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準備万端

ブクマ、評価ありがとうございます!

 フィリーチェ嬢は、令嬢らしからぬスピードで駆けていく。

 しかしこちとら、中高運動部の脚力舐めんな!


 と、走るが、あっという間に後ろにいたはずのペルーシュさんに抜かされた。

 何その速さ!?人間離れしてないか?


 エーディスさんはというと、つかず離れずでペルーシュさんに抜かされていく。

 任せるつもりらしい。


「フィリーチェ!」


 走りながら声をかけ、あっという間に追いついたフィリーチェ嬢の腕を掴むペルーシュさん。


 フィリーチェ嬢が漸く、ペルーシュさんと目を合わせた!


 睨みつけられているけど。


「フィリーチェ……」

「放してくださる?」


 つっけんどんに言い放たれ、ペルーシュさんが少し怯むが、グッと唇を噛み締めてフィリーチェ嬢を見つめる。


「嫌だ、放さない」

「なにを……」

「俺は決めたんだ。君が本気で嫌がらない限り、君を放さないし、君のことを諦めないって!」


 ペルーシュさんが、掴んだ腕をそっと引き寄せる。

 あら、ペルーシュさんてば積極的……!

 そのままハグをする二人。

 フィリーチェ嬢はペルーシュさんの腕の中で暫く呆然としていたが、我に返るとその腕から離れ、うつむく。

 ペルーシュさんはフィリーチェ嬢の両肩に手を置き、彼女をじっと見つめ真剣な眼差しで語りかけた。


「俺を信じてくれ、フィリーチェ」


 フィリーチェ嬢はうつむいたまま、小さくつぶやく。


「……あなたの取り柄なんて、地味に誠実なところしかありませんもの」

「ありがとうフィリーチェ。必ず迎えに行くから」

「……。わたくしだって、いつまでも待てると思わないでくださいまし」


 フィリーチェ嬢は、それだけ言うと、ふいと背をむけて歩み去った。


「うん、ごめん……」



 ペルーシュさんはただ、そう言って見送った。

 ……私は弁明しなくて良かったのだろうか?浮気じゃないからね。




「ペルーシュ、ツムギは?」


 エーディスさんがペルーシュさんに尋ねる。おや?まさか気づいてない?

 なんとも言えない笑みを貼り付けたペルーシュさんが私を見やり、その視線を追ってきたエーディスさんと目が合う。

 驚愕に見開かれた目。

 とりあえず、くるりとターンしてみせた。


「どうですか?似合います?」

「えっ、え?どういうこと?」

「ちょっと、男女ペアじゃないと入れないアクセサリーショップに付き合ってもらったんですよ、そこは男同士は入れない店らしくて」


 ペルーシュさんが早口で説明する。

 エーディスさん、絶句。


「えーとフィリーチェにプレゼントをしたくてですね、そのお店の話を聞いたときに入れないならツじゃあ女装するってツムギが言い出して……」

「バッチリ入れていい買い物できましたよ!」


「……」


 エーディスさんがバグった。目を丸くして私を頭のてっぺんからつま先まで何度も往復して眺めている。

 私は心配になってエーディスさんを覗き込む。


「エーディスさん?」


 エーディスさんが顔を真っ赤にして飛びずさった。

 おう、すごい反応だぜ。

 ……ここまであからさまだとからかいたくなるな。


「どうですか?可愛いですか?」


 にっこり微笑み、スカートの裾を掴んで首を傾げる。

 ペルーシュさんもオマケで赤くなった。君たちチョロすぎない?



「か、可愛い、可愛いからもうやめてくれ」

「あはは、はーい」

「……その格好、どうしたんだ?」

「服はカシーナさんに借りました。つけ毛はペルーシュさんのお家の力でゲットだぜ!です」

「そ、そう……もう帰る?」

「いんや、まだミッションが残ってるので。ね?ペルーシュさん」

「あ、ああ……」

「そ、そう。じゃあ俺は先に帰るから」


 エーディスさん動揺しまくりで帰っていった。

 ……これは、女装でこんなだと、ほんとに女だとわかったらずっと挙動不審になってしまうのではないか?

 うーむ、まだ明かすのには勇気がいるなぁ……。




 そして、今日のラストミッション、ペルーシュさんの散髪。

 ペルーシュさんの魔法でエアーケープをつけてもらい、いざ、尋常に参る。


 まずは髪を少し濡らして、ゴムでいくつかにまとめておく。

 今、背中まである髪は首上まで切る予定。


「だ、大丈夫?」

「大丈夫……です。なんとなくそれっぽくする位はできると思います。大失敗はしないようにだけ気をつけますね!」

「え、ちょっと不安……」

「うふふー」


 チョキンチョキンとまずはざっくり切って、おかっぱウケる……

 いや、ペルーシュさんも地味にイケメンだからな。やっぱり育ちがいいからなのか?


 少し髪の内側をすいて、軽くしよう。

 段も入れてみて〜。

 前髪、重要。


「うんうん、なかなかいい感じですよ」


 あとは仕上げである。細かく調整していこう。


「できたー!」


 完成だ。ちょっとやっちまった箇所はないとは言わないが、見た目はそれほどおかしくないだろう。

 伸ばしっぱなしの以前から見たら爽やかさが当社比250%だ!


「ん?できたの?」


 切られた髪をせっせと魔法で回収していたペルーシュさんが鏡をのぞき込む。


「おお、思ってたより普通……、普通にいい感じ」


 チョキチョキとハサミを鳴らし笑顔で迫ると、いい感じとお褒めの言葉を頂いたよ!

 言わせた?んん?なんのことかな。


「いいですか、当日は眼鏡なしですよ!侯爵家の使用人の皆さんによくよくかっこよくしてもらってくださいね!」

「わ、わかった」

「プレゼント忘れちゃだめですよ!」

「それはもちろん」

「で、アレで行くんですよね?」

「そう。アレの準備も完璧」

「よし。それじゃ、当日は頑張ってくださいね!」

「おう!」


 拳をぶつけ合い、頷きあう。


 そして、エーディスさんよりずっと容量は少ないが、実は空間魔法が使えるペルーシュさんに私が着てた服を出してもらい、トイレで着替える。


 そうして、その足でカシーナさんに服を返し、帰宅した。

 ちなみにカシーナさんに何を買ったか聞いたが恥ずかしがって教えてくれなかった。チェッ。



「ただ今帰りましたー!」


「お、かえりー」


 リビングに居たエーディスさんが、私の顔を窺うようにちらりと視線をよこす。

 私が元に戻っていることを確認し、ホッとしたようななんとも言えない表情で息を吐く。

 私はその側に近寄り、小箱を手渡した。


「はい、お土産ですよ!」

「?」

「いつもお世話になってるお礼です。私とお揃いにしちゃいましたけど良かったらもらってください」

「お揃い……?」


 エーディスさんを促し箱を開けてもらう。


「スレプニール……」


「よかったらつけてくださいね!私もほら、ここに」


 早速つけている襟元を見せると、それをじっとみつめ、エーディスさんはふわりと笑った。


「ありがとう。……目の色が違うんだね?」

「あ、はい。エーディスさんと、シオンの目の色を意識して選んだんですよ!」


 言うと、小首を傾げた。


「ああ、そっちか。俺のやつは君の目の色なのかと思った」

「あ、そうか確かに」


 シオンの目は一般的な黒っぽい茶色で、よく考えたら私と同じだった。

 エーディスさんはからかうような響きで私に言った。


「恋人同士だとお互いの瞳の色のものを贈り合う風習があるんだよ。付けてったら今度こそ誤解されちゃうかもね」

「えっ、あー!それでペルーシュさんがニマニマしてたのか……」


 思い出して大声を上げる私にくすりと笑って、大切そうに箱にしまう。


「ありがとう。大切にする。誰かに言われたらシオンだって弁解しておくよ」

「あはは……私も、何かの時だけ付けるようにしようかな……」


 私弁解できないじゃん。間違いなく綺麗なエーディスさんの目の色だもん。

 でも普段からつけてたらすぐ汚れちゃいそうだから、その方がいいかも。

 私も外して、箱に仕舞った。

ペルーシュは器用です。


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