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side エーディス1

はい、エーディスの独白始まります。

58話位の頃、夜会の後でベッドに連れ込まれたときの振り返りです。


 腕の中で眠るツムギをそっと見つめ、俺は人知れずため息を漏らした。


 もう気持ちを抑えるのは難しい。

 ならば、もうやめよう。


 すやすや眠る彼。

 先ほどまで、なんとかこの腕から逃れようと悪戦苦闘する様子が窺えたが、諦めたようだ。

 俺が寝ていると思っているからだろう。

 そう言う妙に気遣い屋なところも、好ましく思う。


 ここまで密着していてもそこまで嫌がらなかったし、恐らくある程度、俺に好意を持ってくれているとは思う。

 でも、それは友達とか家族に対する親愛の情なのだろう。

 俺も弟みたいに思っていると言ってしまったし。


 でも、今はこちらはそうは思っていない。

 この気持ちは正しく恋愛感情的なものだ。


 まさか、自分が同性に対してこういう気持ちを抱くことになろうとは思わなかったけど、仕方がない。

 彼を好きになってしまったのだから。



 *********



 初めてツムギと会ったときのことはよく覚えている。

 魔力なし。

 まさかそんな人物が実在するとは。


 連絡を受けて、どんな人物か内心興味が沸いていた。

 本当に魔力がないなら、転移もできないだろうとスレプニールを派遣して、謁見には同席させてもらうことになった。



 彼を見て驚いた。

 本当に魔力がない。

 いや、実際のところ、ほんのわずかに魔力を持っていたが、それは彼を連れてきた騎士の翻訳魔法のもので間違い無さそうだった。

 あんまりにも少ないので、あまり情報を得られないのは残念だった。

 俺は体質的に魔力に敏感で、例え姿を見なくても知り合いであれば魔力を感じ取って近くにいることを把握できる。

 初めて会う人に対しては、あまり誉められたものではないだろうが魔力の質を調べるのが癖になっていたので、それができないことにまず衝撃だった。


 騎士の魔力とはほんの少し質が変わっているような気がしたが、正直少なすぎて判断できない。


 俺は体質的に他の人とは感じ方が違うだろうが、普通の人でも周囲の魔素を少しずつ取り込み自らの魔力として変換している。

 それが通常の生命の在りかたと思っていたのだが……。

 一体どうやって生きているんだろうか。魔力の流れがない≒死んでいる、この図式は彼には当てはまらないようだ。


 魔力を解析するのは諦め、彼を観察する。


 陛下にお目通りするからか彼からは緊張が感じられた。

 短い髪、男性にしては細すぎるし小柄だが……。見た目は普通の人間にしか見えない。

 異世界人というから、こちらの人間とは違う部分があっても良さそうなのだけど。

 薄汚れてはいるが質のよさそうな上着を着ている。

 疲れがあるのか、顔色はあまり良くないが、茶色の大きな瞳は生命力に満ちていた。


 彼は自分はこの世界の人ではない、自分の世界は魔法もないと必死に説明をする。

 嘘をいっているようには感じられないが、ゼクトはあまり信用できない様子だ。

 ま、ゼクトは疑うのが仕事みたいなものだから仕方ないか。

 他は陛下以下、平和ボケしてるから……。


 とりあえず、魔力がないことに関しては保証しておく。

 しかし、異世界など魔力がないより信憑性に欠ける、というまあ、当たり前の結論に至りかけるが、彼の取り出した謎の道具により陛下に異世界を認めさせることになった。


 あれ、何?

 ……欲しいな……。

 師匠の作った写真機よりよほど高性能だ。

 しかも、写真だけじゃなくて他の機能もあるらしい。そもそもあの板、指を滑らせるだけで模様が変わるってどうなっているんだろう……。異世界、すごい。



 と、思わず考え込んでいると、彼を召喚したのがマルネイトということが判明した。

 また、禁忌を犯したか。しかも、今回ばかりは成功させている。

 彼からしてみれば本当に迷惑千万だろうが……。

 帰れるか?と問われたので、無理だと言った。

 今この状況では、可能性は僅かでしかない。この場にマルネイトがいれば少しは違うだろうが……。


 こればかりはどうにもならない、と言うと、彼は、俺の前に膝を付き、額を床につけた。



「お願いします!お願いします!私は魔法が使えないから、この世界では生きていけないんです!

 家族や友人もいるんです!帰りたいんです!どうかお願いします!」


 恐らくお願いのポーズだったのだろう、かなりの必死さがヒシヒシと伝わってくるのだが、答えは変わらない。

 色々調べていけばまた変わるかもしれないし、それでも無理だと言わざるを得ないかもしれない。

 どちらにせよ、変に期待を持たせるのは個人的には好まない。

 期待が打ち砕かれるとき、その悲しみが正しい方向に向くとは限らないから。


 彼は、泣きながら俺に詰め寄った。


「どうにかしてよ!なんでだよ!?魔法でつれてきておいて魔法で帰れないなんておかしいじゃん!

 なんであいつができて国一番の魔法使いが同じことできないんだよ!」


 そこまで口にした後で、はっと口をつぐむ。言いすぎた、と顔に書いてある。なかなか解りやすいタイプのようだ。

 マルネイトができて俺ができないことは確かにあるだろうが、この件に関してはそれはあまり関係がない。

 ただ、それを言って彼が果たして理解できるのか……?

 睨まれながらも、説明はしておく。

 じゃないとなんか、マルネイトに負けたみたいで、ちょっとシャクだし。少しだけ、だけど。



 謁見が終わって解散する時に、とりあえず魔法玉を渡す。

 ガルグールがにこりとこちらを見て頷き、下がっていった。





 そのあと、なんだかんだと予感していた通り、彼、ツムギが転がり込んできた。

 正直独り暮らしに慣れた俺は気乗りはしなかったが、上から言われたものは仕方がない。

 うちが一番安全管理がしやすいのは確かだし。



 ゼクトも、契約魔法をかけて納得できたようだ。ゼクトのことだから、あれもこれも気になることはついでに全部調べてるんだろうから、彼がなにも言わないなら問題はない。

 まあ、なにか気づいたとして、特に言う必要がないとかで黙ってる可能性はあるけど。



 ツムギが家に来ることになり、色々と生活環境は変わっていった。

 部屋は片付き、食事が規則的になり。

 なんだろう、ドーナとか実家の使用人たちがあれこれやってくれることはなんだか鬱陶しくて色々文句を言ってしまったけど、ツムギがやるとそういうことが少ない。

 彼は俺の従者だからと張り切って色々やろうとしてくれて、それはドーナたちともあまり違いはないのに。

 魔法が使えないのに一生懸命なところに絆されたのだろうか。



 彼は、いつも頑張っていた。


 馬たちのことも、よく見てる。馬の知識は、時折俺でも知らないことを知っていたりする。しかも、理論的に説明してくれるから納得できる。

 チームの皆がやり易いように、くるくる働いて必要なものを準備しておいてくれたり。

 それでいて、モレルゾに立ち向かっていくとか、貴族の力関係に疎いとは言え、なかなか気の強いところがあったり。

 話していると、斬新な切り口だったり色々な考え方を聞けて、彼と話すのはとても面白かった。


 でも、魔法が使えないことについては結構気にしている。

 確かに、俺を含め周り皆が魔法でなんでもぱっぱとやってしまうのに、自分だけは手作業で時間かけて、と思うと、嫌になるかもしれない。

 でも、それだから自分が役に立たないと思っているのが、俺にとってはもどかしい気持ちがあった。


 ガルグールが言ってた、魔法に頼らない世界。

 それが実現するのは、正直ないと思う。かなり、依存しているから。

 でも、魔法でなんでもできる自分たちが魔法が使えないツムギから教えられることがあれだけたくさんあるのだから、もっと自信を持って欲しかった。



 それを伝えることができたのは少しあとのことだったけど。


 彼が泣くのは、初日以来だったように思う。

 もしかしたら気づかないうちに泣いていたのかもしれないけど、目が腫れている位だったのはそれくらい。

 強いな、と思っていた。

 知り合いも一人もいない、知らない土地で、もう二度と、家族や友人に会えないかもしれない。

 そんな心境で、きっと、ひたすらにひたむきに日々を生きることで誤魔化してきたんだと思う。

 それが、自分が役に立ててない、と思いこんで崩れてしまうのが、彼らしいなとは感じた。



 そういえば、あの治療した時の魔力が結構彼に残っているのには驚いた。

 普通は、魔法をかけられてもそれで終わり。

 体質によっては、効果の残りの魔力が体に残ることもなくはない。でも、相手方の魔力の質にもよるし、さらに自分と似通ってる質の魔力じゃないと。家族とか親戚位なら、まあある。


 だけど、ツムギは違う。ツムギを連れてきた騎士、俺、カシーナさん、グレルゾ、医師……

 思い付くだけでこれだけの人から受けた魔法の余り分を自分の魔力として貯めて、しかも使うことができるなんて極めて珍しい。

 しかも、混ざり合うのだ。これほどたくさんの人の魔力が。ツムギの中で。

 一体どうなっているのやら……。

 魔力がないことが何かしらの理由のひとつであるとは思うが、よくわからない。

 混ざり合う魔力の中には誰の気配でもないものが見えるときがある。

 柔らかく女性的な魔力だ。これがツムギ本人の魔力の質なのかもしれない。カシーナさんの魔力が入ったからこれだけ女性っぽいのだろうか? まあ、確かめようがないけれど。


 魔法も、何も教えていないになんだかんだ使えているので、魔力さえあれば結構魔法センスはあるのではないだろうか。


 それでも、彼の魔力のために必要のない魔法をかける気はない。

 彼にとっては異質なものを、大量に注ぎ込んだらどうなるかわからないのだから。


 何度かかけてくれとねだられるけど、断り続けている。

 契約魔法を掛ければ魔力譲渡もしやすくなるのだが……そこまですると、変な勘繰りする人が絶対出てくる。




 ツムギが還るための座標解析やら日取りの解析やらは、細かく報告はしていなかったけど続けていた。

 それがスレンピックのあとになったことで、少しほっとしたのは最初は猶予ができたからだと思っていたけど、今思えばツムギが還って居なくなることがその時には既に現実味がなくなっていたんだろう。

 好きになってた、のかもしれない。当時は自覚はなかったが。




 酔うとべたべたするのは悪癖だ。

 主にベタつく相手、つまり飲み仲間のガルグールにさんざん酔いが覚めたあと倍返しでからかわれるのがわかっているのに、つい、べたべたしてしまっていた。ガルグールには欲求不満なんじゃないのと言われるし……。

 だから、酒量は控えていたんだけど、スレンピックのチームがわりと居心地が良くなってきていて、あのときはつい飲んでしまった。

 あいつは面倒がって適当にあしらってくるけど、ツムギは面倒見がいいのか世話を焼いてくれた。

 それが嬉しくて、ますますべたべたしたせいで次の日自分がダメージを受けた。本当に。

 一応、頼れるお兄さんのつもりだったから。



 その気持ちが変わり始めたのはいつだったんだろうか。

 グレルゾにツムギが襲われたときは、心底腹が立った。もう少し、直接的な現場だったら、うっかり殺してたかもしれない。

 でも、まだ、兄貴分の気持ちでいたと思う。


 フィリーチェ嬢の件で、あれやこれやツムギに言われたのは今思い出してもわりと恥ずかしい。でもそれよりも、クリオロ……。

 ツムギにキスするフリした、あれには結構ムカついた。

 ツムギも全然嫌がる素振りがないのが特にね。


 ツムギは可愛いから、変な男に良く言い寄られている。

 本人は全く気づいてないけれど。

 優しいから、女の子たちにも人気がある。

 幸か不幸か、ツムギの生活範囲には男ばかりだ。

 そういうツムギを気にする人たちを男女問わず気にするようになってしまって、兄貴分として変なやつがつかないようにと自分で自分に言い訳していた。




 シオンのことで、ツムギに叱られた時。俺を見る目が、怯えていた。よく、いろんな人に向けられる目付きと同じ。

 でも、俺のために叱ってくれた。そのことに、心から感謝した。

 相棒シオンとの関係が悪くなったら、平静でいられなかっただろう。

 誰かが間違っている時、その人のために叱れる人が、どれだけいるだろう?

 俺の中でツムギが大きな存在になっていることを自覚した。

 でもきっと、好きだと気づいたのはそのあと。

 ガルグールがツムギを泣かせていた。それを見て、心から尊敬していて、忠誠を誓った主人であり親友であるガルグールに怒りが沸き起こった。

 ツムギだけは、ガルグールに渡したくなかった。




 それから、それとなく好意を伝えてはいるつもりだ。

 男同士、と思うと、それ自体がダメだと嫌がられてしまうかもしれない。

 だから、それとなく触れてみたりして様子をうかがっている。

 ツムギは嫌がる様子はない。

 単なる友人同士のスキンシップと思っているのか、受け入れてくれるだけましだとは思うけど……。

 たまに照れてるし、全く脈がないというわけではないと信じている。



 それにしても、ツムギの女装には驚いた!

 可愛すぎて……驚いたし、もともと、可愛いんだけど。それを言ったら、いやがられるかもしれないと思って一度も口にはしなかったけど、意外とノリノリであの格好をしていたのには、本当に驚いた……とにかく衝撃だった……。

 ツムギは嫌ではないのだろうか?

 俺なんかは昔姉さんたちに女装させられ過ぎて、結構嫌な記憶しかないんだけど……。


 夜会の日、ツムギにもらったブローチはもちろん着けた。ツムギは俺の目の色のブローチを着けてくれている。

 最近妙に噂になってるらしいから、これを見たらますます誤解されるだろうな、と思うけど。むしろ誤解されれば良い。


 男同士だから、という言葉は、もう俺には関係ない。女だから好き、男だから好きじゃない、じゃなくて、ツムギが好きだから。






 だから、酒のせいにして、今ベッドに連れ込んだわけだけど……。


 ジープスの酒、何か混ぜられていたから一口しか飲んでいない。それを知らないツムギはかなり心配していた。

 それが嬉しくて、酔ったふりをしてしまった。全く酔ってないわけじゃなかったけど。


 もちろん、何かする気はない。

 今はこうして、腕の中にツムギがいることに満足している。

 あわよくば、少しは俺のことを意識してほしかったりするけどね。


 もぞもぞ動いて、触れあう部分が熱い。

 もっともっと触れたい。

 というか、何でこんなに柔らかいんだろう。ツムギの世界の女性は、これより柔かったら直ぐにへし折れるくらい弱いんじゃなかろうか。無駄に心配になってくる。

 抱き心地が良すぎて本当に離れがたい。




 ああ、好きだなぁ。

 これほどに人を好きになったことがないから、自分でも戸惑っている。

 いつかツムギがいなくなるなんて考えたくない。

 でも、ツムギはまだ、還りたい気持ちがあるのだろう。

 よく、あのすまほという板に入った写真を眺めて、ため息をついている。

 ツムギの家族や友人も、急にいなくなった大切な人をきっと必死で探しているはず。

 だから、還してやらねばならない。それだけは思う。

 還した後、俺自身がどうなるのか、今は皆目見当もつかないが……。


 そっと、腕に力を込める。


「好きだよ、ツムギ」


 そう、寝ているツムギに囁くと、彼が身じろぎした。

 もしかして起きている? 聞かれた? 心拍数が上がり出す。


 いや、寝ているようだ。気づかれないように、腕に力をこめ、もう一度囁いた。


「好きだよ……」


 お願い、必ず還すから、それまでこうしてそばにいることを、どうか許してほしい。

あと1話くらい、エーディスside行きます。

それが終わればスレンピック始めるぞ。

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