朝
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夢を見た。
エーディスさんに抱き締められて、好きだよ、と囁かれる夢。
なんだってこんな夢を見てるのか、夢って深層心理の現れって言うし、私ってば実はエーディスさんがそんなに好きだったのか……?
夢の中の私は是とも否とも答えないけど、喜びの感情は確かに感じる。
しかし良い夢だ。はあ、ポカポカ暖かく幸せな気持ちで彼の胸に頬擦りする。
夢なら何が起きても驚かないし、いままでのこともこれからのことも関係ない。
欲望の赴くままにすべすべ滑らかな感触を堪能していると、エーディスさんが身じろぎする。
私をくるんだまま緩んでいた腕に力が入り出す。
……あれ?
エーディスさんのシャツを掴んでいた指をもぞりと動かすと、真上でんん、と掠れた声がした。
「ん……?」
睡魔に負けそうな目を無理やり開けると目の前に広がるすべらかなるナイス胸筋。
デジャブ……。
「!」
デジャブじゃねぇ、昨日の記憶だ!
ブワっと蘇る記憶と、とたんに激しく動き出す心臓。
そうだよ! 酔っぱらいエーディスさんにベッドに連れ込まれて、添い寝したんだよ!
私は目をバッチリ開け、まだ寝息を立てているエーディスさんを確認。
くそう、朝から美形だ! 長い黒髪が緩く波打って、朝日で長いまつげの影が際立ってて、眠れる森の美女も霞むかもしれない美しさだよ!
そっと、枕にしていた腕から這い出す。
……腕、痺れなかっただろうか。
バクバク言ってる胸を押さえると、あれ。そういえばさらししてない……。
頭がサーッと冷える。
この見た目でわかる程度には盛り上がった胸部をエーディスさんも目撃したのではないか!?
というか、エーディスさんの方を向いてたから腕が間に入ってたはずとはいえ、密着してたんだから気づくよね!?
バレた!?
……反応が怖い。
でもまあ、ばれたからと言って何か問題があるかと言われると、単に関係が壊れないか心配なだけで……。
私は考えるのをやめてさっさと支度をすることにした……。
いや、考えるのをやめることは結論から言って無理でした。一体何回頭を抱えたことか……。
躊躇いつつもリビングを覗くと、エーディスさんは既に支度を終えていた。朝食作れなくてすみません……。
うう、気まずい……。
目が合うと、にこっと笑いかけてくれる。私、大丈夫だろうか。ひきつってないだろうか。
「お、おはようございます……」
「おはよう、……よく寝れた?」
なんでそんなことを聞くの!?
変な夢も見たからめっちゃ意識してしまう。
見た目はいつも通りに見えるエーディスさんの一挙手一投足が気になってしかたがない。
なにか言われるかな?
「え、えーと」
言い淀んでいると、エーディスさんが私をしげしげ眺めて言う。
「なんか、昨日の記憶が曖昧なところがあるんだよね……」
「え!?」
まさか、私をベッドに連れ込んだことも忘れやがったのか!?
目をむいた私の様子を見て、くすりと笑って付け足す。
「もちろん、君と一緒に寝たことは覚えてるよ。でもなんか違和感を覚えた気がするんだけど思い出せない……」
「……な、なんでしょうねぇ?あはは……」
えーと、それはもしかして?膨らんでた胸部のことかな?
実際のところはわからないが、なにも言わないってことは結局気づいてないんだ……。
エーディスさんがニブ過ぎるのか、それか自分で思っている以上に私のバストはささやかなのだろうか……。
人知れずショックを受けている私をエーディスさんがじっと見ていた。
「えと、どうしました?」
「え? あーいや、なんでもないよ」
にっこりと満面の笑みを向けられ、ドキドキしながらもこちらもとりあえず笑い返す。
あー、どうしよう本当に意識してしまっている自分が怖い。
あーもう、変な夢のせいだ。今までそんなに意識したことなかったのに。
好きになってる、のかな。
でもまだ、帰る手だてが尽きてない今。
この人を好きになってもいつか帰れることになるかもしれない。
そうなったとき、どちらかを選ばないといけないなんて辛い選択したくない。
エーディスさんが私を好きだと決まったわけでもないし、いや、好かれてるんだとは思うけど恋愛感情とは限らないし。
好きになってはいけない、と思う。
大丈夫、イケメンの異性だと思うから意識しちゃうわけで、私はここでは男、同性。エーディスさんの従者で弟分、それが私。
今まで通り接してれば良いんだ。
スレンピックでお互い忙しくなるし、正直愛だの恋だのやっている場合ではないのだ。
「ツムギ?」
決意を新たにしていると、エーディスさんが心配そうに首をかしげ、私を見つめている。
「……怒ってない?」
「うっ……」
や、やめてくれー! その棄てられた子犬のような眼差しはー!
「お、怒ってないデスヨ? どうしてデスカ?」
普段通りにしているつもりなのに、違和感バリバリの狼狽っぷりを見せつけてしまう。
顔が熱い。
エーディスさんが目が泳ぎまくっている私をじーっと見ている気がする。
お願いだから見ないでくれぇぇ……。
エーディスさんがにこやかに言う。
「ううん、怒ってないなら良いんだ」
「お、怒られると思うならなんで……」
「ん? 一緒に寝るのイヤだった?」
「ぐっ……」
そんなこと聞かれても、イヤと言えるかー!
……正直、嫌ではなかったけどさ!フンだ。
私はやけくそで首をブンブン振った。
「そう、良かった……」
なんだかしみじみ言われて、なにも言えなくなってしまった。
「エーディスさん、体調大丈夫ですか?二日酔いとか……」
無理やり話を変える。
「そうだね……少しだけ頭が痛い」
「えーっ! 大丈夫ですか?」
「大したことないよ。原因はわかってるし」
「お酒じゃないんですか?」
「ん? お酒、だよ」
なんだか含みのある言い方な気もするが、つまり二日酔いなんだろう。
この前ペルーシュさんにもらった二日酔いに効く薬を引っ張り出してきて渡す。
「しんどかったら飲んでくださいね」
「ありがとう。もう出掛けるの?」
「はい。やることいっぱいあるので!」
常備のクッキーをひとつ口に放り込み、モグモグしながら鞄を用意して荷物を詰めていく。エーディスさんは王宮で仕事である。
「……ツムギ、気を付けてね。魔法玉は肌身話さず持っててよ?」
「ん、ふぁい。……どうしたんですか急に」
「いや、そろそろ、モレルゾたちがなにかやってきそうな気がするから」
「それ、フラグってやつです……」
「なにそれ?」
「えーと、今度説明しますね」
長くなりそうだから。
エーディスさんが私の口元に付いてたらしいクッキーくずを優しく払ってくれながらも、注意喚起する。
「とにかく、うちのチームの誰かと常に行動して。モレルゾチームは信用しないこと」
「騎士の矜持にかけてくれてるから大丈夫だと思うんですけど……?」
「本人はそのつもりがなくても利用されてるかもしれないでしょ。……ジープスとかとも二人にならないようにね」
「はーい、じゃ、行ってきます」
家を出て、小走りしながら触れられた唇をさわさわと撫でる。
世話を焼いてるだけ、世話を焼いてるだけ、世話を焼いてるだけ……。落ち着け心臓。
うう、こんなんでこの先やってけるのかな……。
エーディスサイドの話も早く書きたいですねぇ。




