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騎士の矜持を思い出す

ブクマ、評価ありがとうございます。

 エーディスさんは練習に戻っていた。

 絡みに行ったクリオロさんをすげなくあしらい、練習に打ち込んでいる。


 私はというと作業の続きをアラグさん、カシーナさんと済ませていた。


「そういえばこの間のツムギの喝のおかげか、嫌がらせが減ったな」

「そうね、思えば確かに楽になったかも」

「へ?嫌がらせなんてされてました?」


 私が言うと、二人が呆れ顔でこっちを見る。


「もしかして気づいてなかったの!?」

「色々とあっただろ?馬場が妙にボコボコだったり、ボロが埋まってたり、無口が違うところにあったり……」

「部屋のプレートが入れ替わってたり、扉が半分外されてたり……」

「え、あはは、全部そういうもんだと思ってたし、誰かがたまたま間違えただけかと……」


 そんなみみっちい嫌がらせを繰り返されているなんてまったく浮かばなかったぞ。

 カシーナさんがケラケラと笑った。


「おめでたいわねぇ。まあ、魔法ですぐどうにかなることばっかりだったから良いんだけど」

「ですねー」


 カシーナさんとアラグさんが顔を見合わせて頷きあっている。

 全くこの二人も最近妙に仲がいいんだから……。


 二人と別れ、道具を片付けに行く。


「できません……」


 何やら声がして、ふとそちらを見やる。

 おや、あれは……。

 モレルゾの取り巻きだ。

 モレルゾチームの騎士たちが集まっていて、モレルゾの取り巻きが何かを指示しているようだ。

 気になってそっと近づく。


「できませんとはどういうつもりだ!」

「……俺たちは騎士です!そんなくだらない嫌がらせや妨害工作してるくらいならたくさん練習して、正々堂々戦おうと決めたんです!」

「はあ?」


 アイツら、あの説教で目が覚めたのか……。

 なんでもっと早く目が覚めなかったのかまったく不可思議である。

 まあ、何にせよ喜ばしいことだ。


「お前ら、俺の言うことが聞けないのか?俺の機嫌を損ねれば、モレルゾ様が黙っていないぞ?」

「……それでも、です」


 よく言った!

 モレルゾの取り巻きが発言した騎士を睨めつける。


「おまえ、じゃあチームから外れてもらおうか」

「……!」

「スレンピックには今年は出られないな。ああ残念だ。

 で、お前たちは出たくないのかぁ?」


 騎士たちが青くなったり赤くなったりして、動揺している。

 私はふつふつと怒りを覚える。


「それでも、できません!!!」


 大きな声を張り上げる騎士。頑張れ!偉いぞ!


「例え辞めさせられたとしても、これ以上自分の騎士としての矜持を捨てることはできません!」

「あーあー!じゃあ全員解雇だな!モレルゾ様にお伝えしないとなぁ!」



「ばかやろうかー!」


 私は場に飛び込んで取り巻きに指を突きつける。


「スレンピックまで後2ヶ月ちょいしかないんだぞ!この全員辞めさせて誰がうちのチームに挑むんだよ!

 お前か?お前が代わりに出るのか?」

「……うるさい!部外者はすっこんでろ!」


 私は知っている。こいつはただの取り巻きで、実際あんまり乗れないのだ。モレルゾの取り巻きだから偉ぶってるだけなのだ!

 取り巻きは唖然としたものの、顔を真っ赤にして怒鳴る。唾を飛ばすな唾を。


「正々堂々戦おうとしてるんだから喜べよ!部下がやる気になってるのに水を差すな!」

「チッ!モレルゾ様に言いつけてやるからな!」


 そう言って逃げていった。ばーか。言いつけるとか子どもかよ。

 騎士たちを振り返ると、全員がザッと膝をつく。

 もう夕方、窓から差し込む夕日に照らされなんかすごい空気感である。

 えええ、なに?なんなの?


 一人が顔を上げ、声を張り上げる。


「アイカワツムギ……。すみませんでしたぁ!!!」

「なになにーっ!?」


 先頭で膝をつく騎士が、重苦しい空気を醸し出しつつ語りだす。


「お前の喝で目が覚めた。俺たちは騎士だが、その矜持を忘れていた。お前の言葉でそれを思い出したのだ」

「ええ?なんで」

「俺たちより全然ひ弱で魔力もないやつが、頑張って仕事をしている。誰かのために動き回っている。そんなお前に騎士たるものの心意気を思い出させてもらった」

「あは、それは、良かったです……」

「我々はお前に誓おう。スレンピックまで、騎士の誇りをもち、練習に取り組み、正々堂々戦うことを!」

「それはぜひ、頑張ってクダサイ」


 あつくるしさにタジタジである。まあ、良かったな。うん。



 大声を聞いて様子を見に来たカシーナさんたちも同様な目に合っていた。


 そしてまた大声を聞いてうちのチームのメンバーが様子を見に来る。そしてそのたびに繰り返される。


「よーし、正々堂々戦おうじゃないか!絶対勝つけどな!」


 リンガーさんがリーダー格の騎士の肩へ腕を回し、バシバシ叩く。


 なんだかよくわからないが、両チームに友情が生まれた。


 てか、なんでもっと早くその矜持を思い出さなかったのか……。まあ、突っ込むのも野暮というものである。

 結果良ければすべて良し。うんうん。   


 リンガーさんと見に来ていたエーディスさんと目が合う。

 無言でそらされるが、私は近寄って声をかける。


「帰りましょうか」



 エーディスさんは無言で頷き、帰途につく。


 何かを言わないといけないとは思うのだけど、思いつかない。

 謝るべきか。でも何を?差し出がましいことを言いましたって?

 でも、これから先も女性に対して変な先入観でひどい態度を取るのはエーディスさんにとってもよろしくないと思う。


 ……でも、思い返せば確かにあれはフィリーチェ嬢もかなり強引だったし、あれが男女逆転してたらパワハラ及びセクハラだしな。

 エーディスさんも困っただろう。


「エーディスさん」

「……」


 足を止め、チラリと目だけでこちらを見る。まだ怒ってるみたい。そりゃそうか。


「ごめんなさい。エーディスさんの気持ちを考えずに酷いとか言ってごめんなさい」

「……ん」

「あれは、思えばフィリーチェ嬢によるパワハラ及びセクハラであると……」

「は?え?なにそれ……」


 急に出たワードに対応しきれなかったか、うろたえるエーディスさん。ああ、パワハラとか言う概念はあんまりないのかな?


「立場が上であることを利用して、何かを強要したりすることはパワーハラスメントになります。また、性的な嫌がらせをセクシャルハラスメントと言いまして、抱きつく等は立派なセクハラであります。今回の件はどちらも当てはまるような……」

「あー、もうわかったから」


 エーディスさんが首を振る。もはや思い出したくない過去になってるのかも……。

 私は精一杯頭を下げた。


「フィリーチェ嬢は明らかにやりすぎでしたよね。それなのに恥をかかせるな、なんて、私、酷い従者です……申し訳ございません」

「はあ、なんかよくわからないけどもういい、いいから帰るよ」


 私はエーディスさんの裾を引いて止める。


「でもね、エーディスさん。

 正直、どうせ演技とか変な先入観を持って女性に接するのはよしたほうがいいと思う気持ちは変わりませんからね?」


「君が言いたかったのはそれか」


 呆れた顔をされるが、だって、ねえ。


「だって、勿体ないんですもん」


 呟く。


「エーディスさんは美人で格好良くて、優しくて、頼りがいがあって面倒見も良くて、魔法もすごくて何でもできて。

 超ハイスペックで素敵な人なのに、変に拗らせて恋人ができないなんて勿体ないですよぅ……」


 エーディスさんを見上げて切々と訴えるが、唖然とされる。

 しかし、みるみる顔が赤くなる。


「な、なに恥ずかしい事を!」

「そーいう可愛いところもあるのに。本当にこの世の損失ですよ!」

「あー!やめろ!」



 ぎゃいぎゃい騒ぎながら帰りました。

 とりあえず、仲直りはできた、かな?

馬用語

無口(むくち)=無口頭絡の略。馬を引いたりするときに顔につけるもの。ベルトタイプと、ロープタイプが主にある

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