逃避行
漸く……
メニオルの悶絶する声を背に、走って逃げる。
後ろから、奴隷が逃げた!と怒号が響く。
私は洋館から森に逃げ込んだ。
外はもう夜のようだった。
「どこに行った!」
「追え!森の中だ!」
メニオルの従者なのか、追手の気配を感じつつ、森を抜けていく。
辺りは薄暗い。
音をたてないよう静かに歩く。
たまに木立の間から差し込む月明かりで
不思議な生き物を見かける。
二股の尻尾のとかげ、尻尾の長いウサギ。
この世界はあまりあっちの世界と変わりがないようだけど、動物たちには若干の違いがあるようだ。
野犬的な狼的な捕食者には運良く出会わず、さ迷うことしばらく。
いろんなところに服を引っかけてボロボロにしながら漸く集落にたどりつく。
村外れのようだ。
小屋がある。
人の気配はない。
先程から雨がぱらつき出したので、悪いとはわかっていたけど忍び込むことにした。
中には鱗のあるウシっぽい家畜が飼われていた。
さっきのヤギ擬きとタイプは似ている。
目付きは穏やかそうだ。
そっと撫でても怒らない。可愛い。
藁が敷いてあり、休むにはちょうどよさそうだ。
つかの間の休息をとることにする。
「雨がやんだら、出てくから、ごめんね」
牛?に断って、目を閉じた。
「※※~」
バチッと目を開けると、小屋の扉を開けた女性と目があった。
「※※、※?」
「あ、えーっと……」
「※、※※※?…※※」
「あれ、また通じないかも?
私の言葉わかりますか?」
「※※…」
どうしよう。逃げた方がいいのか。
言葉が通じないし、どうしよう。
「※※」
にっこり笑う女性に腕を引かれる。
どうしよう。
外にメニオルが追いかけてきてたらまずいよね……。
「※※※※」
しかし、見つかってしまったし、とりあえずついていくしかないか……。
とりあえず連れていかれる。
雨はやみ、太陽はすでに上まで昇っている。
遠くの方で、走る足音が複数聞こえる。
もしかしなくても、追っ手じゃなかろうか。
不安になるが、案内された場所は歩いて1分もかからない位の近くだった。
お世辞にも立派とは言えない家だ。
女性は水と布を貸してくれ、顔の汚れを落とすことができた。
頭を撫でられる。
「ありがとう、ございます」
思わず涙が出るが、無理矢理ぬぐってお礼を言った。
通じないと思うけど。
にこやかにスープを出される。
美味しい。
この人はやさしい人だな。
スープはコンソメ風で美味しい。
私が追われていることを分かっているのだろうか?
このままここにいたら迷惑じゃないだろうか?
どうにかして言葉を理解する方法があるといいんだけど……。
安心させるように女性はにこにこと笑いながら、出掛けていった。
しばらくはここに隠れていてもいいのだろうか……。
もう、体があまり言うことを聞かない。
どこかで捻ったか、足首が腫れて動かないし、手はトゲに当たって切り傷だらけ。
こういうときに魔法でちゃちゃっと治せればいいのに。
辺りを見回す。
この家はお世辞にも立派ではない。
でも、先ほど料理の様子を見ていたが、火はやはり魔法で着けているようだ。
水道管も、やはり魔法で水を出すらしい。
魔法がないと生きていくのは難儀しそうだ……。
「※※※!」
「※、※※」
外が騒がしくなってきた。
と思ってたら、ドアが荒々しく開かれる。
そこにはむきむきオネエ。
メニオル!
「※※※!※※、※!」
怒りの形相で、私に歩み寄り胸ぐらを捕まれる。
すごい剣幕で怒鳴られるが、もう何いってんだか全くわからない。
その背後では、お金を受け取り、にんまりしている女性。
私を売ったんだ。
そう思うと、ザッと血の気が引いて目の前が暗くなる。
ショックでなにも言えず、私はメニオルの部下に引きずられるまま、家を出ることになった。
女性が私を見て、にこっとわらって頷く。
お礼のつもり?
馬車に詰め込まれる。
縛られ転がされ、そして馬車にメニオルも乗り込み、馬車はさっさと出発。
もう、助けはこない。
これから、こいつに、搾り取られるんだ。
その間に女とばれたらどうなるんだろう?
体液は若返りに効くっていうから、干からびない程度に絞られるのは同じかもね。
メニオルが女に興味がなければ部下たちの慰みものにでもなるのかもしれない。
そうならあの男の嫁にでもなってた方が幸せだったかな……。
なんでこんなことになったんだろう。
この世界、全く優しくない。
最悪。
帰りたい。
泣きたい。
帰りたい……。
「※※!※※※※、※!」
「ぐ、……げほっ、べほっ!!」
メニオルは超おかんむりで、ぶつくさ言ったあげくおもいっきり蹴られる。
スープを戻してしまう。
「※※※!」
「う、ぐ……」
メニオルの部下に髪を捕まれ持ち上げられる。
「※※~」
怪しい丸薬を見せびらかされる。
まさか、飲ませるつもりか……。
せめてもの抵抗で、唇を噛みしめ、メニオルを睨み付ける。
「※!※※」
メニオルがもう一度蹴ろうと足を振り上げる。
衝撃に備えて身を固めて目をつぶるが、
予想外の衝撃が襲う。
馬車が急停止したようだ。メニオルがバランスを維持できずに転げていく。
私の髪を掴んでいた部下も転げる。
私ももちろん投げ出されて転がる。
「※※※、※※※※!」
揺れが収まるとそこへ、騎士のような出で立ちの男たちがどんどん乗り込み、乱闘騒ぎになった。
剣と魔法の世界をこれでもかと体験できるとはね。
おかしいよね、あはは!
……笑うしかないでしょ。
「※※」「※!」「※」「※※※!」
「※!!」「※※!」「※※!」
私は乱闘に巻き込まれ頭をうち気絶した。
スープを出した女はメニオルにも騎士にも情報提供して二重に金銭を受け取っています。
ちゃっかりものなのでどこか遠くにでも引っ越ししてのんびり暮らすことでしょう。