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慰労会

 さて、今日は慰労会という名の舞踏会である。

 急遽、ドレスアップして参加することになった私は、泣きついてダンスは勘弁してもらった。


 いや、付け焼き刃では無理だよ……。


 どうも、すでに結婚までしてしまった私たち。

 といっても、書類上だけのはなしで特に生活は変わっていない(慰労会の準備は除く……)。



 けど、知っている人は知っているらしく、エーディスさんのご家族からはいろいろお祝いの品や手紙を頂いた。

 エーディスをよろしく、と書かれた紙に謝るしかない。



 皆がみんな、私たちの事情を知っているわけではない。なので、祝福されて嬉しい反面、なんだか騙しているような気がして、顔がひきつってしまう……。



 昨日もエーディスさんのお姉さまがたがやって来て、ひとしきりからかい倒した後、事情を説明すると、すごく残念そうにしていた。

 それでもふたりが選んだ道なら、と納得してもらったけど。






 さあ、そろそろ支度をしないといけない。


 立ち上がると、丁度ドーナリーさんがドレスをもって部屋に来たところだった。




 1人では着られないので、手伝ってもらう。


 スレンダーラインの、ハイネックのドレスを選んだ。

 首から肩にかけてレースになっていて、大人っぽいデザインだ。



「やっぱりよくお似合いですよ! 華奢なのが際立って美しいですねえ!」

「あはは、ありがとうございます」


 ちなみにバストは、昨日パッドを作成してそちらで少々かさまししております、うふふ。



 ヘアメイクは自分でやることにしている。

 ウィッグをつけようか迷ったけど、やめた。

 なくてもこの格好で男に見えることはさすがにないだろうし。


 それに、エーディスさんが選んでくれた、馬蹄のイヤリング。

 うん、ショートだとイヤリングが目立つから。

 とてもかわいい。


 少しだけ巻いてフワッとさせて、お姉さまがくれたヘアアクセをつける。




 顔は……少し目元は濃いめにして、あとは濃すぎないように……。



 鏡の前でくるりと回る。


 うむ。悪くない。

 隣にエーディスさんがいると自信喪失しそうだけど、今の時点ではいい感じではなかろうか!



 コンコン



「は、はいっ!」

「そろそろ出掛けるけど、大丈夫?」

「今、行きます!」





 ちょっと緊張しながら、部屋を出る。

 そこにいたエーディスさんが目を見開いて私を見つめた。


 目をそらすけど、照れてほっぺたがじわじわ熱を持ち始める。



「ど、どうですか……?」


 ちらりと顔を上げてエーディスさんの様子を確認する。



 ま、真っ赤だよ! エーディスさん!



「あ、ああ。とっても綺麗だよ……」



 ギクシャクとした動きで、私の手を取り、そっと、エスコートしてくれる。




「まあまあ、おふたりとも素敵ですよ! 楽しんできて!」

「うん。行ってくる」



 最後にドーナリーさんにドレスを整えてもらい、執事さんの操るアンテ車に乗り込んだ。




「……」

「……」



 無言で、揺られる。


 チラチラとお互い視線は合うのだが、なんだか照れくさくて言葉が見つからなかった。



 エーディスさんは軍服に、私の贈ったブローチをつけてくれている。


 いつもそうだけど、ほんと美形……。



「あの……あんまり見られると、恥ずかしいんですが……」

「ご、ごめん」

「ふふ、見慣れないですよね?」

「うん。正直ね……でも、すごく似合ってる」

「ありがとうございます。エーディスさんも、とっても素敵です」



 笑顔で言うと、エーディスさんが距離を詰めてくる。

 あれ?



「……キス、してもいい?」

「な、なに言ってんですか! 口紅落ちますからダメですよ!」



 手を掴まれて、薄く微笑みながらクッションの上に押し倒される。



「ちょ、ちょっと!」

「ふふ、可愛い」



 言って、頬にキス。

 くそお、耳元でイケメンが可愛いなんて言うと、抵抗できないよ!


 頬に何度もキスを落とし、唇が首筋へ向かっていく。


 く、首はやめろぉ……!


 と、アンテ車が停まった。


 ほっ、良かった、着いたわ! 近くて良かった!





 体をばっと起こし、残念そうなエーディスさんにエスコートされて降り立った。

 今日は、エーディスさんの仕事はないのでゆっくり参加できる。



「さあ、行こうか。……ゆっくりね」



 言葉通り、私の手を取りゆっくりとエスコートしていく。


 う……。


 めっちゃ視線を感じるんだけど!

 みんなこっち見てるんだけど!


 エーディスさんは時折、周りを煽るように頬にキスしたりしてくるし!



「綺麗な女の子を連れて歩きたがるやつの心理が少しわかった気がする」

「なに言ってんですか……」

「みんな見てるもの、君が綺麗だから」

「いや、たぶんエーディスさんを見てるんですよ……そうじゃなければ、物珍しいんじゃないですか……」

「謙遜しなくていいのに」



 言って、頬にキス。

 きゃあ、と女性たちの黄色い悲鳴が……。



「おーい!」

「あ、みんな居ますよ!」



「やあ、お熱いねえおふたりさん」


 ルシアンさんがニヤリと笑って手を上げた。

 クリオロさんがわたしをまじまじと見つめ、エーディスさんが私の前に立つ。


「あっ、隠すなよエーディス! ツムギちゃん見せてよー!」

「クリオロさんはあからさまに変なところ見てるからですよ」

「てへ、ばれたか」


 ペルーシュさんに突っ込まれ、舌を出すクリオロさん。



「結婚おめでとう! 良かったな」

「じれじれからの展開早かったですね~」

「おめでとう、ツムギ!」


 リンガーさん、アラグさん、カシーナさんが口々に祝ってくれる。



「ありがとうございます! みなさんも改めておめでとうございました!」



 わいわいと話していると、陛下の開始の音頭が聞こえてくる。

 エーディスさんがジュースを手渡してくれた。



「よーし、それじゃ、俺たちの表彰台と、みんなの婚約、そして結婚と、おめでたいことすべてに乾杯だ!」

「「「かんぱーい!!」」」



 決起集会より、みんなどこかリラックスして楽しげだ。

 本当にこういう結果で終われて良かったなぁ。




「よし、躍りに行くか!」

「もう、引っ張らないで!」



 ダンスが好きなアラグさんとカシーナさんがダンスホールへ、そしてペルーシュさんもフィリーチェ嬢の元へ。

 外部組の3人も、「楽しめよ!」と言いながら家族の元へ行ってしまった。


 残った私とエーディスさんは、

 モグモグと食べていた。



「これおいしいですね!」

「だろ? あと、これもおすすめ」



「んー! 美味しい!」



 完全に餌付け状態ではあるが、美味しいものは美味しいのだから仕方がない。

 あんまり食べ過ぎるとお腹が出るから気を付けないと……。



「あ、飲み物要る? 取ってくるよ」

「ああ、私行きますよ」

「座ってて」



 エーディスさんはやんわり私を制して行ってしまった。



 なんとなしにその姿を目で追っていると、騎士仲間にいろいろと話しかけられているようだ。

 なんだあの子は、このこの!みたいな感じで、肘でつつかれている。


 結局困った顔のエーディスさんに呼ばれて、同僚の方々とかに改めて紹介されるのだった。

 ゆっくり食べられなくてごめん、と謝りつつ、挨拶回りすることに決めたらしい。



「えーと、妻です」



 つつつ、妻!

 エーディスさんにそう紹介されて、こそばゆいったらない。

 みなさんもビックリしてるし!



「いや、びっくり。女の子にしか見えないもん」

「髪が短くても可愛い子は可愛いんだねぇ~」

「く~、羨ましいぞ! エーディス!」



 え? そっち?


 エーディスさんがにっこり私に笑いかける。


「いいね、妻って響き」

「うう……」



 恥ずかしいんですが……。




 エーディスさんは、私を連れて今度は陛下の元へ向かった。



「おお、来たかエーディス!」

「ツムギさんも、とても素敵ですよ。髪が短いのも、思ったよりお洒落ねぇ……」


「ありがとうございます」


 エーディスさんがゆったりとお礼の言葉を述べた。


 後ろのほうに控えていた殿下とキイナ様が、小さく手を振ってくれる。

 陛下たちはにこにことエーディスさんを質問攻めにする。


「結婚式はいつするんだ?」

「子どもも、早く作っちゃいなさいね」



 け、結婚式……子ども……。

 エーディスさんは表情を変えずに笑顔で答える。



「はは、まだ気が早いですよ」



 還すうんぬんは、今は言わないことにしたらしい。

 エーディスさんの回答に、満足げに首肯く陛下たち。



「うむ。まあ、ゆっくり決めるがよい。今宵は楽しんでくれよ!」


「ありがとうございます。失礼します」




 下がると、エーディスさんが小さくため息をついた。


「あんまり還す還す言うと周りが色々言うから、あんまり言わない方がいいのかも……」

「うーん……でもなんだか、祝ってくれるのが申し訳なくて……」

「君は優しいね。気にしないで、俺が決めたことだから」

「違いますよ、ふたりで決めたんですよ」

「うん……」



 エーディスさんは私の額に唇を落とす。

 そういうさりげないスキンシップが、嬉しいけれど恥ずかしい。




「エーディス!」



 笑顔の殿下がこちらに声をかけている。

 近衛のエーディスさんの同僚の方がにこやかに私に向かって手を振った。



「ツムギ様、良ければわたくしともお話いかが?」



 振り返ると、キイナ様がこちらに歩み寄ってくるところだった。

 エーディスさんに頷かれ、彼と別れてそちらに向かう。



 キイナ様にキラキラした眼差しで見つめられる。



「ご結婚おめでとうございます」

「あはは……。ありがとうございます」

「……なんだか騙し討ちみたいになってしまったようだけど、お兄様を怒らないでくださいね」

「全然怒ってないですよ、大丈夫です」


 笑顔で言うと、キイナ様が私に耳打ちしてくる。



「ここだけの話、お父様とお母様が主導だったのですわ。まあ、お兄様もそれくらいしないとエーディス様がいつになっても結婚しないと思っていたようですけれど」

「そ、そうだったんですか」

「……それで、お還りになるんですよね? 寂しいですわ……」



 キイナ様が目を伏せる。殿下から聞いていたらしい。



「私の方こそ、皆さんにたくさんお世話になって、お祝いもしてもらったのになにもできてなくて、申し訳なくて……」

「そんなことはありませんわよ。色々と教えてもらったこと、忘れませんわ」

「何かしましたっけ……?」



 首をかしげるが、キイナ様はにっこりと頷く。



「異世界の楽しい話や遊びを聞かせてくれたではありませんか! お父様も私やお兄様が話する度にそれやってみようと……おかげで、わたくしとお兄様が仲良くなったと誤解されてますの」



 正確には、もともと仲良しですからね、と笑うキイナ様。


 この国の王家は遊び好きのファミリーなのか……。そんな話で良ければ、いくらでもしてあげよう。


 キイナ様が私を見て残念そうな顔をする。



「それにしても残念ですわ……いえ、お気持ちはもちろんわかりますけれど」

「……殿下の方こそ、怒ってませんでしたか? 勝手に還るなんて言い出して……」

「まさか! ああ見えて、お兄様はエーディス様に弱いですから。エーディス様が決めたことなら、なんだかんだ言っても最終的にはその通りにさせるはずです」

「殿下の方が立場は強いように見えますが……」

「それはそうなのですが、お兄様はエーディス様が大好きなので、エーディス様が本気で嫌がることは絶対にしませんわ。

 ……それ以外ではからかい倒して遊んでますけど」



 殿下、エーディスさんで遊ぶの生き甲斐らしいからなぁ……。



「この前なんて、ツムギ様が還った後、エーディス様があとを追うって言い出したらどうしようなんて言って嘆いてましたわ」



 そ、そうなんだ……。

 殿下とエーディスさんの関係って不思議だなぁ……。

 エーディスさんの様子を見てると、敬愛する主人でもあり、気の合う友人でもある、って感じだけど、どうなんだろ。

 意外と殿下の方が愛が重いのかな……?

 まあ、殿下の騎士だから殿下のために命張るくらいの覚悟はありそうだけど。



 考え込んでいると、キイナ様が笑顔で言う。



「それにしても、髪が短い女性のドレス姿も新鮮ですわね!

 皆さん、かなり注目されてましたわ。すごく素敵なんですもの!」

「えへへ、キイナ様にそんなに言って頂けると照れます……」

「ツムギ様がきっかけで、短い髪の女性が増えるかもしれませんね」

「うーん、さすがにそれはどうでしょうね……」



 物珍しさで皆見てるだけで、眉をひそめる人も結構いるんじゃないだろうか。



 年頃の女の子らしく、髪型やメイクの話をしていると、エーディスさんが迎えに来た。


 またお話ししましょうね、と言うキイナ様と別れ、会場をふらふらと散策した。



「殿下、何か言ってましたか?」

「この前のえあほっけーみたいなやつ、思い付いたらまた作ってくれって」

「……相当気に入ったんですかね」

「陛下が気に入られたそうだよ」

「陛下がエアホッケー……!」

「ま、陛下もガルグールに仕事引き継ぎ始めてるし、平和だと余暇活動がしたくなるんじゃない?」


 むむ、なるほど。

 確かに……。

 生きることに必死にならなくてすむと、必然的に遊びたくなるからね……。







「あ、エーディス様!」




「あ」



 縦ロールとその仲間たちがエーディスさんに声をかけてくる。

 私を隠すように前に立つエーディスさん。

 そもそも、私の存在にまだ気づいてない様子だ。



「この間は申し訳ありませんでしたわ……」


 珍しく、しおらしく謝ってくる(エーディスさんにだけど)縦ロール。


「……ですが、お耳にいれたいことがありますの。あの方、とんだ尻軽なのですわ。私どうしても許せなくて、あの方を諌めていたのです!」

「へえ……」

「厩舎の騎士を侍らせて楽しんでいるような方がエーディス様に相応しいとは到底思えません」

「ふーん……そうなの?」



 言って、私の腰を抱き寄せ頬にキス。

 私はふるふる首を振るしかない。


 目を見開いた縦ロールの顔が凄い……。

 仲間たちも、あんぐりと口を開けて私を見つめている。



 縦ロールたちは私を見て、戸惑ったように眉を寄せ尋ねる。



「えと……そちらの美しい方は……?」



 エーディスさんがこれでもかと言うキラキラした笑顔で私の肩に手を起き、紹介する。



「改めて紹介するよ。俺の妻のツムギだ」

「つ……つま?」



 衝撃なのか、呆けたように言う縦ロール。




「結婚しました」

「う、うそ……」


「そう言えば、この前男みたいとか色気がないとか言ってくれたけど、どう? すごく綺麗でしょ?」


「こ、この人、あれ、なの……?」



 あれとは失礼な。

 私はにっこり縦ロールに微笑みかける。



「髪が短くても可愛いって、みなさん誉めてくれました」

「本当に可愛いし綺麗だよ。……襲いたくなるくらい、ね」



 耳元で吐息混じりにそう言って、腰をそっとひと撫でしてくる。

 ちょ! 変態な触り方やめて!


 エーディスさんを睨むと、くすりと笑われた。



「ごめんごめん、それじゃ、行こうか」


 腰を抱かれたまま、縦ロールたちにちらりと視線を向けると、ショックのあまりなのかふらふらと膝をついていた。



「さすがにもうないと思うけど、なにか言われたら言ってよ?」



 エーディスさんに囁かれ、頷く。

 私がいなくなった後、もしエーディスさんに恋人ができるとしたら、あーいうタイプはちょっと嫌だなぁ……。


 まあ、エーディスさんファンは他にもいっぱいいるから、きっと素敵な女性もいるはずだ。


 後は、殿下とかがきっと世話を焼いてくれるだろう。



 宴もたけなわと言うところで、私たちは帰ることにした。


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