お迎え
そうして、いよいよ舞踏会の当日を迎えたわけだが……。
「なんでこんなときにこんな集まりしようと思ったんですか!」
「それは、こんなときだからじゃない? そうでもしないと時間かかると面倒だし……」
舞踏会会場までの廊下を小走りしながらエーディスさんに文句を垂れる。
だって、ペルーシュさんの『お迎え』を見られなかったらどうするのか!?
というか、エーディスさんはもともとエスコートする予定だったんだから、もうちょっと焦った方がいいでしょうに!
いくら都合により現地集合というよくわからない形にしてもらえたとはいえ、約束を反故にするのはいかんぞ!
そう、私たちは舞踏会開催前というこの忙しい時間に、集合をかけられていたのだ。
一番忙しそうな殿下にである。
この前殿下が来たときに、例の集まりとかなんとか言ってたのはこの事だったのか……。
そして、会はバタバタ、そわそわとした皆さんの圧力であっという間に終了。
みんな慌ただしく解散していったので、殿下の目論見は正しかったとみていいと思うけど……。
内容は、私について。
そう、すっかり忘れていたのだが、エーディスさんの従者になった時のあの集会が、先ほどもう一度行われたのである。
私が従者にふさわしくなければオーッホッホッホ、とキイナ様が高笑いをしていたあの会だ。なんだかすごく昔のことに思えるな。
で、どうなったかというと。
「大丈夫なんですか? 私が出場する訳じゃないスレンピックの結果で認めるか否か決めるなんて、無茶すぎません?」
「実際、君の意見がかなり採用されてるじゃない」
「いやいや、そうは言っても」
「俺たちが入賞できないって言いたいの?」
「ち、違いますよ! そんなこと絶対ないです!!」
本気で言ったわけではないとわかってるけど、ここは力強く否定する。
そう、今回は、私がスレンピックの団体演技で監修を務めていると半ば無理矢理こじつけられ、それによりその結果、入賞ができれば認めるということになってしまったのだ。
みんなのことは信じてるけどね? でも、なんか申し訳ないじゃん? 私の命運?まで預けられて余計なプレッシャーにならないといいんだけど。
いや、そもそもスレンピックのことは正直従者の仕事ではないんだよね?でも、押しきられた。
スレンピックに出場する主人のために働いてるから良いんだって。従者の仕事よくわからない……。
ようやく、エントランス前の広場に到着する。
続々と招待客がやって来ている。
とても華やかな光景だ。この前の夜会もすごかったけれど、やはり王宮主催は規模が違う。
着飾った男女が行き交う。これは、会場に行ったらどんな感じなのか楽しみだ。
今回の舞踏会は、スレンピック前の決起集会みたいなものらしい。国をあげてのイベントを成功させるべく、皆で力合わせてエイエイオー!的な会、というと語弊がありそうだが実態のニュアンスはそれに近いようだ。
「どこですかねぇフィリーチェ嬢……」
「いた。行こう」
エーディスさんのあとを追い、フィリーチェ嬢のもとへ。
何やらもめている。
「お待たせいたしました」
エーディスさんはもめてるっぽい現場をものともせず声をかける。フィリーチェ嬢がパッと振り返った。あら美少女がさらに美少女に……。語彙力……。
「エーディス様!」
「あら」
「エーディス? なんで君が?」
そこにいたのはグレルゾ!
あんまり近寄りたくないので、少し離れた場所から様子をうかがうことにする。
どうも、グレルゾがフィリーチェ嬢をエスコートするべくやって来たようだ。しかし、フィリーチェ嬢がエスコート相手はいるとかなんか言ったのだろう。
エーディスさんを見て目をハートマークにしているのはフィリーチェ嬢のお母様だろうか。
「エスコート相手はいますなんていうからどういうことかと思ったけど。君がフィリーチェ嬢のエスコート役なの? 何故?」
「わたくしが頼んだからですわ」
「あら! あなたたち、一体どういう関係?」
キラキラした目でエーディスさんを見つめるお母様。
フィリーチェ嬢に似て美人のお母様だ。似てるのはフィリーチェ嬢だけどさ。
そのとなりのお父様らしき人物は表情を失いつつある。
そして曖昧に微笑むエーディスさん。
フィリーチェ嬢がエーディスさんの手を取る。
「わたくし、思う方がいると、言いましたわ」
美人のお母様は、まあ!と声をあげる。
「そうは言っていたけどそれがエーディスだっていうのかい?」
グレルゾが訝しげに聞く。
問われたフィリーチェ嬢は、辺りに視線を移し……。一点を見つめ止まった。
「フィリーチェ? エーディス様とお付き合いしているというの?」
お母様が尋ねるが、虚空を見つめ心ここにあらず。返事をしないフィリーチェ嬢。
そのまま、エーディスさんの手を離した。
そして駆け出す。
「ちょっと!? 待ちなさい、フィリーチェ!」
「あ、あれは!?」
フィリーチェ嬢の視線の先、既に暗くなった夜空に黒い影。
それがだんだんと大きくなり、他の招待客もざわめきだす。
「あれは……スレプニール!?」
「なぜ、こんなところに!?」
スレプニールで来る招待客も少ないがいないことはない。ただ、だいたい広場前の馬車ロータリーとか預かり厩戸で降りてから来るので、珍しい光景のようで、注目の的である。
青毛の、大きく立派な馬体。
艶やかに靡く長い鬣。
そのスレプニールは、立ち止まって見つめるフィリーチェ嬢のもとへゆっくりと降り立った。
そう! ペルーシュさんであーる!!
ペルーシュさんの作戦は、スレプニールで迎えに行くことだったのだ!
スレプニールに認められる≒立派な騎士、と言うことでスレプニールの契約を果たし、自身で立派な騎士になったと胸を張ることができた。そして、契約したスレプニールは買うことができるので、コツコツ貯めていたお金で青毛のスレプニール、フリージャを王宮より購入し、この時を迎えたと言うことである。
フィリーチェ嬢が立ち尽くす中、下馬し、着飾ったペルーシュさんがその足元にひざまずく。
周囲がどよめきのあと、静まり返る。
スレプニールの騎士がひざまずく美少女。
とても美しい、絵になる光景なのは間違いなく、見物人の多くは感嘆のため息をこぼした。
ペルーシュさんはフィリーチェ嬢に手を伸ばす。
「フィリーチェ……約束通り、迎えに来た。
君より強い立派な騎士、というのは、君とは戦えないからはかりようがないけど、その代わり、スレプニールと契約した俺を認めてほしい。
……白馬じゃないけど、それでも俺について来てもらえないだろうか」
「……地味の癖に、派手な登場なんて、らしくないですわね」
と、言いながらもフィリーチェ嬢はその手を取る。
フィリーチェ嬢、ペルーシュさん限定で口が悪いのだろうか?
ペルーシュさんはそれでも嬉しそうに笑って、立ちあがり彼女を抱きすくめる。
「ああ、ありがとうフィリーチェ!」
「もう……待ちくたびれて違う人と婚約しそうでしたのよ?」
「ごめんね、遅くなって」
周囲からは拍手が送られているのだが、あれは完全に二人の世界に入っているな。
「フィリーチェ!」
そこへ、ご両親とグレルゾがやって来た。
ご両親はペルーシュを見つめ、誰だ?と首をかしげつつも娘に声をかける。
「ど、どういうことなの? エーディス様は?」
「そ、その男はどこの馬の骨だ? 我が侯爵家に釣り合う家柄なんだろうな?」
「お久しぶりです。閣下」
ペルーシュさんがぴしりと挨拶する。
ご両親が驚愕に口をあんぐり開けてペルーシュさんを見つめる。
「ま、まさか。ザイーデン侯爵家の?」
「ペルーシュ・ザイーデンです。お嬢さんと婚約のお許しをいただきたい」
「ちょ、ちょっと待って? 急に出てきてなんなのかい君は!」
グレルゾが混乱したようすで割り込んでくる。てめーはすっこんでろ。
「わたくしが心に決めた方はペルーシュ様ですわ! 認めてくださいませ!」
フィリーチェ嬢が大きな声をあげた。
ご両親がおろおろしながらペルーシュさん、グレルゾ、フィリーチェ嬢と視線を飛ばしている。
そして、さりげなく離脱してきたエーディスさんが私を隠すように前に立った。彼の背中越しに成り行きを見守る。
エーディスさん、完全に噛ませ犬てか繋ぎの男にされてしまったが、まあ予想がついていただけ全く気にしてない様子。と言うか元々ペルーシュさんが来るまで場を持たせようと考えていたのかも。
この場合の噛ませ犬はグレルゾか?
「そ、そんな」
「ど、どうしますあなた!?」
この3人だけが混乱の極み状態の中、また新たな刺客?が現れた。
「やあやあ、バウルム閣下。お元気そうで何より」
「む、貴殿は……」
「兄さん……」
なんと、ペルーシュさんの兄貴が登場である。
ペルーシュさんと違って派手で目立つ、と聞いてはいたけど、たしかに目立つ風貌だ。
ワイルドな金髪、大きな体躯。笑うと見える白い歯はキラリと音を立てて光りそうだ。イケメンであることは間違いない。
まあ、ペルーシュさんもタイプが違うけど地味にイケメンだよ!
芸能人は歯が命的なCMに出れそうな爽やか笑顔でお兄さんが言う。
「愚弟が騒がせてしまってすまない。
さすがに、今までさんざんご令嬢のことをほったらかしていたのに、急にそんなことを言われても直ぐには認められないお気持ち、ごもっともです」
「うんうん」
いや、グレルゾ、てめーは黙ってろ。
「ですが、フィリーチェ嬢のお気持ちは固まっておられるようす。できれば私も兄としては認めてもらいたいと思っております」
お兄さん、なんだ、いい人じゃん!
「うむむ、そうだな……」
「ダメだろう!? 大体家柄は僕の方が上なんだし、そんな地味なやつに負けるなんて許せない」
グレルゾォ~! なんかまとまりそうなときにチャチャいれてんじゃねぇー!!
というか意外とフィリーチェ嬢に執着してるなぁ。好みドンピシャなのかな?
「ですが、グレルゾ卿。貴方と決闘するわけにもいかないでしょう?」
「決闘なんて、できるわけない! 僕は騎士じゃないんだから」
「でしたら、こういたしましょう」
声をあげたのは、当事者であるフィリーチェ嬢だった。
グレルゾを睨み付けてから、ご両親に向き直る。
「彼は、ひと月後のスレンピックに出場する予定なのですわ。
そこでひとつでも入賞できたら、わたくしたちの結婚を認めてくださいませ!」
えええ!?
なんでみんなしてスレンピックにそんなプレッシャーをかけてくるの!?
そしてペルーシュさんを見たけど全然動じてない! 凄いや!
お父様がしっかりと頷く。
「……わかった。その条件、呑もう」
「ダメだったら僕と婚約ね?」
「ええ。構いませんわ。ですが、グレルゾ様」
フィリーチェ嬢が鋭くグレルゾを見やり、冷たく言い放つ。
「この方を地味だと言っていいのはわたくしだけですわよ。訂正して下さいませ!」
……そこ? そこなの?
グレルゾ、目が点。
スレプニールはお高いです。
グレルゾは紬の読み通り好みドンピシャなのと、フィリーチェ嬢はペルーシュ相手以外には超おしとやかで通っているので、その点でもグレルゾのお気に入りかつ今後も遊ぶつもりのグレルゾに都合が良いと思われています。




