今度は結婚!?
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「おーい、エーディスいる~?」
ん……?
もそり、と隣のエーディスさんが動いた。
コンコンコン!
ノックの音が……?
「エーディスいるでしょ? もう昼過ぎだよ!いい加減に起きなよ~」
殿下だ。
エーディスさんがむくりと起き上がり、あくびを噛み殺しながら扉に向かう。
私も慌てて体を起こす。
てか、え、この状況見られたら不味くないか?
エーディスさんは気にせず、扉を開ける。
うわ!開けた瞬間バッチリ殿下と目があってしまったぁぁぁ!!!
なにもしてないのに恥ずかしくて布団を被ることにした……。
エーディスさんが寝起きそのもののかすれ声で殿下に対応する。
「おはよう、なにかあった?」
「……ええと。昨夜は、ずいぶん遅い時間までお楽しみ……だったのかな? なーんて、ふふふ」
完全に誤解されてるぅぅ!!
布団の隙間から見ると、殿下が五割増しで楽しそうに笑ってるよ! からかう気満々だよ!
エーディスさんはふあ、とあくびをしながら、
「そうだね……まあ、楽しんでたと言えば、そうかも」
とのたまう。
殿下は目をまたたかせ、一瞬動きを止める。しかしその反応に気分をよくしたのか、さらに突っ込んで聞いてくる。
「いやあ、ついに君がねえ。で、どうだった? あ、そんなこと聞くなって? あはは、ごめんごめん」
「まだ、これからだからわからない……」
「んん? 昼過ぎまで寝てるくらい長いこと楽しんでたのに、まだ……足りないってこと?」
「まだ、やってみてないから」
「え……。ってことは、なんというかその、下準備的なのに一晩、かけたの?」
「ま、そうとも言うね……。過程だけでも楽しめたから……ふああ」
「君、なかなかすごいこと言うね……ツムギさんが心配になるな」
「大丈夫。教わるのは俺の方だし」
「えっ、ツムギさんて、意外と経験豊富なのかな……?」
「本人いわく、百戦錬磨の手練れらしい」
「うそ……いや、これは驚いた……」
「ちょぉーっと待ったあー!!!」
殿下の誤解を解くべく、布団から飛び出す。
「殿下……。たぶん、誤解です!」
私は部屋の隅に置いてあるブツをドーン!と殿下の前に持ってきた。
「これを、夜中作ってたんですよ! それで寝るのが遅くなったんですっ!」
「え? なにこれ」
「えあほっけー、なるものだよ」
エーディスさんがどや顔で解説する。
「ツムギ。早速やってみようよ」
「ふふふ、百戦錬磨の私に勝てるかな……!」
臨戦態勢に入った私たちの間に、訳がまだわかりかねてるらしい殿下が割ってはいる。
「い、いやいや、ちょっと待ってくれる?」
「なに……?」
「君たちに用があってきたんだよ」
リビングに行くと、恰幅のよい笑顔の女性が立ち上がった。
「あらあらまあまあ! お邪魔してごめんなさいね!」
「ドーナ……」
そこにいたのは、エーディスさんちの使用人の方たちだった。
ドーナリーさんと、執事さん。
執事さんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「殿下が起こしてくださるというのでお任せしてしまいました……」
「いや、どうせガルグールが面白がってたのを止めきれなかったんだろ。気にするな」
「エディーぼっちゃま、おめでとうございます! ツムギさんも!」
「あ、ありがとうございます」
ドーナリーさんは本当に嬉しそうに言う。
「あたしが生きている間に、ぼっちゃまのお子様が見られそうで安心してますよ!」
「おおおこさま……」
「ドーナ……。ごめん」
「?」
「ツムギは、いつか遠い故郷に帰らないといけないんだ。だから、この関係は長く続くものじゃない」
「エーディス……!?」
殿下は聞いていなかったのか、驚いている。
「ツムギさんを本気で還すつもりなの?」
「本気だよ」
「どうして? 君たち二人とも、離ればなれになっても良いと言うの?」
「良くはない。けど、もう決めたことだ」
「ツムギさん……!」
「ふたりで決めたんです」
殿下は理解ができないというように首を振った。
「この事についてはガルグールの命令も聞かないよ」
「……もうすでに結婚までしたのに?」
「婚約だけだよ」
エーディスさんがそう言うも、殿下はぴらりと紙を突きつける。
「届けには王族の承認が入ってるんだから、婚約飛び越して結婚だよ」
「え?」
「家長の承認で婚約が認められ、国の承認で結婚が認められる。これがこの国の制度だよ。婚約も結婚も同じようなものだと思われてるせいで、理解している人は少ないけれどもね」
「つ、つまり」
私の言葉に繋げて、殿下が言った。
「君たちふたりはすでに夫婦というわけだ」
私とエーディスさんは目を丸くしながら思わず顔を見合わせる。
「まじですか」
「嵌められたな……」
でもまあ、この際婚約も結婚も変わらない気もするけど……。
殿下は嘆息しつつ流し目でこちらを見やり、
「というわけだ。さすがに命令までする気はないけど、これからのことはよく考えてごらん? 」
そう言って、ソファに腰かける。
エーディスさんはそれでも首を横に振る。
「俺のわがままで、19年暮らした世界を捨てろなんて言えるわけがない。
昨日、たくさん話を聞いて、改めてそう思った。
ツムギを愛する人が、向こうにはたくさんいるんだ。その人たちをないがしろにできない」
「エーディスさん……」
昨日、あんなに向こうの話を聞きたがったのは、エーディスさんでも決意が揺らぎそうたったからなのかな……。
しんみりしていると、泣き声が聞こえてくる。
「うっうっ……ぼっちゃま、なんて健気な愛でしょうか! ドーナは、ドーナは感激しました!!!」
ドーナリーさんが滂沱の涙を流していた。
執事さんも、眼鏡をはずして目頭を押さえ、うっうっと男泣きしている。
誰かが取り乱すと周りは冷静になるものである。
「お、おちついてください、ね?」
「ドーナ、泣くな」
「ぼっちゃま……! ドーナはおふたりを応援しますよ! いつか別れのときが来ても、お互いを愛していれば必ず! また出会う日が来ます!」
「うんうん、わかった、ありがとドーナ。さ、鼻かんで」
エーディスさんにちり紙をもらって鼻をかむ。
漸く落ち着きを取り戻したドーナリーさんは、私を見て笑顔を向ける。
「……これは失礼しましたね。
もうすぐ慰労会。それなのに、ぼっちゃまからはなんの連絡もありゃしない。一体ドレスはどうするつもりなのかと直接問いただしに来たのですよ」
「ドレス?」
「急なご結婚で、お披露目もまだ先かと思いますが、さすがに奥さまに使用人服を着せるわけには参りませんからね」
「あ」
エーディスさんが本気で忘れてたという声をあげた。
執事さんがやれやれと肩をすくめる。
「やっぱり、忘れていましたねぼっちゃま。
……さすがにオーダーメイドは間に合いませんが、前回の時に背格好は把握しておりましたので、合わせられそうなものをお持ちしました」
「今から、合わせて調整させてくださいな!」
「え、ええ? ど、どうしましょう?」
「頼む」
「かしこまりましたよ!……アクセサリーは、さすがに何かしら贈ってますよね、ぼっちゃま?」
エーディスさんがそっと無言で俯く。
成り行きを見守っていた殿下が含み笑いを漏らし、エーディスさんに声をかけた。
「そうだろうと思って、こちらで用意した。でも、私が選ぶと嫌がるだろう? ……私が用意した候補から選ぶのだね」
「ありがとう……ございます」
さすがに意気消沈して、殿下と執事さんと、アクセサリー選びに消えていった。
「さあ、今日中に決めてしまいましょう!」
私はドーナリーさんとドレスの試着地獄の始まりである。
……後程、エアホッケー大会が開催され、優勝した殿下が嬉々としてエアホッケー台を持って帰った。
ブランクがあったとはいえ、まさか、初めての人に負けるだなんて……!!!
地味にショックである。
そう簡単にはやらせませんよ!笑
道中のやりとり、意味がわからない方はその心を是非持ち続けてくださいね笑




