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秘密は秘密のままで

ブクマ、評価ありがとうございます。

「リンガー、ちょっと相談があるんだけど」

「おう?お前が相談事なんて珍しいな。何でも聞いてくれよ」

「ありがとう。ここの部分のステップなんだけど……」


 次の日、エーディスさんが早速相談を持ちかけていた。

 みんなが集まってくる。


「あー、あれね。たしかに、今まで跳ぶ方とかやってると、混乱するかもな」

「少し前の段階からいっちょやってみるか」

「ごめん、みんなの邪魔しちゃ悪いかと思って今まで聞けなかった」


 エーディスさんがポツリと言うと、ルシアンさんがエーディスさんの背中を叩く。


「気にするな、俺たちはチームで戦うんだぞ。……話してくれてありがとな」

「うん、ありがとう」


 クリオロさんも通りすがりに背中を叩いていく。


「お前が困ってるのはなんとなくわかってたんだけどな、どう困ってんだかわからなくて声かけづらかったんだぜ?」

「ははは、ごめん。これからはすぐに聞くようにする」

「エーディス副長もつまづくことあるんですねぇ~」

「大丈夫ですよ!まだ時間はありますし」

「あたしもそこ、まだちょっと自信ないので、教えてほしいです!」

「おう、せっかくだからみんなで確認するか」

「はい!よろしくお願いします」


 みんながわいわい言いながら騎乗し、それに続いて馬場を歩きだしたエーディスさんが私を見てなにかを言う。

 ありがと、かな?



 あれこれやり方やコツや意見をだしあいながら練習する。

 よかった、シオンも少しずつ理解が進んでるように見える。

 周りの馬から学べることもあるのかもしれないな。


 一気にできるようになるのは難しいけど、ひとつひとつ階段を上るように小さなことをできるようにしていけば、いつかは高みにたどり着ける。

 段を上れなくなったら誰かに助けてもらえばいいのだ。


 チームって良いね。

 さて、私も色々と忙しいから、早く作業を終わらせよう!





 そしてまた、夜はシオンと練習すると言うエーディスさん。

 私の髪をぐしゃぐしゃとかき回し、無理はしないよ、と笑うので、その言葉を信じることにする。



「やあ、こんばんは」

「あ、こんばんは!エーディスさんならシオンと特訓中です。今日はそんなにかからずに戻ってくるとは思いますが」

「そう?」


 殿下がふらりと現れた。ソファに優雅に腰掛けるが、ちょっとお疲れの様子。


「なんだかお疲れですね?」

「そうだね、次の舞踏会の準備とか立て込んでいて。ちょっと休憩しに来たよ」


 そう言っていたずらっぽく笑う。

 私は殿下に少し甘くしたホットミルクとお茶菓子を出し、促されて向かいに座った。


「ああ、ありがとう。君の方もスレンピックの準備、大変みたいだね?」

「そうですね……でも、みんな助けてくれるので」

「うん、上手くやってくれてるようで何よりだよ」

「おかげさまです」


 そう言ったところで、殿下がにんまり私に目線をむけてくる。

 そして、立ち上がったと思ったら私の隣にすとんと腰掛け、囁く。


「ね、エーディスと進展したんだって?」

「へ?進展?」

「もう、照れないで教えてよ。キスくらいしたの?」

「ブフォ!な、何を……!?」


 殿下にミルクをぶちまけるところだった、一体何を言い出すんだ。

 殿下はニコニコ嬉しそうに話している。冗談とも本気ともつかない。


「いやあ、最近エーディスと新しい従者はデキてるらしいっていう噂がけっこう流れててね?どうもいつかの夜会で親密そうに早退けしてたっていうじゃない。

 これは、ついにエーディスにも春が来たのかなと」

「なにもない、いたって普通の関係ですよ……強いて言えば家族的に仲良くはなったと思いますが。この前の夜会はちょっとトラブったのを助けてもらっただけです」


 誓って、おかしな関係ではない。エーディスさんも弟ができたみたいだって言ってたし。

 てか殿下も、意外と男性同士とか気にしない感じなのね、キイナ様の影響かなぁ。

 と、思ったら次の一言。


「そう?でもさすがにもうエーディスも知っているんでしょ?」

「へ?何を」

「君が女の子だってこと」



 は?


 え?



「……え?」

「あ、まだなのか」

「な、何を……」

「えへ、実は知っていたんだ」


 えへ、じゃないよぉー!!

 私は絶句するしかなかった。

 どうすれば?否定する?それとも、逃げる?しらばっくれる?

 頭の中がぐるぐる状態で、何も言えず口をパクパクさせる。

 殿下が困ったように首をかしげる。


「そんなこの世の終わりみたいな顔されると、困るな……」

「だって、え、そんな」

「大丈夫だよ、誰かに言ったりはしていないから」

「う、その……すみません。でも、なんで」

「従者の契約の時にあれこれ調べさせてもらった。ごめんね、一応、必要だったから。

 でもこの件はゼクトと私とキイナしか知らないよ、エーディスが気づいているのではなければね」


 ちょっとぉ!けっこう前からじゃねーかい……。

 エーディスさん、もしかして気づいてたりするのかな?

 いや、そんなそぶりないし、気づいてたら言ってきてもいいはず。


「……たぶん、気づいてないと思います」

「あいつも鈍いなぁ、一緒に暮らしていて気づかないなんて」


 固定観念というのはすごいよねぇ、としみじみ呟く。


「私も言われるまで疑いもしなかったからね。でも、言われると女の子にしか見えなくなるんだよねぇ……」


「ていうか、いいんですか?」


 一応、ここでの保護者役の一人としては独り暮らしの独身男性のもとに妙齢の女性を送り込んでいたわけで……え?むしろくっつかせるつもりで?そんなバナナ……

 ちょっと、訳がわからなくなってきた。


「ここに住むことが決まったときはまだ男の子だと思ってたからさ。ごめんね。でもま、いくらエーディスが欲求不満でも、君の同意もなく手は出さないだろうから様子を見ようと思って」


 よ、欲求不満って……。

 半眼になる私に、爽やかにクスクス笑いながら殿下は言う。

 あーこれは、からかわれているな。間違いなく面白がってる。


「別に、お互い同意があればそういう関係になってもらっても大丈夫だよ?エーディスのとこは婚前交際も別にうるさくないだろうし」

「いやいや、そんな。エーディスさんは私のこと弟みたいに思って良くしてくれてるだけですってば」

「そう?」

「そうですよ!」


 完全にからかいモードの楽しそうな殿下。

 私らがなにもないことに残念そうなポーズを見せつつも、声に本気さはない。

 ふと、気になって聞いてみる。


「エーディスさんに、伝えた方がいいんでしょうか……?」

「言いたくなったら言えばいいと思うよ。

 ……ねえ、どうして女の子だってこと隠してたのか、聞いてもいい?」


 笑顔を引っ込め、眼差しに真剣さが入る殿下。

 私はついと視線を逸らし、少しためらう。


 異界の女は災厄を産む。

 この言葉が、長いこと心のなかにつっかえていた。


 今のところ、私がいて災厄らしいことがあったとか起こりそうだという気配はない。

 だからといって、まだまだこの世界に疎い私が知らないことがあるかもしれない。

 でも、殿下は私が女だと知っててもなにもしなかった。

 それは、そんなことは迷信だっていうことなのだろうか。

 何て言ったらいいのか、言ってしまって藪蛇にならないかな……。


 ここに来てから締め付けられ続けているこの言葉を呟く。


「異界の女は、災厄を産む……って、言われたんです」


 殿下を見るのが怖くて、下を向き小声で話す。


「この世界は、魔力がない女は役に立たない、とも言われました。その上、そんなことを言われたので、もし女だとバレたら、殺されると思いました」

「そんなことを……」

「おまけに、異世界人の体液は若返りに効くとかで、搾れるだけ搾り取られて殺されるんじゃないかって、私、本気で思ってて……」

「大丈夫、大丈夫」


 殿下が優しい声で言いながら私を覗き込んだ。

 頭をそっと撫でてくれる。


「ずっと不安だったんだね。でもそれ、迷信だから。心配要らない」

「ほんと、ですか?」

「本当だよ。その話しは、聞いたことはある。異界の女というのは、要するに女神アトラのことだからね」

「え……あの、女神アトラですか?」

「そう。女神アトラは異界から来たと言われているのは知っている?彼女を巡って争いが起きたことを、他の神を奉る信仰では、女神アトラは災厄を起こした邪神という所もある。

 他にも、彼女の逸話で瀕死の者に自らの血を捧げ祈ったら死にかける前より元気になったみたいな話しもあって、それに尾ひれがついたのではないかな」

「そ、そうだったんですか……」

「少なくとも我が国では女神アトラはきちんとした女神様だよ」

「そうですか……よ、良かった……」


 安心したら、泣けてきた。

 思ってたより気にしてたんだな、この話し……。

 ボロっと零れた涙を慌てて拭う。勢い余って、ちょっとヒリヒリした頬に、殿下が手を伸ばして、そっと触れる。


「そんなにごしごし擦ったらダメだよ」

「す、すみません、ついホッとして……」


「……ツムギ?」


 声がしてハッと振り向くと、エーディスさんが目を見開いてこちらを見つめていた。

 あれ、あんまりよくないところを見られた?


 !


 気づいたらまた、瞬間移動してきたエーディスさんの腕に引き寄せられている。肩を抱かれ、見上げると殿下に鋭い視線を送っているエーディスさん。

 半笑いの殿下がどうしたもんかな、と私に肩をすくめて見せた。


「ガルグール、ツムギに何をした?」

「な、なにもしてないですしなにも言われてないですよ!」


 私が弁解するも、顎をくいっと持ち上げて目線を合わせられ、そっと目元を撫でられる。


「嘘。泣いてる」

「ほんとですって」

「そんな心配しないで。ちょっと誤解を解いてあげただけだよ」

「そ、そうですよ」

「どんな話をしたの?」

「えーと、それは……」


 目が泳ぐ。エーディスさんに、私は女だと話さないとこの話しができない。

 でも、言ってしまって大丈夫だろうか?

 女性が苦手って、よく言ってるし、間違いなく、今までのような関係じゃいられなくなる……。

 そっと、殿下に視線を送り助けを求めてみるが、殿下は自分で言って、というように小さく首を振った。


「あー、内緒です!たいした話じゃないです!」


 結局、私はまだ言えなかった。

 エーディスさんに拒絶されたら……と思うと、今は言わなくてもいいんじゃないかと思ってしまう。

 そうして、後回しにする。


 いつかは、話さないといけないだろう。

 でも今は……。


 エーディスさんが、不満そうに鼻を鳴らす。


「たいした話じゃないなら言ってくれてもいいと思うんだけど?」

「なんでもそうやって詮索しないの。秘密がある方が人は面白いんだから。ね?」

「……」


 殿下がよくわからないフォローの言葉を言って、強引に話を変える。


「そうそう、舞踏会の開始前に例の話し合いがあるから、よろしくね。じゃあ、私はそろそろ仕事に戻ろうかな」

「……わかった」


 いまだに不満そうなエーディスさん。

 そんな彼に苦笑しながら殿下はヒラヒラ手を振りつつもそそくさ帰っていった。

 それを玄関まで見送って、振り返ろうとするとエーディスさんに後ろから抱きつかれる。


「本当に、なにも言われてない?」

「もちろんですよ!」

「……なら、良いけど」


 ぎゅう、と腕に力を込められて、正直、少し狼狽した。


 ゛お互い同意があればそういう関係になってもらっても大丈夫だよ?゛

 さっきの殿下のジョークが頭の中で周りだす。

 顔が赤くなってる気がするけど、後ろにいるエーディスさんにばれなければ、まあいっか……

契約魔法では、マルネイトに変な魔法かけられてないかとかついでに調べられちゃっておりました。

キイナが知ってるのはガルグールが話したからです。

しかし3人とも、一応口は固いのです。

エーディスに話さないのは様子見もあるしツムギの出方を伺ってたのもありますが、単に面白いからという理由も……。(オイ)


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