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オークション

 エーディスさんについて行くと、森の奥に洋館があった。

 洋館でオークションとか、嫌な記憶が甦るな……。

 似たような雰囲気だし……。


 洋館は明かりもなく真っ暗だ。

 既にオークションが始まっているからなのか、はたまた誰もいないのか。


 なんで場所が解るのかエーディスさんに聞くと、ここの地下辺りに人が集まってるのがわかるから、とのこと。

 いろんな人の魔力を感じるんだとか。

 一応、申し訳程度に魔法で隠されてはいるらしいのだが、エーディスさんいわく隠し方が適当すぎて逆に目につくらしい。


 エーディスさんの魔力関知機能は特技と言っても良いらしく、覚えれば誰がそこにいるか魔力の気配だけでわかるんだと。


 すご。




 さて、どう入ったものか……。




「こういうのは裏口があるものなんだけどね……」

「裏口、ですか」

「そう。出品される商品を運び込む入り口と、客の入る入り口は別になってるはず」


 思い返してみると、確かそうだった。

 裏口から入って、地下に行ったのだ。


 表の入り口はあそこだとしたら、こっちの方に……


「あっ、離れるなってば」

「あそこ、裏口じゃないですか?」


「……ほんとだ」


 どや顔をして見せると、デコピンされた。

 いてて。



「勝手に行かない。俺より前に出ないこと。いいね?」

「はーい」


 いくら私でも、中で勝手な行動なんて怖くてできませんよ。


 裏口にそっと歩み寄りながら、エーディスさんが呟く。


「魔法師団を待っててもいいんだけど、騒ぎになると最初に逃げるだろうからね。気づかれないうちに証拠を押さえたいんだ。……イーノデス公爵家の、ね」


 そっと、扉を開ける。

 しかし、私を制したまま、動かない。


「なんだ? 誰かいるのか?」


 中から声が聞こえてきた。誰かがこちらにやって来る。


「おい、誰か―――」



 エーディスさんが手刀を叩き込み、沈黙した男を魔法で拘束する。


 目を閉じ、集中しているエーディスさん。

 目を開くと、私の腕を引いて建物内へ突入した。



 そこからはエーディスさんの独壇場だった。

 どの辺りに何人いるのか把握しているらしく、魔法を駆使し、時には物理的に危なげなく無力化していく。



「右に1人。左奥2人。右に行くよ」



「この先1人いる」



 全く迷い悩むことも恐れることもなく突き進む。


 エーディスさん、騎士より隠密の方が向いてるんじゃ……。




 いくつか部屋を暴き、おいてあったいろいろな珍品希少品の数々を発見。

 他の部屋では私が連れていかれたオークション程ではなかったが数人、奴隷らしい少年少女が怯えて固まっていた。


 彼らは騎士団に助けてもらおう。


 どこからか、オークションの掛け声と、客たちのざわめきが聞こえてくる。

 地下の中心部分に、オークションを開催しているホールがあるようだ。



 エーディスさんが部屋を調べている間に、覗き窓があるのでそこから会場を覗いてみる。


 いまは、曰く付きの絵画がオークションにかけられているようだ。

 客の数は、思っていたよりは少ないが、30人くらいいるだろうか。

 お金を持ってそうな貴族らしい人もいれば、超コワモテに囲まれた悪そうな人もいる。

  後ろ暗いからか、顔を隠したり、怪しげな仮面を被っている人もけっこういる。


 ん? あの人……。



 私は思わず二度見してしまった。

 いや、あの顔、忘れるわけがない。あいつだ……!


「えええ、エーディスさん……」

「ん?」

「ま、マルネイト、マルネイトがいますよ!」

「しっ! ……どこ?」



 エーディスさんが隣に来て真横で覗き窓を除く。


「あの、後ろの方にいる灰色の髪で、不健康そうな眼鏡の男です」

「あれが、マルネイト……」


 エーディスさんが険しい顔でマルネイトを睨み付けた。


「少し遠くて判断つかないな……ちょっと近づいてみる。君はここにいて」


 え、ここに1人で?


 不安で思わずエーディスさんのシャツを掴んでいたらしく、歩き出そうとした彼が振り向いた。

 私を安心させるように頭を撫でてくれる。



「大丈夫。直ぐに戻るよ、近くには誰もいないから安心して」

「あ、はい……」


 手を離すと、エーディスさんが姿を消す。

 彼が近くにいないとちょっとした物音にもヒヤヒヤしてしまう。

 誰か来たらどうしよう……!


 身を縮め、じっと息を殺して待っていたら、エーディスさんが戻ってきた。私をそっと抱き締めてくれる。


「ああ、エーディスさん……」

「待たせてごめん、でもこれで覚えられた」

「?」


「俺は魔力の質で個人の識別ができる。覚えた人の魔力の感覚は忘れない。これで、もし今日逃がしても追跡できるよ」



 ……警察犬?



 と思ったけどそれは、言わないことにした……。




 とりあえず会場は後回しにして、今度は上に向かう。

 外からは真っ暗に見えたが、中は明かりが点っていた。これも魔法なのだろうか。



「ああ……いたね」



 エーディスさんがある扉の前で呟き、ニヤリと笑った。

 誰か知り合いでもいたのだろうか。

 エーディスさんのあとに続いてその部屋へ突入した。



「ん? なんだモレルゾか? ……き、貴様は!!」



 葉巻を燻らせていた部屋の主は、振り向くと驚愕を顔に張り付け、立ち上がる。

 エーディスさんはゆっくりと部屋の中へ進んでいく。



「お久しぶりですね。バレルゾ閣下」

「な、なぜ貴様がここに」

「あなたの息子さんに聞いたからですよ」

「なにっ!?」

「あなたたちの金回りについてはガルグールも以前から首を捻っていたんですけど、これで納得する答えを得られそうですね」

「な、なんの話かな」

「すっとぼけたいならそれでもいいでしょう」


「く、くそっ!」


 バレルゾが魔法なのか火を放つ。

 えーっ!! 証拠隠滅するにもやり過ぎ感出てますけど~!


 地下にたくさん人いるし! 危ないってば!

 火災報知器なのか、ベルが鳴り響き出す。



 しかし、エーディスさんが手を振るとあっという間に火は消えてしまった。


 エーディスさんが呆れたように言う。


「俺の前で魔法での小細工が通用すると思わないでくださいね?」

「ふ、ふん! 俺はなにもしておらん。ここで葉巻を楽しんでいただけさ」

「ああ、あなたのお客さんたちなら今ごろ到着した魔法師団に捕縛されてる頃では?」

「く、く、くそぅ!」



 バレルゾがエーディスさんを突き飛ばし、扉から出ていく。

 エーディスさんはそれをのんびりと見送り、部屋を出る。



「だから言ったのに。もう魔法師団来てるって」



 バレルゾは騎士たちに捕まっていた。

ステルス強すぎ。

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