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秘密の暴露

すみません、予告しなかったのですが昨日投稿できず……。

 さあて、一晩寝て、元気モリモリだぜ!

 ……と、簡単にはいくわけもなく。


 いや、元気はモリモリあるけど、身体がついてこない。

 6日も意識不明で寝たきりだった私の脚は、生まれたての小鹿並みに弱々しく震えている。


 た、立てない。

 嘘だろー!?



 立とうとしてふらついた私を受け止めたエーディスさんに、あっという間に抱きあげられる。

 ぎゃあ、お姫様抱っこというやつ!


 最早抵抗は諦め、されるがままに全てを受け入れることにした。抵抗しようにも身体動かないし……。

 これは荷物のように抱えられるよりだいぶ、恥ずかしいぞ。


 内心、恥ずかしさで悶絶しているがそれはおくびにも出さず、エーディスさんに支度はお任せである。

 ちなみに、身体は下着ごと洗浄魔法をかけていただいており基本的にはさっぱりスッキリの状態であります。

 エーディスさんの言を信じるならば、私が寝てる間、裸は見てない。下着姿は見た、とのことだが……。どや顔で言うことじゃなーいっ!



 靴下、靴まで恭しく履かせてもらい、車椅子らしいものに座る。

 少し慣れれば歩けそうなのだが、今日のところはこれで、と押し切られた。


 エーディスさんが押して歩くのかと思いきや、押さなくてもエーディスさんの思う通りに動く車椅子。乗ってる私は少々まごつくけど。

 なので、横にならんで会場へ向かった。



 最終日だということもあり、初日以上に人が多く感じる。

 皆にも心配かけたし、早く会いたいな。


 エーディスさんが、私を振り返って言う。


「あ、そうだ。実は、うちの兄さん達が来てるんだ。君のこと紹介したいからちょっと付き合ってくれる?」

「あ、はい」


 お、エーディスさんのお兄さまたちかぁ。

 さぞやイケメンに違いない。

 従者がついたことは手紙で知らせてはいたみたいだが、エーディスさんちの領地が遠いこともあって、実際にお会いすることは王都に嫁いでいるお姉さまたち以外はじめてである。

 エーディスさんのお父さまは領主を引退しているそうで、既に領主とその補佐としてお兄さまたちが跡を継いでおり、なかなか忙しく王都に出てくることはあまりないらしい。

 今回はご両親は来ていないそうだ。ちょっと、見てみたかったなぁ。



 エーディスさんに連れられて、観客席の方へ向かう。

 エーディスさんはすいすい人の波を避けて進んでいくけど、これだけたくさん人がいて、携帯とかで連絡取り合うわけでもないのに居場所がわかるのだろうか?

 待ち合わせでもしてるのかな?




 人の山を抜け、見覚えのある美女がふたり現れた。

 そして、美形の男性がふたり。こちらを見て、手を上げる。



「お、エーディス。来たな」

「エディー、やっほー」


 にこやかに手を振るお姉さまたちと、お兄さまらしき男性ふたり。

 エーディスさんもあわせて5人集まると、凄い。美形の圧が。これは美景だ。くっ、眩しいぜ……。



「ツムギが目を覚ましたから、連れてきた」



 こちらに来てから既に顔を合わせていたのだろう、エーディスさんがラフすぎる挨拶?紹介?をしてくれる。

 お兄さまたちが私を見てにこにこと笑いかけてくれる。ふたりとも優しそうだ。


「ああ、良かったね~。

 こんにちは、初めまして。エーディスの兄です。いつも愚弟がお世話になってます」

「やあ、同じく兄ですよ~。初めまして」


「もう。お兄様たち、名乗ってませんわよ?」


 お姉さま……こっちは、マディーリさんかな?

 的確に突っ込みを入れてくれた。

 お兄さまたちが照れ笑いを浮かべ、頭を掻いた。



「おっと失礼。ソマ家長男、ジュラルディンです。改めてよろしくね?」

「同じく次男、ディルム。よろしくね~」


 爽やかに頬笑むふたり。年のころは30代前半くらいに見える。一番上のお兄さまはエーディスさんより髪は短く、しっぽ髪になっている。

 エーディスさんが中性的だからか、並ぶと精悍さが際立つ。

 もう一人のお兄さまは短髪、というかショートヘアで柔らかい雰囲気にとても似合っている。のんびりした人当たりの良さそうな笑顔でこちらをにこにこと見つめている。




「よろしくお願いいたします! ツムギです。エーディスさんにはとってもお世話になってます。

 こんな状態で挨拶がまともにできず申し訳ありません……」


 精一杯頭を下げるが、そもそも座ったままだからね……。

 お兄さま、お姉さま方が優しく言ってくれる。



「いいよ、全然気にしないで? 大変だったみたいだね。会えて良かった」

「心配してたのよ?」

「ご心配ありがとうございます。もう大丈夫ですよ! 怪我した訳じゃないので」

「そう? でも、無理はしないでね」


 優しい……。


「ルディ兄さんはやっぱり帰ってきてないの?」


 エーディスさんがお兄さまたちに尋ねている。

 そうか、確かエーディスさんは6人兄弟の末っ子。

 上に5人のお兄さま、お姉さまがいるはずだ。

 今居ない人が、ルディお兄さま、ということか。


「ルディアスはそろそろ一年くらい見てないな、そういえば」

「この前、どこぞの港町のお土産で魚介類送ってきてくれたのが最後の便りかな?」

「どこをほっつき歩いてるのかしらねぇ」



 ルディお兄さまはどうも、放浪の旅に出ているらしい。もうしばらく戻ってきていないようだが、忘れた頃にあちこちでお土産を送ってくるらしく、それで生存確認されているようである。


 ひとしきり、ルディお兄さまの話をしたあとに、ディルムお兄さまがニマニマしながらエーディスさんをつついた。




「で、この子が噂の恋人なの?」

「えっ!?」

「そうよね、エディー? もう王都は噂で持ちきりよ?

 ずっと独り身を貫いていたソマ副長についに恋人が! しかもお相手は同性!? って」


 ディオラお姉さまがきゃいきゃいとはしゃぐ。


 エーディスさんは、一瞬黙ったが、座る私の首に後ろから手を回してきた。

 お姉さま方がきゃーっと黄色い悲鳴をあげる。は、恥ずかしすぎるぞ!


 そしてひとこと。


「そう。恋人だよ」


 う、耳元でそんな……。


「えええ、エーディスさん、」

「お、ぼふって音が聞こえそうな位急に赤くなった。可愛いねぇ~」

「んー、でもエディーが意外と普通なの。つまんないわ~」



 からかい損ねたお姉さまたちが少しむくれつつも、概ね温かく受け入れられた。

 あれ? 私、男と思われたままなんだっけ?



「まさか、本当だとはね~」

「まあ、エーディスの女性嫌いはなかなか治せないよねぇ」



 お兄さまたちがふむふむと頷く。

 む、ここは否定しておいた方が良いのかなぁ。

 エーディスさんをちらりと見ると、好きにして良いよ、という感じでにこっと笑った。



「えーっと、あのですね。こんななりなんですけど私、女です」


伝えると、皆さんがきょとんとした顔になる。


「え?」「えええ?」「そうなの? それは失礼したね」

「しばらくエーディスさんにも秘密にしてたんですが、特に問題もないので公表しちゃいます」



 私があっさり言うと、皆が驚きつつも納得の表情を見せる。なんだかホッとしたよ……。


 でも……



「「「えーーーーーーー!!??」」」




 背後から驚きの声が響き渡った。


 後ろを振り返ると、チームのメンバー皆が驚愕で顎を外さんばかりに驚いていた。


「あ……」


「なに? やっぱりそうだったのか~」

「いやあ、クリオロの可愛い子センサーも当てになるもんだねぇ」

「いや、言われてみればそうにしかみえないんだけどさ、いやびっくりだわ」

「まあ、あれだけ女装が様になってたものね……」



 皆が好き勝手に言いながら、私の頭やら頬やらをもみくちゃにする。


「い、いたいですって!」


 文句を言うと、リンガーさんがじっと私を見据える。


「……元気か?」

「あ、はい……。ご心配お掛けしました」


 笑顔で皆にも頭を下げる。


「ありがとな、ツムギ。お前のお陰で無事に競技に出られたんだぞ?」

「良かった……ほんとに、全然起きなくて心配で……」


 カシーナさん、涙ぐんでる。

 なんだか、じーんとしてしまった。


 エーディスさんが、パンパンと手を叩く。


「まだ、競技は終わってないんだから。泣くのはまだ早いよ?」

「そ、そうです! 皆さん頑張ってくださいね」

「……というか、いつからそこにいたの?」


 エーディスさんが訝しげに尋ねると、一様にニヤリと笑うチームメンバー。



「ああ、恋人だよ、ってところからかな」

「な!?」


 一番恥ずかしいところから!?


「まあ、何かあるよな~と思ってたからそれほど驚かなかったけど」

「その後のツムギが女の子だってことの方にビックリしたし」



 エーディスさん、耳まで真っ赤。


 私もだけどさ……。


 エーディスさんのご家族とチームメンバーたちは、にまにまと微笑みながら生暖かい視線を送ってくる。



「つ、ツムギ。そろそろ準備に行かないとねえ!?」

「そ、そうですね! 私、手伝いますよ!」


 車椅子からすっくと立ちあがりよろめいたところで、私は椅子に座らされてエーディスさんとその場から逃走したのだった。

ブクマ、評価ありがとうございます!

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