帰れますか?
フリーフォール(落ちる絶叫マシン)、乗る人の気が知れない……
遊園地でフリーフォールに乗ったあとの
あの魂が抜けた感じ?
内臓が口から出そうな感じ?
はい、グロッキーです。
余裕そうなグラネットさんがスレプニールを厩舎の馬房にしまい、先導してくれる。
「緊張するかもしれないけど、大丈夫だからね!頑張ってな!」
そう言って肩を叩いてくる。
力、強いです……。
入り口の守衛に無事に中に入れてもらえた。
王宮、のなかは荘厳華麗といった感じ。
どこか重々しさがある。
グラネットさんが、大きな扉の前で立ち止まり、そこに控えている騎士に話しかける。
騎士は頷き、ゆっくりと大きな扉を開けてくれる。
ここが王宮の謁見室らしい。
扉が開ききると、奥に玉座が!
RPGでよく見かけるタイプの謁見室だ。
私がいる場所から続く赤い絨毯の先には、一段上がり王さまとお妃さまの座るゴージャスな椅子、つまり玉座。
その周りには、側近やら王子や王女がいるのであろう。
それっぽい女の子もいるし。
ちらりと確認した具合では、それほど人数はいなさそうだ。
グラネットに促され、一応頭を下げてから絨毯を踏みしめ歩く。
グラネットさんに耳打ちされたように、玉座の近くまで行ったところで膝をつき、頭を下げる。
割りと気さくなお国柄なのか、ピリピリした様子はないが、値踏みされているように感じる。
当たり前か。
「顔を上げよ。異世界人よ」
あれ?信じてくれてる?
「初めてお目にかかり光栄です。相原紬と申します」
「アイハラツムギ、宜しく頼もう。私はこのクアルーズ王国の王、ゴジダートだ」
「ゴジダート陛下、この度は私のためにお時間を割いていただき感謝申し上げます」
「よい。アイハラツムギ。お前はまこと異世界から来たと申すか?」
「はい、陛下。
私はこの世界の人間ではありません。
変な魔法使いに召喚され急にこの世界につれてこられました。
魔法が使えないので役に立たないと言われ、奴隷として売りに出され、
別の男に買われました。逃げましたが捕まり、こちらの国の騎士様に助けられ、今に至ります。
助けていただき本当にありがとうございました」
「フム……。何か、証拠はあるのかな?」
「証拠、ですか?
では私のいた国の話をさせていただきます。
」
私は必死に、日本という国について、日本人の日常生活や、魔力が存在しないことを伝える。
「魔力が存在しないとな……。驚きだ」
「私には魔力がありません。
この世界では魔力がないことは有り得ないと聞きました。
それは証拠にはなりませんか?」
「魔封じが使われているのでは?」
脇に立つできそうな銀髪眼鏡の男が進言する。
しかし、下手に立つ長い黒髪の若い男が首を振って否定する。
「いや。確かに魔力が全くないようだ。
今はそこの騎士がかけた翻訳魔法の気配しか感じない」
「しかし、異世界など、魔力のない人間以上に信じられない事項ですよ?」
「確かにな……」
「異世界など妄想では?先程の話だと、仕組みはわからない道具ばかり知っているようですし」
「……」
「妄想が激しく危険ですので、彼には悪いですが元居たところへ返すべきかと」
あの男に取られた荷物があれば、少しは信憑性が増したかも……。
あ。
「わかりました。証拠を、異世界の道具を見せます」
私はポケットに手を突っ込み、スマホを取り出した。
そして、久しぶりに電源をいれる。
お願い、ついて……!
電源は普通についた。
私はそれを皆に見せる。
「これは、私の世界の通信機器です。
これがあれば、電波のあるところならどこでも、会話をすることができます。
残念ながらここには電波がないので、電話はかけれませんが……」
私は側近にスマホを渡す。
受け取った王様は振ったりひっくり返したりしていたが、
画面に触れると動くことに気づき、嬉々としてスマホをいじり始めた。
「し、しかし、会話ができると言っても、それを証明できないのなら同じことです」
さっきから突っかかってくる眼鏡の男。
「……。この世界には、写真ってありますか?」
「写真、ですか。ありますが」
「え」
あるんかーい!
写真なら、電波関係ないし、異世界の不思議道具として認められるかと……。
「写真がとれるのか?」
「あ、はい。陛下。せっかくなので一緒に自撮りしましょう」
「あ、ちょっと!無礼だぞ!」
もうやけくそだ。
私は許可もなく一段上がり、王さまとお妃様の間にはいると、スマホを横にして、広角のインカメラに切り替える。
「はい、じゃあ、ここの黒っぽいところ見ててくださいね!はい笑って~!」
カシャ
撮れた。
とれた画像を開いて、王様に渡す。
「おお!すごい!速いしそのまま写ってるぞ!」
「本当ね!あら?なんかあなた、若く写ってるわよ?」
「お前だって目尻のシワを薄くされておるではないか」
「ああ、美人フィルター掛けっぱなしでしたね。人を撮ると、勝手に肌をきれいに写してくれるんですよ」
「なにそれ!すごいわ!」
「ちょっと!アイハラツムギ!いい加減にし」
「あ、折角だから、動画も撮ります?」
「どうが?」
「じゃあみなさんも。今から撮りますから手でも振ってくださいね!」
ピロッ
「はい、ここはクアルーズ王国、謁見の間~!なんと、王様にお会いできました。非常に光栄です!
こちら、ゴジダート陛下~!」
陛下、きょとん。
「お隣にいらっしゃるのはそれはそれはお美しいお妃様でーす」
お妃様、にっこり。
「で、クアルーズ王国のみなさんでーす。宜しくお願いいたしま~す」
ゆっくりとカメラを向ける。それぞれ、慌てたり、手を振ってみたり。
眼鏡の男がすごい形相で見ている。
ピロッ
「撮れました。どうぞ」
そう言って一段戻る。
『はい、ここはクアルーズ王国、謁見の間~!なんと、王様にお会いできました。非常に光栄です!』
私の音声が響く。
皆どよめいた。
さすがに、動画機能はなかったのか?
「はっはっは!面白い!おい、ゼクト、お前すごい顔してるぞ」
王様が眼鏡の男に笑いながらスマホを見せる。
「これ、私……」
なんだか落ち込んでしまった。
皆にスマホが回されるなか、王様が言う。
「確かに異世界の道具が存在することは証明されたと思う。
この国にも写真はあるが、これほど鮮明には写らない。
映像はあるが、それを記録して何度も見ることは今までなかった。
そんな状況で、これを異世界の道具でないと断じることは私にはできぬ。
よって、これを持っており、使い方を知っているお前を異世界から来たと認めよう」
「ありがとうございます!」
「うむ。……ゼクト!いつまでも落ち込むな!」
「お、落ち込んでなどおりません。
…我が国西方の地滑りの件も、アイハラツムギ殿の召喚に伴う魔素均衡崩壊の可能性が高いと報告を受けております」
「アイハラツムギ。お前を異世界から召喚したのは誰だ?」
「……わかりません。人形がたくさんいて、賭博好きの30歳位の男です」
「マルネイトで間違いないでしょう」
さっき魔力がないと発言した黒髪の若い男が言う。
よくみると、まあまれに見るイケメンだ。
「マルネイト?」
「やはりあの男……!」
ゼクトさんというらしいこれまたよく見るとイケメンな銀髪の眼鏡がギリっと音がしそうなくらいまたすごい形相になっている。
美形なぶん怖さ倍増である。
「でも、あの男が召喚したとなるとなぜ手放したのでしょう?魔力がなかったから?」
「ええと、……そうだと思います」
本当のことは言わない方が良いだろうか。
迷いながら答える。
黒髪の若い男が補足してくれる。
「マルネイトは、異端の魔法使い。
依存性の高い覚醒剤を流通させ、違法の禁忌魔法をやってはその度に魔素均衡崩壊を起こしてきたと言われる男だ」
辺りがざわつく。
ゼクトさんはあいつを知っているのか、苦々しい表情をしている。
魔素均衡崩御と言う謎ワードがでたが、長くなりそうだしわかる気がしないので今突っ込むのはなしにする。
「あの、お聞きしたいことが」
「なんだ?言ってみるがよい」
「私は、元の世界に、帰れますよね?」
「……。エーディス・ソマ魔法師、どうだ?」
「無理でしょう」
え……。
そんな、
嘘だ。
むり、だなんて……
間髪いれずに考えもせず解るの?
「どうにかなりませんか!?」
黒髪の若い男、エーディスさんが無言で首を振る。
陛下はすまなそうに言う。
「エーディスは我が国一番の魔法師だ。彼が言うのだから可能性は低いと言わざるを得ないだろう」
「そんな、」
私はエーディスさんの前に走りより、
土下座した。
「お願いします!お願いします!私は魔法が使えないから、この世界では生きていけないんです!
家族や友人もいるんです!帰りたいんです!どうかお願いします!」
こんなに必死に頼み込んでいるのに、エーディスさんは表情を変えることなく言う。
「無理なものは無理」
「どうして……」
目の前が真っ暗になる。
「どうにかしてよ!なんでだよ!?魔法でつれてきておいて魔法で帰れないなんておかしいじゃん!」
エーディスさんに詰め寄る。
エーディスさんの緑色の瞳に泣きわめく私が映っている。
「なんであいつができて国一番の魔法使いが同じことできないんだよ!」
そこまで言って、言い過ぎたと口をつぐむ。
エーディスさんは僅かに眉をひそめただけだったが。
でも、そうじゃないか。
マルネイトができることができないなんて
国一番の魔法使いと言えるのかよ!
辺りは静まり返っている。
私は、ギリギリ奥歯を噛みしめエーディスさんを睨むことしか出来なかった。
エーディスさんが静かに口を開いた。
「召喚と言っても、転移と仕組みは同じはずだ。
転移するには座標が必要だが、その座標がわからない。
また座標がわかったとして、
ここでない世界があるならば他の世界もあるのだろうし、
その座標が君の世界か判断するすべがない。
100%無理とは言うつもりはないが、少なくとも今の状況では無理だ」
「でも!」
「おちついて!」
グラネットさんに押さえつけられた私は、少し落ち着きを取り戻す。
「すみません。取り乱しました……」
「とりあえず、アイハラツムギ殿の身柄は王宮預かりとしましょう。今日はもう遅いですから、部屋に案内するように。
今後のことはまた後日」
ゼクトさんの声でこの会はお開きになった。
座り込む私に、エーディスさんがなにかを押し付けてくる。
「……?」
「これは、魔法玉。生活に困るだろうから肌身離さずもって、効き目が弱くなったら持ってくるように」
「……?ありがとうございます」
「要するに、これがないと君は水も出せないし明かりも使えないし、通訳魔法が切れるとことばもわからなくなる」
「あ、ありがとうございます」
私の言葉を聞かず、エーディスさんはマントを翻してさっさといなくなってしまった。
さすがに、気分を害してしまっただろう。
あ。謝り損ねた……。
とりあえずの客間に案内された私は、電気をつけようとスイッチを探す。
まあ、いい加減わかってきたけど当然なかった。
どうすればいいか聞ける人は誰もいない。
案内してくれたグラネットさんは帰ってしまった。
「うーん。明かりよツーケ~!」
ついた。
おお!
気分はフワッと僅かながら浮上したが、
《無理》
この言葉に、打ちのめされていた。
ここでようやく召喚した魔法使いの名前が判明。
あと、間違い直しました……崩御ってなに……(--;)