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ペルーシュの憂鬱

 てっきり呆れらてしまったかと思ったが、フィリーチェ嬢はそのあともたま〜にやって来た。

 さすがに強引であったと反省はしてくれたようで、それついても謝罪があった。


「あのような行為はもういたしませんので、どうかお友だちから……」


 それ以来はぐいぐいボディタッチすることはなくなった。


 エーディスさんはエーディスさんで、私に言われたことを気にしているのか無下にはせず、紳士的な態度で交流を続けている。

 といっても、ヘタレっぷりは相変わらずのようで、進展するようすがない……。

 なんというか、フィリーチェ嬢も、たまーに上の空だったり、最初あんだけグイグイだったのにどーした!?と問い詰めたくなるときもある。


 まぁ、私だって彼氏いない歴≒年齢だし、人に偉そうに言えるほど恋愛経験があるわけではなかったりする……。 



 今エーディスさんはフィリーチェ嬢と逢い引き中(いや、ただおしゃべりしてるだけだけど)で不在。今日は私は作業中で、気がついたら居なかった。

 いつものお部屋のそばを通りがかりに何度も覗いていたら、カシーナさんに笑われた。


「そんなに気になる?」

「気になりますよ!」

「ま、あなたにとってはもしかしたら将来主人の奥さんになるかもしれない方だもんね。気になるのも当然か」

「いや、それもあるんですけど、エーディスさんがヘタレなので心配で……」

「そ、そう。……そんなこと言えるのあなたくらいよ?」


 とか言いながらも見守る。


 フィリーチェ嬢が紅茶に手を伸ばす。

 ほっそりとした指、きれいに伸ばされた爪。

 ふと自分の手を見る。

 荒れた指先に骨太の関節の目立つ指。指肉もついてるしどう見てもほっそりではない。

 エーディスさんにエスコートされていたときのことを思い出す。

 大きな手のひらに載せられる白魚のような手。似合うよね……。

 ちょっと羨ましい。


「ねえ……」

「ヒェッ」


 突然声をかけられぎょっとして振り向くと、最近妙に覇気のないペルーシュさんだった。


「ツムギ……。ちょっと、相談したいことが」

「? はい、なんでしょう」

「ちょっと場所を変えようか……」


 元気がない。飲み会のとき以外は比較的大人しく、もくもくと練習に打ち込んでいるので、普段からテンションの高いタイプではないのだが、それにしても元気がないのだ。

 今日も気もそぞろ、という感じで、ルシアンさんに集中しろとデコピンをされていた。

 なにか悩みがあるらしい。それを伝えようとしてくれてるのだろうか。心して聞かねばなるまい。





「え!? フィリーチェ嬢と幼馴染なんですかペルーシュさん!」

「うん、まぁ……」

「え……ペルーシュさんて実は良いところの令息様だったんですか……?」


 私がいうと、彼はがっくりと肩を落とす。


「俺は一応ザイーデン侯爵家の次男坊です……」

「しらなかった……」

「いや、いいんだよ……俺は地味だし……俺はどうせ侯爵家のオーラなんかないし……兄貴と比べてやっぱ地味だし……ていうか地味だし……」

「あああ、ペルーシュさんそんなに落ち込まないでぇ~! 私ホラ、ここに来てまだ半年も経ってないからこの国のことは詳しくなくて」


 どよんどよんと落ち込むペルーシュさんを慌てて励ます。


「そ、それでもしや、ペルーシュさん、フィリーチェ嬢が」

「好き……なんだ……」


 落ち込んでぼそぼそとはしているものの、ハッキリとフィリーチェ嬢への想いを口にするペルーシュさん。

 最近元気がないわけがよくわかった。


「つまり、フィリーチェ嬢がエーディスさんに最近ご執心だから、気が気ではない、と。そういうことですね」

「う、うん。……でも俺なんかがエーディス副長に敵うわけないよね……」


 どよよよよん。

 空気が、重い……。


「いやいやわかりませんよ! 諦めちゃだめです!」

「諦めたくはないけど……」

「今からでもアタックしてみればいいじゃないですか」

「きっと地味な俺のことなんか覚えてないよ……」

「へ……? ちなみに、最後にお会いできたのはいつ……?」

「うーん、騎士学校に入る前だから、6年くらい前かな」

「ろろろろくねんっすか。……ちなみにその間、手紙などのやり取りは……」

「最近までしてなかった。ここのところ何度か手紙は書いたんだけど、恥ずかしくてさ……未だに自分の名前を書けずに出してるんだ……」


 ん……?


「あのぉ、ちなみにどんな内容を……」

「もうすぐ迎えに行くよ、と。あとはフィリーチェを見かけたときの服装を褒めたりとか」


 おおお……! ストーカー野郎はてめーかぁ!

 思わず頭を抱える。


「え……? やっぱりまずかった?」

「まずいです! フィリーチェ嬢、ストーカーと思って怯えてますよ!」

「ストーカー?」

「監視されてて怖いって言ってましたよ!」

「……!!」


 ペルーシュさんがムンクの叫び状態になって固まる。

 なにをしてるんだよぉ……!


「ところでペルーシュさん、迎えに行く、とは……?」

「うう……。6年前、騎士学校に入る前に約束したんだよ。立派な騎士になって迎えに行くって」

「結婚のお約束的なことをしたわけですか」

「うん。フィリーチェは昔から可愛かったから、約束しておかないと誰かに取られると思って」


 意外と行動的というか、告白する勇気があるのになぜ名前を書かないのだ……!


「そ、その時フィリーチェ嬢はなんと?」


 ここが肝要である。フィリーチェ嬢がそんな約束した覚えがないとか、結婚とまで思ってないとか、ペルーシュさんの妄想とか……おっと、失礼……。


「嬉しかったからよく覚えてるよ。せいぜい頑張りなさい。わたくしが学園を卒業する前までにはね!と言ってた」

「え……」


 なんかキャラちがくね?フィリーチェ嬢みたいな令嬢なら、いつまでもお待ち申し上げておりまするぅ〜とかそういう感じじゃね?っていうかせいぜい頑張りなさいってそれ嬉しいの?


「えーっと、もう少し詳しく二人の話を聞かせてもらえますかね……」


 ペルーシュさんとフィリーチェ嬢、ふたりの話をじっくり聞かせてもらうことにした。

地味に地味地味言ってますが地味に気にさわったらすみません。

次回はもっと地味地味言わせます。

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