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あの日の真相

ブクマ、評価ありがとうございます!

 さて、昨日は疲れからか昼過ぎまで爆睡していたエーディスさん。

 まあ、練習に仕事に私の看病で寝れてなかったんだろうな。本番までに目覚めてほんと良かったわ、私ってば。


 私は、エーディスさんが寝てるのを良いことにいそいそ起きて、リハビリに励み、とりあえず歩行に支障はなくなった。

 起きたら私がいなくてエーディスさんが焦って探しに来たのには少し驚いたけど……。


 まあ、久しぶりにのんびりできたようで、良かった。




 さて、今日は陛下に謁見である。

 我々の他にも時間をずらしつつ入賞した選手たちが褒賞を賜ることになっていた。



 その前に、寄るところがあると連れてこられたのはなんと牢屋。

 途中で殿下と合流し、顔パスの殿下についていく。

 窓が少ない、じめじめとしたいかにも牢屋な石作りの部屋。



「わざわざご足労すまないね。あの騎士がけじめだとかなんとかで煩くてとりあえずつっこんだみたい」

「ああ……。ジープス、変なところ真面目だね」

「私と話す約束だからそれまでは牢にいる、と……」



 別に牢屋入っとけなんて言わなかったと思うけど。

 殿下が嘆息しながら言う。



「既に大体話は聞いた。ツムギさんを連れていく筈だった所まで連れていかせたけど、もぬけの殻だったね。

 まあ、どこぞの国の間諜がどこかの誰かに唆されたかで、実行役としてあの騎士にもお鉢が回ってきたけど、みんな失敗してとんずらされたと言うところかな」


 殿下が裏の裏まで解っているのかいないのか、よくわからない解説をしてくれる。


「そういえば、あの日色々トラブルありましたよね……」

「……恐らくはモレルゾの差し金だろうな」

「結局、彼自身の尻尾は掴ませなかったけれどね。取り巻きはひとり、牢屋に入れてあげたけど」

「え、その辺に居るんですか?」


 私がキョロキョロと見回すが、殿下は首を振った。


「もう、保釈金が払われて出てしまったよ」

「えええ、そんな」

「家に軟禁中だけれどね。取り調べも終わっていないし」

「街で暴動を起こした連中はどうなった?」

「まとめて移送中だよ」

「それも、モレルゾの差し金?」

「証拠はないけれど、ね」



 と言いながらも頷く。


 あの時、まず街で騒ぎが起きて、見回りの騎士たちが出ていく。

 そして、手薄になったところで、殿下の見立てによれば他国に雇われた奴等が異世界人を探しにやって来る。

 異世界人だとバレているのはモレルゾのせいか、はたまた……。

 異世界人の捕獲に失敗しても、次の刺客、ジープスさんがいる。

 最終的には、ジープスさんも失敗したけど。


 でも、モレルゾの狙いがもとからエーディスさんの競技の妨害だったとしたら……。

 まったく証拠になるものはないが、ふたりはそう考えているようだ。

 もし本当にそうだったとして、あそこまで用意周到に策を弄して、シオンの排除に成功させたことになる。結果的には失敗になったわけだが、ほとんど上手く行ってたに違いない。

 そうまでしてエーディスさんの妨害をしたいのか……。

 その執念が怖い。


「エーディス、モレルゾとは会ったの?」

「いや。あいつは棄権になってから会場には姿を見せてない。閉会式にもいなかったし」

「気を付けなね。腸煮えくり返っているかもよ」

「問題ない」



 言いながら、牢屋を進んでいく。

 殿下が足を止めた。


「おお、ツムギ殿にエーディス殿、こんなところまですまない」

「牢屋、開きっぱなしなんですね……」


 まず突っ込みたいのはそこである。さっさと出ればいいのに。

 鍵も掛かってない、開けっぱなしの扉を横目にジープスさんが座っていた。


 エーディスさんが牢屋にはいるので、あとに続く。

 ジープスさん、自嘲するように笑ってはいるが見た目は元気そうだ。



「もう既に話は聞いてるけど、まだ血、欲しいの?」

「血を俺が持っていても仕方がないだろうな。薬を作れるやつがいなくなってしまった」



 私の血をあげる話はここで消えてなくなった。

 まあ、絶対ただの血だろうしねぇ。それでも、素直に話をしてくれて良かったと思う。

 とりあえず、聞きたかったことを聞いてみる。



「……ジープスさんのお知り合いに体調が悪い人がいるんですね?」

「ああ。俺の可愛い妹だ」

「妹さんですか……。病状を伺っても?」



 聞いても私にはどうしようもないけれど、ここにはエーディスさんや殿下もいる。(殿下は牢屋に入っては来ないけど)

 何かしら心当たりがあれば良いけど……。

 ジープスさんが遠い目をして語り出す。



「あれは、いつからだっただろうか……まだ小雪ちらつく、春の嵐が吹き荒れる頃……」

「……簡潔にお願いします」



 陛下の謁見に間に合わなかったら困る。

 ジープスさんはちょっと残念そうな顔をしたものの、頷く。



「フム。まずは、くしゃみや鼻水、目の痒み、皮膚の荒れから始まった。

 妹には婚約者がいたのだが、会ったときに鼻水を垂らしてしまったらしくてな、汚いと暴言を吐かれ引きこもるようになってしまったのだ」

「……花粉症?」


 私の呟きには気づかず、ジープスさんは話続ける。


「そして、心の辛さからか過食に走り、太ってしまった。そしてますます引きこもる悪循環……。

 しかも、最近は顔中に吹出物が出てくるようになってな……

 もう生きていけない、と人生を悲観し始めている」



 ストレスで過食してしまうのはよくある話だけど、やっぱり症状的に花粉症だよね。太ったのは引きこもって動かないのが原因として……。

 吹出物、もしかして……。



「妹さんは最近どんなものを食べてるんですか?」

「甘い焼き菓子やパンが多いな。悲嘆に暮れているのを見ると不憫でな……つい与えてしまうのだ」



 私は、大仰に頷いた。


「実際に見てないので絶対そうとは言えないですけど……くしゃみ、鼻水、目の痒み。これは私の故郷ではよくありまして、花粉症の症状ですね」

「花粉症?」

「お花の花粉が飛んで、それを吸い込んだりして身体に入ると、そういう症状が出てしまう人がいるんですよ」

「ど、どうすればいいのだ?」

「花粉なら、洗浄魔法使えば?」

「恥ずかしながら、俺はそういった類いの魔法が苦手でな。家の者も、使えるかさだかではない」


 なんと! 魔法ランキング便利さ部門ナンバーワンに入りそうな洗浄魔法も、使える人とそうでない人がいるのか……。

 ジープスさんも一応、厩舎所属のエリート騎士なのに……。

 得意不得意は人それぞれ、というやつだろうか。

 ……最近ようやくわかってきたけど、エーディスさんが規格外なだけか。


 内心びっくりしていると、エーディスさんが言う。



「じゃあ今度、洗浄の魔法玉持ってくるよ」

「……かたじけない」



 ジープスさんが深々と頭を下げる。




 おっと、話はまだあるのだ。



「そうそう、太ったのは食事制限と運動で何とかしてもらうとして、吹出物ですけど」

「なにか、原因がわかるのか!?」

「私の知り合いにも、吹出物、というかニキビが酷かった人がいて。その人、グルテンフリーにしたらすごくよくなったんですよ」

「グルテンフリー?」

「……小麦粉からできる食べ物をなるべく避けてみて下さい」




 説明が面倒だったので流した。

 こちらの世界にも小麦粉はあるので、粉物好きの私としては嬉しい。しかし、体質的に合わない人はこちらにもいるんだろう。

 遅延型アレルギーか、はたまたグルテン過敏症か。

 やめてみて改善すればそういうことだ、ということで……。






 頭を下げまくるジープスさんを置いて、牢屋をあとにした。

 どうかさっさと出て欲しい。牢屋番の騎士さんが困ってたし……。


 早歩きで進みながらも、殿下が興味津々で聞いてくる。


「君は医学にも詳しいのかい?」

「いえ、全く。でもああいう情報は皆テレビとかネットとかで知ってます」

「テレビ? ネット?」

「今度、詳しくお話ししますね……」


 さすがに、時間がヤバイ。



 陛下にお会いするのはこの国に来たての時以来だ。

 やっぱり緊張しながらも、エーディスさんに付いていった。


花粉症ではない、と言い続けながらくしゃみをして目を擦りまくるのが私のデフォルトです。

遅延型アレルギー、一回検査してみたいけど、食べれないものが増えそうで怖い……

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