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因縁の相手

少し遅れちまいました……すみません。

ブクマ、評価&感想ありがとうございます(^^)

夜にも更新します!

 

 時は過ぎていく。


 エーディスさんの防壁魔法のおかげで、馬たちは無事に過ごしている。

 防壁を張るためにエーディスさんは秘蔵の魔法具を出して構築にあてていた。ルシアンさんがビックリしてたので、結構値の張るモノなのかもしれない。まあ、使う機会がなかったから、とエーディスさんは気にしてない様子だったが。


 選手たちも、より一層注意をするように心がけているのでなんとか無事にやっている。

 あとはお互いに指摘しあい、高め合うだけだ。


 そう、私の作業さえ間に合えば、すべては順調と言っても過言ではなかった。


 毎日遅くまで夜なべして、ようやく終わりが見えてきたところだ。

 最初はリビングでやっていたのだが、遅くまでやってるとエーディスさんが早く寝ろと追いたててくるので、今は自室でやっている。

 電気を付けてると起きてるのがバレるので、キャンドルの明かりで。

 このひと針ひと針の出来映えで、少しでもいい結果に繋がることを祈って……。完璧を求めすぎなのか? つい、熱中してしまって、遅くなってしまうのだ。

 思った以上に時間がかかっていることは承知している。

 昨日は寝落ちしてた……。

 でも、ペルーシュさんとかに手伝ってもらうわけにはいかない。

 ペルーシュさんも婚約かかってるし、団体演技以外にも競技に出るのでその練習もある。

 これ以上手を煩わせるわけには、ね。


 首をボキボキ鳴らしながら作業をする。

 動いている間はまだ平気なのだけど、そうじゃないときは少々うつらうつらしている。あー、他の人に迷惑だから寝てる場合じゃない。でも眠い。

 エーディスさんは朝から私の様子が気にかかるらしく、チラチラ視線を感じる……。

 今日はおとなしくしておこう。



「ツムギ、帰ろう」


 エーディスさんに声をかけられてハッとする。

 やば、一瞬意識飛んでたわ。

 エーディスさんが半眼で私を見やった。


「もしかして、夜中も作業してたの?」

「うっ……。はい」


 正直に白状すると、はあ、とため息をつかれてしまった。

 あはは、すみません。


「出来合いのものでも買って帰ろうか」

「ありがとうございます」


 王宮で働く人向けの出店のひとつに寄り、その帰り道。


「あんまり根を詰めないように言ったのになぁ」


 ふらついた私を支えてくれながらもエーディスさんが苦言を呈する。ごもっともです。


「すみません……なんか、凝りだしたら止まらなくなってしまって。他に役に立てないので、これくらいは……」

「あ、また役に立てないとか言ってる」

「だって……そうなんですもん。私はもっと頑張らないとダメです……」

「ツムギ、君は十分役に立ってるよ」

「そうでしょうか……イテッ」


 呟くと、エーディスさんがデコピンしてきた。


「役に立つって、ツムギは何をしたら役に立つと思えるの?自分が役に立ってると思うことをするのが役立つってことなの?」

「え……それは」


 黙った私の頭をぐしゃぐしゃにしながらエーディスさんは言葉を続ける。


「自分にできることを精一杯する。それが大事なんじゃないかな?

 それが結果として誰かの役に立つし、誰かの心を動かす。

 君が俺や皆のために何かしようとしてくれる気持ちだけで嬉しいし、自分も頑張らなきゃと思わせてくれる。

 君のそういうところが俺は好きだよ」


 そう言って笑い、おどけたようにほっぺをぐりぐりつねられた。

 ど、どうしよう。う、うれしいよう……。

 頬が赤いのはつねられたせいだ。そうだ。

 掌で顔を包み込まれてそっと上を向かせられる。

 思いの外、真剣そうな目が合う。……恥ずかしい。逸らすとツムギ、と名前を呼ばれる。


「役に立ちたいから頑張ること、それを否定する気はないけど、役に立ってないから自分はダメだなんて言うのは許さないよ?」

「はい……」

「今日は早く寝ること。いいね?」

「はい……」

「明日以降もだよ?」

「う……あれだけは、私の仕事なんです。私の責任として、なんとしても間に合わせたいんです。リハーサルまでなので、あと4日はできるだけやらせてもらえませんか……?」


 そう言うと、エーディスさんは私から手を放してやれやれと頭を振った。


「本当に君って、真面目だねぇ……。あとどれくらいで終わるの?」

「そうですね……2、3回徹夜すればなんとか終わるんではないでしょうか」

「……だめ」

「そこをなんとか!」

「はぁ……もう。明日から、厩務作業はなしね」

「ええ!?」

「なに言ってるの。家で作業してて良いよってこと」

「うう、すみません。わかりました」

「さ、帰るよ」


 そう言って歩き出す。

 私は、後を追って横についたところで、角から出てきたふらふら歩く女性にぶつかってしまった。

 男性にしがみつくように歩いていたので、酒酔いして介抱されているのかも。なんかお酒臭いし。

 ぶつかった相手は見た目も体型もゴージャスな美女で、介抱している男性にめっちゃ睨まれてしまった。わざとじゃないんですすみません。


「すみません」

「んー、痛いわ」

「大丈夫ですか?」

「平気よ、あなたは? ……あら、可愛い子。これからわたくしたちと遊ばない?」

「え、いや……その」


 エーディスさんが何故か身をちぢこめるようにして私に隠れつつも、早く行こうとめっちゃ腕を引っ張ってくる。

 いやいや、あなたと私の身長差じゃ隠れられないって。

 なんだろう? 知り合いかな?


 私がエーディスさんを気にしたせいか、彼女が彼に気づく。

 セクシーな唇がにいっと弧を描き、目が細まる。

 肉食系女子に狙われたエーディスさんの図だな、これは……。


「エーディスじゃなーい! 久しぶりね?」

「……」

「あら、つれないわねぇ。あなたとわたくしの仲じゃないの」

「やめろ。あんたもう既婚者だろ」


 珍しいな。エーディスさんは女性が苦手って言ってるし、自分から女性に何か話しかけたりすることもほとんどないけど、一応基本は紳士的に応対はしている。

 でも今は、あからさまに顔を歪めて話しかけるなオーラを出しまくっている。

 苦手、と言うか嫌い?

 過去に何か因縁があったのかも……。


「元恋人にたいしてその態度はないわねぇ?」

「え」


 思わず声をあげてしまった。

 この人、つまりエーディスさんの元カノ……!?


「うるさい。黙れ」

「あら、あなたわたくしにそんな態度取って良いと思っているの?口答えするなんて言い度胸ね」

「だ、大丈夫ですかゼナリア様、ソマ近衛副長を怒らせたら……」

「だあーいじょうぶよ。こいつは見た目と魔力しか取り柄のないつまんないクソ男だもの。ね、わたくしに逆らったらどうなるかよく覚えてるでしょ?」

「……」


 エーディスさんが青ざめている。昔、相当嫌な思いをしたのだろうか。

 元カノの暴言は止まらない。


「本当につまらないクズなのよ。見た目が良いから付き合ったのに全然一緒に出掛けてくれないし、仕事仕事って会えないし、スレプニールの世話とか話なんてほんと退屈。わたくしがせっかく誘っても手を出しもしない臆病者だし」



 聞いてるだけだけど、そんなにクズクズ言うほどには思えないんだけど。



「それでね、わたくしの誕生日に渡してきたのが魔法玉よ! 信じられる? 」

「魔法玉? そんなどこにでも売ってるもの寄越したのですか? こんな美しいゼナリア様に?」


 魔法玉って、私ももらったしいろんな人に請われて渡してるの見るけど、ひとりひとりその人に合うような魔法を調整して籠めてたりする、とてもそこらで売ってるものとは質が違うと思うんだけど……。

 元カノは延々とエーディスさんを扱き下ろす。


「そうよ。全く、女心が全くわからないクソ男なのエーディスは。キスだけしたけどホント下手クソだったし、別れちゃった」


 男が元カノの言葉に調子にのって揶揄するように口を出してくる。


「えー、ソマ殿って超経験豊富なんだと思ってた、へえー意外だ」

「そうなの。だから嫌になって振ったのよ」

「俺は合格でした?」

「うふふ、あれから時は経って、わたくし寛大になりましたわ」

「えー? じゃあ、今は?」

「そんなこと、言わなくてもわかるでしょお?」


 二人してくねくねと何を話してるんだかアホらしくてよくわからないけど、なんとなく察した。この人がエーディスさんを女性苦手にした人なんだ。トラウマの元凶ってやつだ。



「……大丈夫よ、エーディス。わたくしもたくさん経験を積んで大人になったの。今はね、うぶな子をちょ…教育するのにハマってるのよ。あなたも1から丁寧に教えてあげる。どうせ、まだ経験ないんでしょ? 」


 今、調教って言いかけたよね! ヤバイ!

 エーディスさんがふるふる震えている。

 これは、落ち着かせないと魔法で攻撃しかねない。

 私はエーディスさんの前に立つ。来るなら来い!

 元カノが妖艶に迫ってきた。思わず仰け反る。


「ええと……」

「あなたもおいでなさい? お姉さんが性教育してあげるわぁ」

「結構です」

「は?」

「結構ですと申し上げました」

「まあ!」

「お前馬鹿か? ゼナリア様が直々にお相手してくれるんだぞ? こんな幸運があるか」

「いえ。絶対嫌です」

「失礼なやつめ! お声がけ頂けるなんて光栄なことをぶち壊しやがって!」

「……不倫はゲスです。あと、性病うつされたくないんで」


 無表情で言うと、場が凍りついた。



「は……? 性病……?」



 5秒は黙った男がそっと、少々含みのある目で元カノを見た。おや? 思い当たることでもあったのかなぁ?

 元カノがキーッと目をつり上げる。


「な、何言ってるのよ! 病気なんて持ってないわよ!」

「検査しました?」

「け、検査?」

「ではやはり、嫌です。してても嫌ですけどね」

「こいつ!」


 男が怒って殴りかかってくるのを止めたのはエーディスさんだった。動きを止められ、顔を真っ赤にしながら殴りかかるポーズのままわなわなしている。


 エーディスさんがふーと息を吐き、大きく吸い込む。そしてギリッと元カノを睨み付けた。


「俺はそもそも、ゼナリアが大嫌いだから絶対絶対イヤだ!」


 よく言った、頑張った!

 そして同じく動きを止められた元カノはキレる。


「なによ! キスのひとつもまともにできない癖に! うざっ! だから恋人もできないんでしょ! わたくしと別れてから浮いた話ひとつないじゃない! あんたみたいなクズ、誰も相手してくれないって言った通りだわ!フン!」


 そう怒鳴ってくるが、私はエーディスさんに笑って言った。


「こんな女性と結婚までいかなくて本当に良かったですね、エーディスさん」


 エーディスさんも、落ち着いたようで笑い返してくれる。


「そうだね。本当にそう思う」

「ちょっと! 聞いてるの! このクズ!」

「おい! 無視するな!」

「で、このふたり、夫婦なんですか?」

「ううん? ゼナリアの旦那はモレルゾだよ。子どももいるはず」

「えーっ! 完全に不倫してる!」


 モレルゾ、こんな美女が奥さんなんだ。糞ビッチだけど。

 穏やかに話をしていると、殴りかかる男の像になっている男が怒鳴る。


「ふざけるな!」

「口も止めたらどーです? 周りに迷惑になっちゃいませんか?」

「うーん、一応声が漏れないように結界張ってるから大丈夫だと思う」

「そうですか。で、モレルゾは不倫について知ってるんですか?」

「さあ? 仮面夫婦らしいからね」

「モレルゾにばらしてあげたら?」


 何気なく言うと、彫像ふたりの顔色が変わる。


「ちょっと! 止めなさい!」

「そ、それだけはやめろ!」


 こんな大っぴらに密会してて、バレないと思っていたんだろうか? よくわからない。

 私はニヤリと笑って彫像に話しかける。


「このままにしておいて、モレルゾ連れてきてあげましょうか」

「そうしようか」

「ちょっと、ほんとにまずいのよ! 今回ばかりは離縁されちゃう!」

「やめて、やめてください」


 泣きそうになってる。なんなの? ほんとにただのお馬鹿さんなの? 酔っぱらいって怖い。


「ごめんなさい、それだけはやめてください。次にばれたら離婚なんです」

「出世できなくなります、やめてください、ごめんなさい」


 なんでそんなに崖っぷちなのに平気で人を怒らせたり誘ってきたり訳のわからないことを言うんだろうか。頭のネジがとんでるんじゃないか?


「そうなんじゃない?」

「あ、声に出ちゃってました?」

「うん」

「えへへ」


 照れ笑いして、ごめんなさい連呼マシーンの彫像に向き直る。


「二度とエーディスさんに関わらないでください、エーディスさんの話題を出すことも許しません」


 私はスマホを取り出し写真を撮る。


「証拠はこっちが握ってることをお忘れなく」


 それを印ろうよろしく突きつけて、エーディスさんを促しその場を後にした。

ちなみにこちらの世界、お見合いや出会いの場で親交を深め、お互いが良しとすれば婚約→交際→結婚となりますが、まあ貴族なので大体は結婚まで清いお付き合いをするのが普通です。



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