約束
ブクマ、評価、感想ありがたき幸せ……。
「もう、やめてくださいよぅ……」
キスの嵐を受けながら、半泣きで言うと、動きが止まったエーディスさんが不安げな顔をする。
「……嫌?」
……。嫌ならもっと本気で抵抗するよ!
問題なのは、私も流されまくってるってこと……。
もう、とっくに好きになってるし、頭ではダメだと思っても心が望んでエーディスさんを受け入れようとしてる。
好きになったらあとが辛いのに。それがわかってるから、踏み出せない、踏み出すのが怖いのに、エーディスさんに抱き締められるとなんだかどうでもよくなってしまって、流されてしまう。
でもそんなこと言えずに下を向く。
そんな私の顔を覗き込み、エーディスさんが聞く。
「教えてよ、嫌なの?」
……悩んでいること、言ってしまおうか。エーディスさんがどう考えてるのか、聞きたい。
「嫌な訳、ないです。
……でも、私だって、いつまでいられるか、わからないんですよ?」
私の言葉に、エーディスさんはわかっていると頷いた。
「……。解ってるよ。君はこの世界の人じゃなくて、帰る場所があるって。
俺が君を還したくなくなるんじゃないか心配してるの?
大丈夫。俺が必ず君を還してあげる。約束するよ」
どうしてそう言うことをいうのだろう。
私をこんなに優しく抱きしめて好きだとささやく癖に。
「どうして……」
「ん?」
「なんで、居なくなるとわかってる人に好き、なんて言うんですか! あんなにキス、するんですか!
私は、エーディスさんをこんなに好きになりたくなんて、なかった……!」
エーディスさんが思わず声を荒げる私の頬をそっと撫でた。
涙が……。
彼は私の首筋に顔を埋め、小さくささやく。
「ごめん。君が辛いのに、今すごく嬉しくなってる。
初めて好きって言われたから……。
好きな人に、好きって言われるのって、凄いね……」
私は、ぼろぼろ泣きながら言った。言ってしまった。
「好きですよ! 大好きになっちゃったから、だから、辛いんです……。いつか離れるとき、耐えられないかもしれない」
「大丈夫だよ。きっと時間が解決してくれる。
いつか、また好きになる誰かができて、君は幸せになれるよ」
穏やかにそう言うエーディスさんを、思わず睨み付けた。
「なんで、そんなこと言えるの!? エーディスさんは、それでいいんですか!? 私が他の誰かと……」
「嫌だよもちろん。……でも、君が幸せなら、それでも良い」
「そんなの……!」
私を抱えるエーディスさんの腕に力がこもる。
「君が、二度と会えないような遠くにいってしまっても。例えその場所で他の誰かと一緒でも。幸せでいてくれるならそれでも構わない。
……だから、それまでは。今だけはそばにいて欲しい」
すがるような眼差しを向けられるけど、返事なんてできない。
「なんで……私が、還っても、居なくなっても良いんですか!?」
「君は、還らないといけない。そうじゃないと、きっと後悔するよ」
「……ずるい、よ」
エーディスさんは、私を引き留める気はないんだ。
引き留めて、私が後悔することになっても、それをまるごと受け止める気はないんだ。
意気地無し。
ずるい、ひどい。
私は、エーディスさんの胸を叩いた。
「ばか、ばか!」
「……。」
エーディスさんは、全く抵抗しないで受け入れている。
私は、彼のシャツを握りしめて泣くしかなかった。
本当はわかってる。
エーディスさんは、優しさで引き留めないってこと。
ずるいのは、私。
本当は私の方が引き留めて欲しいと思ってる。
そうしたら、エーディスさんに言われたからって言い訳できるから。
でも、それをしたら、いつか、エーディスさんを責めてしまう。
それで自分が苦しくなるってわかってるのに。
きっと、エーディスさんを責めても、彼は受け止めてくれる。
でも、それで後悔が消える訳じゃない。
自分で、選ばないといけないんだ。
自分で、選んで欲しいんだ。
そうしないと、後悔ばかりして、エーディスさんを責めて、いつまでも前には進めない。
それがわかっているから、引き留めないんだ……。
エーディスさんが泣くのをやめた私をそっと抱き締めて、頭を撫でる。
「俺も、本当は気持ちを抑えようかと思ったときもある」
「……」
「でも、君のこと好きになって、触れたくて堪らなくなって。
君が、いつかいなくなるからってなにも言わずにいるなんて耐えられなかった」
顔を上げると、微笑むエーディスさんの緑色の瞳。
「今こんなに近くにいれるだけで幸せなんだ。
……お願い。側にいて?」
私は、こくりと頷いた。
「いつか還るときまで、ずっと側にいます」
「俺は君を必ず還す。君は、それまで俺の側にいる。
……約束だね」
返事の代わりに、今度は私からキスをした。
ちょいと短いですね、すみません。
明日と明後日はお休みさせていただきます。




