リハーサル
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「だだ、ダメですっ!」
「え……ダメなの?」
「だ、ダメです……だって」
視線をそらしながらしどろもどろになる。
エーディスさんは、うっそり笑いながらのし掛かってくる。
ヤバイまた、流されてしまう。
思い切り押し退けて、起き上がる。
すごく残念そうな顔……。
「……キス、したいなぁ」
エーディスさんが物欲しそうにうるうると私を見つめている。
その目はやめてぇー!
「私の心臓が持ちません!」
えーと、エーディスさんがキス魔になりました。
どうしたらいいですか。
********
今日もまた、留守番だった私は、作業に勤しんでいた。
昨日はあの後寝てしまおうと布団に入ったは良いものの、寝ようとするとドキドキして思い出しては悶絶してしまうので、諦めた。
起き上がって作業。なので昨日はまた寝落ち。
そして朝、エーディスさんに寝込みを襲われて(おでこにチューされただけ、だけど……)、起きて、エーディスさんを寝ぼけながら見送り、うつらうつらしながら作業してたというわけである。
エーディスさんは帰ってくるなり抱きついて押し倒してくるので、さすがに私の心臓のためにやめていただく方へ持っていった。
いや、後少しでまた流されるところだったけどさぁ……。
う、エーディスさんが寂しそうに私を見つめている。
「もう、本当に集中できなくて困ってるんですよ!?」
「ごめんね?」
「……エーディスさんは、日中何も手につかなくなったりしないんですか?」
うひゃ、私ってば何を聞いちゃってるんだか!
顔がばっと赤くなる。
エーディスさんがパッと顔をほころばせてにこにこと嬉しそうに言う。
「ツムギは日中、俺のこと考えてくれてるってこと?」
ぐぐぐ……。
お、お前も何を言ってるんだよー!!!!
頭を抱える。
エーディスさんが急に恋愛脳になってるよ!
今まで恋愛?恋人?なにそれ美味しいの?みたいなノリだった癖に!なんなんだよー!
じっとりエーディスさんを見やる。
「……そうですよ」
低く呟く。そのせいで、私ってば色々生活に支障をきたし始めてますよ!良いんですか!?
それを聞いたエーディスさんがにっこりしながら私の肩にこてんと頭を寄せる。
ぽわぽわとお花が飛んできても私は驚かないぞ。
「嬉しい」
言いながら私の手を取り、さわさわとしてから指を絡める。
はあ……。
恥ずかしいんだけど、嬉しいんだよね……。
じわじわ喜びの感情がわいてくる。
ため息をついて、私もエーディスさんに寄りかかった。
つい、口を尖らせながら聞いてしまう。
「エーディスさん、何でそんなに余裕なんですか……」
「余裕? そんなことないと思うけど」
「だって……私ばっかりドキドキさせられてる気がします」
そう言うと、エーディスさんが手を放し、私の頭を彼の胸に引き寄せた。
「俺だって、すごくドキドキしてるよ」
「……」
トクトクトク、心臓の音がする。
本当だ……。私と、同じくらい速い。
「ドキドキ、してますね」
「でしょ?」
にっこり。甘い空気が漂う。うう、慣れない。
「ツムギは?」
「! だ、ダメですっ!」
私の胸に耳を寄せてくるエーディスさんを慌ててブロックする。
まだ心の準備が……!
う、後回しにするとますます言いづらくなるのはわかるんだけど、わかるんだけど!
私はその勢いですっくと立ち上がる。
「エーディスさんのせいで作業が遅れてます!」
「ご、ごめん。……何か手伝うこと、ある?」
「とにかく、おとなしくしててくださいっ!」
がーん、効果音をつけたらそんな感じになりそうなショックを受けた表情のエーディスさんを捨て置いて、私は部屋に引っ込んだのだった。
*******
さてさて、今日はいよいよリハーサル。
エーディスさんを排除することでなんとか完成させた私は、寝不足でふらつく頭を叱咤して皆に教えながら衣装の着付けや馬装をこなしていた。
頑張ってやったかいがあり、とても出来映えには満足している。
「すごいわね! 大変だったでしょう? ありがとうね」
「えへへ、まあ、なんとかできました」
カシーナさんをはじめ、皆が口々に誉めて労ってくれるので、こそばゆい。でも嬉しい。
衣装は馬も人も予選の課題曲と決勝の時は同じで、小物を少し変えるくらい。
カシーナさんだけは特別製のマントを別で用意した。
女神様役だからね。
そしていよいよリハーサル。
曲を流す。
ああ、すごい。
歩幅すら揃えて馬たちが動き回る様は圧巻としか言いようがない。
時には翔んで、高さもある華やかな演技に、私は見入った。
全体としてすごくまとまっていて、競技素人の私から見るとすごくレベルが高く思える。
曲が終わると思わず立ち上がって拍手を贈っていた。
「ここ、半歩くらいずれたほうがいいんじゃないか?」
「あそこの部分、もっとこう、大きく……」
皆は完成度を高めようと、すぐにあれこれと話をしていた。
意識高いねぇ~!
そんなこんなで、滞りなくリハーサルを済ませることができた。
ホッとした。ああ眠い。
一応、最近のことを皆に聞いてみる。
「最近は嫌がらせとか大丈夫ですか?」
「ああ、まぁ、ないとは言わないが……」
「大丈夫だよ、俺らも一応エリート騎士だし。エーディスさんもいるから滅多なことにはならないよ」
アラグさんは濁しつつも、ペルーシュさんは安心させるようにトンと胸を叩く。
ふと、向こうでリンガーさんたちと打合せしているエーディスさんを見て聞いてみる。
「エーディスさん、様子平気ですか?」
「ん? なんか調子でも悪いのか?」
「いや、そうではないんですけど、何となく?」
それぞれ顔を見合わせて口々に言う。
「エーディス副長、絶好調じゃない?」
「ご機嫌だよね」
「あんなににこやかな人だとは思ってなかった」
「ツムギが居なくて寂しいですか~って聞いたら、寂しいって言ってたけどね」
アラグさんが笑いながら教えてくれる。
エーディスさん、クールキャラ絶賛崩壊中らしい。
苦笑いで返すが、私と違って何も手につかないということはないらしい。
この差は何? ずるいや。
私の視線を感じてか、エーディスさんと目があった。
にっこり。
ばっと視線をそらす。あ、あからさま過ぎたかな……?
「……」
「ん、どうかしました?」
皆がにこやかだが生暖かい眼差しを向けてきている気がする……!
「な、なんですか? その目は……」
「いや、なんでもないよ?」
「スレンピックが終わったら打ち上げしようねー?」
「楽しみだわ~」
すごく無理やり話題を変えられた。
そして帰り。
一定の距離を保ちつつ、普通におしゃべりをして帰る。
「リハーサル、だいぶいい感じに見えましたよ!」
「ありがと。でもまあ、あれでも優勝まで行けるかはなんとも言えないかな」
「みんなアレよりレベル高いんですか?」
「まあ、決勝まではほぼ確実に行けるとは思うけど。優勝候補のチームは、うちの国と違ってスレンピックのためだけに集められたメンバーが一年みっちり練習するらしいからね」
「この国もそうすればいいのに。騎士のみなさんが仕事の合間に、だと大変ですよね?」
「たぶん、次からはうちも国の代表チームを選抜するようになるんじゃないかな? 騎士じゃなくて選手として。ガルグールが主導すると思う。他の国も、そうなってくるだろうね」
「むしろ今までそうしてこなかったのが不思議……」
「確かに……。でも、元々が騎士の能力を競い合うためのものだったからね」
そういうものかぁ。
「そういえば、モレルゾチームはともかく、モレルゾ自体ここのところ見かけてないですよね?ここ2、3日で来てたんですか?」
そもそも彼の練習風景を一度も見ていない気がする。
エーディスさんは肩をすくめた。
「あいつは家に馬場があるからね。わざわざ練習しに厩舎まで来る必要がないんじゃない?」
「なにそれ、セレブか」
あ、セレブだった。
眠たくて、ふわあと小さくあくびをする。
エーディスさんが笑みをこぼし、優しく言ってくれる。
「ツムギはほんとにお疲れ様。今日はゆっくり休みなよ?」
「そうさせてもらいます~」
まじで眠い。
簡単な食事を済ませ、沸かしてもらったお風呂に先に入ることにした。
「ふあー」
あくびが止まらん。
手元がおぼつかないなか、服を脱ぎ捨てる。
さっさと頭と身体を洗い、湯船に浸かる。
「はぁー……生き返るぅ~」
浴槽の縁に頭を載せて、ぼんやりする。
ポカポカして、うつらうつらしてしまう。
意識が遠くなる。
まぶたが重い……。
展開が読めるかもしれないが、一旦切ります。




