでもあるの?



 聞きたいが、聞きづらい。


 だって、なんで触らないの?なんて、聞けないって!




 と、いうことで、どこかよそよそしいというか、ぎこちない私たちは、まず王都から、目的地近くの街まで転移陣を利用して飛んだ。


 エーディスさんの魔法でちゃちゃっと転移するのかと思ったら、そういうわけではないらしい。

 行程がどうなるか未知数なので、魔力を温存するとのこと。

 普通の人は、自分で転移することができないくらい、転移魔法は魔力を消費するものなのである。

 それを私も抱えて飛ぶのはなかなかに厳しいものなのだ。本来は。エーディスさんいつも簡単にやってるけど……。




 今回のミッションは、まずマルネイトの居所を突き止めること。

 そして、私の召喚した時の座標を調べること。

 主にこのふたつである。



 最初の目的地の場所は、マルネイトがオークションの会場から逃げるときにまず飛んだ場所である。

 そこから先どういうルートを辿ったのか。

 それを調べに向かっているところだ。



 取りあえず、マルネイトがまず飛んだとみられる場所の近くの街に着いた。

 今日はここらで一泊である。


 微妙な距離感を保ちつつチェックインする。



「部屋はどうするかい?」

「ええと……二部屋」

「え?」「はいよ」


 思わずエーディスさんを見やるが、目を逸らされたままふたつ鍵を受け取った。



 別々?

 ふ、夫婦なのに?

 一応新婚旅行、なのに?



 頭のなかは疑問符だらけである。


 そそくさとひとつめの部屋に入り、私の荷物を取り出してくれる。(ほぼ手ぶらで来れたので非常に楽だった!)



「それじゃ、ご飯食べに行こう」

「エ、エーディスさん。……良いんですか? 別々で」

「……移動で疲れてるだろう? たまにはゆっくり眠れた方が良いかなぁと……」



 若干視線を泳がせるエーディスさん。


 なんなんだ?

 しかし、エーディスさんは私より疲れているのかもしれない。


 取りあえず頷き、夕食を食べに行くことにした。



 奥まったテーブルで食事を取りながら明日の予定を話し合う。


「明日はまず、マルネイトが飛んだところに行って、痕跡を探ろう」

「わかるもんですか?」

「そこが単に中継地点で、近くで次の転移をしてれば話は早いけど。そうじゃないなら少し時間はかかるかな」

「この辺りなんでしょうか……」

「わからない。でもマルネイトはかなり用心深いらしいから、また転移してるんじゃないか?」

「なるほど……」



 デザートのプリンに舌鼓を打ち、部屋に引き上げる。


 エーディスさんは言葉少なにお休みと言って部屋に引っ込んでしまった。




 ため息をつきながらお風呂に入る。


 なんか、したっけ?


 思い返してもわからない。


 新婚旅行……なんだけどな。


 こっちの新婚旅行にそういう作法があるのかもしれないけど、寂しいな……。




 お風呂から上がって、髪を乾かす。

 いつもはエーディスさんにやってもらっているので、久しぶりに自分でやると時間がかかるなぁ。



 しっかりとした作りのベッドに横になる。

 スレンピック最終日から毎日一緒に寝てたし、一人で寝るのも久しぶりだ。

 思い切り手足を伸ばして大の字で目をつぶる。



 ……。



 ……眠れない。



 そもそも、今日は王都を歩いて、転移陣で飛んだだけなのだ。

 契約のときにある程度私の中にエーディスさんの魔力が入って、それを消費することで転移陣の利用ができるようになった。

 今はほとんど魔力がない状態。

 でも、すっからかんになっても私には影響がないようなのだ。

 他の人は魔力が減ってくると頭がぼんやりしたり疲れを感じるらしいのだけど。

 私はただ自分の中にある魔力が減ったなと思うだけで、体力は十分。

 全然疲れてない。



 その上、エーディスさんのあの様子が気になって悶々として眠れない。

 気づかないうちに何かしてしまったのだろうか?

 それとも、愛想つかされたのか?

 還るからもう深追いというか、関り合いになりたくなくなったとか?


 そんなことがあるとは思えないけど……。



 私はごそごそと起き出した。


 エーディスさんに会いに行こう。


 まじでエーディスさんが疲れてる可能性もあるけど、さっき話していた感じはそうは見えなかった。

 私は思いきって、隣の部屋に奇襲をかけることにした。



 コンコン



「……ツムギです」



 中で、ガタンという音がして、慌てた様子でエーディスさんが扉を開けてくれた。


「……ど、どうしたの」


 エーディスさんをじっと見つめる。

 その顔はじわじわと赤らんで、決まりの悪そうに目を逸らされた。



 私は、エーディスさんに抱きついた。

 エーディスさんが息を飲む。



「つ、ツムギ。……何かあった?」

「……寂しくて、寝れません」



 ぎゅう、としがみつく。

 エーディスさんは私の肩に手を置き、やんわりと押す。



「ツムギ、は、離れて?」

「……どうしてですか? ……嫌、なんですか?」



 そんなに嫌になったの?

 半泣きでエーディスさんを見上げると、目を泳がせていたエーディスさんに抱えられた。



 ため息混じりにエーディスさんの部屋のベッドに下ろされ、寝かされる。


 彼を見上げていると、緩やかに微笑みかけられ、頬に手を伸ばされる。





 気づけば眠りに落ちていた。





 朝。


 エーディスさんに優しく揺り起こされ、部屋に戻される。



 ……魔法だ。


 魔法で寝かしつけられた。

 間違いない。私の中に魔力が少し溜まっている。



 エーディスさんはどこで寝たのだろう?

 一緒に寝たのだろうか?

 それともソファ?




 全くスッキリしない気分の中、朝食を取り、チェックアウトして私たちは出掛けた。




 昨日の話を避けるように、エーディスさんは色々喋りながらマルネイトの転移先のポイントへ向かう。



「あそこの宿は食事が美味しかったね。」

「そうですね……美味しかったです」



「こっちはうちの実家の領地とは反対方向だから、ほとんど来たことがないんだ」

「そうなんですね……」



「ここから先に、大きな銅像が有名な町があるらしいんだよ。何かのついでに寄りたいね」

「そうですね……見てみたいです」




 せっかく色々話をしてくれているのに、なんだか気分がのらなくて生返事になってしまう。

 ああ、ダメだ。



 徒歩という原始的な手段でのんびり転移ポイントへ到着する。

 エーディスさんがその辺りの調査をすると、ほどなくして転移の痕跡を発見した。

 ここに飛んできたあと、またどこかへ飛んだらしい。



「うん、大丈夫。隠そうともしてないし、すぐわかりそうだ」

「そうですか……良かったです」

「一旦街に戻って、転移陣でまた近くまで行こう」



 かなり順調である。



 街まではエーディスさんが転移してくれた。一度座標を設定しておけば、転移陣を使わなくてもそこに飛べるらしい。

 もちろん、距離的に遠い場合は多くの魔力を必要とするため、エーディスさん並みに魔力が豊富でないと長距離は飛べないらしいが……。



 そしてまた転移陣で飛び、まだ時間がありそうだったので次の転移ポイントへ向かうことにした。



 しかし……。



「うーん、この先は探すのに骨が折れそう」

「痕跡、無さそうですか?」

「たぶん、近くまで来てるんだと思う。隠し方が巧妙になってるから、この先は痕跡をたどるのは難しいかもしれない」

「どうしましょう……?」

「町で少し情報を探そうか。どうしてもわからなければこの隠匿を解析しないといけないけど、そうしたらしばらくかかるな」

「そうですか……」

「戻ろう」



 町に戻るため、踵を返す。


 相変わらず距離感を感じるけど、歩調は合わせてくれるし、気遣うような微笑みを向けてくれる。



「疲れてない? 大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫ですよ、普段もっと歩いてますから」

「そうだったね。でも、疲れたらすぐ言ってよ?」

「ありがとうございます」



 単に近づいて触ってこないだけで、私を見つめる目はとことん甘い。

 嫌われたわけではない、と信じたかった。

 ということは、やっぱり何かの作法でもあるのだろうか?


 私は探りをいれるべくエーディスさんに問いかける。



「そういえば驚いたんですけど、こっちにも新婚旅行があるもんなんですね?」

「え! う、うん。結婚したら旅行に行くのが慣わしなんだよ。何でなのかはよくわからないけど、昔の王族が結婚したときに国内を巡ったことが由来みたいだよ」



 なぜか動揺しつつも、新婚旅行について教えてくれる。

 とくに、触らないことについて決まりがありそうな由来じゃないけど……。



「へえ~、王族の旅行だと、すごくたくさん人が付いていきそう……」

「うん。普通ならね。

 でも、少数人で催行して、国を巡ったあとは夫婦水入らずで別荘に引きこもるって言うのが伝統的な王族の新婚旅行なんだよ。1ヶ月位は王都を離れることが多いそうだよ」

「へええ、別荘……! のんびりできそうですね!」

「……そうだね」



 ふむ……別段エーディスさんの態度に思い当たりそうなことはなさそうだ。


 本当に、何なんだろう?


 エーディスさんに近づき、その腕を取る。

 びくりとして、腕を引き抜こうとするエーディスさん。



「何で逃げるんですか?」

「逃げてないよ、びっくりしただけ……」



 私は彼の腕を胸の前でぎゅっと抱え込む。

 エーディスさんは困った顔。



「エーディスさん……。旅行に来てから、妙によそよそしくないですか?」

「そんなこと、ないよ?」



 エーディスさんを睨んで「絶対よそよそしいです!」と言うと、弱りきった表情を浮かべる。



「ツムギ。落ち着いて? ちょっと離れよう」

「どうして? 今までだってこれくらい、いやこれ以上近くにいたじゃないですか」

「ほら、外だし……」

「周り誰もいないですよ!」

「でも……」


 今は町から出ているので、人通りなんて殆んどない。

 そんなに、嫌なの?


 私はそっとエーディスさんから離れた。

 そのまま、少し離れて俯く。

 涙が意思とは裏腹に溢れてくる。



「……そんなに、私のこと、嫌になったの? 面倒になった? 昨日、魔法で眠らせたくらい……相手したくなくなった?」

「違うよ!」



 エーディスさんが私の肩を掴んだ。

 涙目の私に気づいて、目を瞬かせる。


 気づいたら、エーディスさんの腕の中にいた。



「ごめん……そういうつもりじゃなかった」

「……」

「本当にごめん。その……。説明はする。とりあえず、町に戻ろう」



 エーディスさんがそっと手を引いてくれる。

 それだけでなんだか嬉しかった。


ブクマ、評価ありがとうございます!

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