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夜会のあと

ブクマ、評価ありがとうございます!

 そのままエーディスさんに連れられるままに公爵邸を出て、待たせていたアンテ車に乗り込む。


 今更ながら体の震えが止まらない。


「大丈夫か?」

「す、すみません……」


 私のせいで夜会を早引けさせてしまった。

 エーディスさんがため息をつく。


「謝るな。遅くなってごめん」

「ちが、違います。私が悪くて……」


 エーディスさんが私の隣に来て、そっと腕を引く。

 気がつくとエーディスさんの腕の中に収まっていた。

 前にもしてくれたようにポンポンとあやすように背中を叩かれ、少しずつ、震えが収まっていく。


「ごめんなさい……」


 少し落ち着いて、ぼそぼそ謝る。


「謝るなって言っただろう?君は悪くないよ。悪いのは誰彼構わず手を出すグレルゾ」

「でも、注意しろって言われてたのに……」

「それは、そうだけど。……何もされてない?」

「首……」


 グレルゾの舌が這う感触を思い出してぶるりと震える。


「首?」


 エーディスさんの指先が首筋をそっと撫でる。

 違う意味でゾクゾクしてしまう。


「んん……く……くすぐったいです」

「我慢して。洗浄魔法かけてるんだから」


 ぞわぞわするけどぐっと我慢する。

 エーディスさんの指が私のうなじの髪を掻き分け、ある一点で止まる。


「ここ……。くそ、傷じゃないから消えないな」

「?」

「……キスマークついてる」


 なん、だと……!いつのまに……!

 恥ずかしさで顔が火照ってくる。顔をみられない体勢だから今は良いんだけどさ、グレルゾのやつ、その位置、服で隠れないじゃないか!

 慌てて手でその辺りを擦るが、やんわり押し止められる。


「消えないんですか……」

「少し薄くはなったけど消えないな。まあ、髪で少しは隠れるから」


 伸びた髪に感謝である。こっちに来たばっかりの頃は刈り上げの勢いで短かったからなぁ。襟足は。

 自分では見えない位置だからどうなっているかよくわからないけど。

 エーディスさんが身体を離して私の顔を見つめてくる。

 頬を優しい手付きで撫でられ、思わず目を閉じる。


 手は頬から首へ。そして服に隠れていた肩口の辺りも撫でられる。


「はあ……ここもか」

「まさか」


 同じところを行き来する指先。

 もうエーディスさんは何も言わず、乱れた服を整えてくれる。


 そしてもう一度、頬に。その手がなんとなく名残惜しくてそっと頬を寄せる。


「次からは遠慮しないですぐに俺の名を呼んで」

「ごめんなさい……」

「責めているんじゃないよ。……君の持ってる魔法玉には色々と魔法がかけられている。君が意図を持って俺の名を呼べば、俺はどこにいても君の居場所がわかる。

 だから魔法玉は肌身離さず持ち歩くこと」

「はい……」


 俺を呼べ、と言うのは文字通り呼べば良かったらしい。

 あの絞めたカエルみたいな声でも届くんだ……。

 異世界の常識は難しいな。





 家に着き、エーディスさんにお風呂へ追い立てられる。

 いやいや、家主より先に入れませんよ!と言ったものの、今日は早く休めと命令されてしまったのでそうさせてもらうことにする。

 迷惑かけてばっかりで全く従者として役に立てないなぁ……




 服を脱ぎ、姿見の前で立ち尽くす。


 あんにゃろ、グレルゾ……嫁入り前の乙女の柔肌に……!!!






 次の日はいつもどおり仕事である。



 エーディスさんと顔を合わせるともはや恒例目腫れチェックがある。

 これ、至近距離なわけなんだけど傍から見たら結構怪しい関係に見られそうだな……。

 昨日は言っても夜中さめざめと泣いていたわけではないので、腫れてはいないはずだ。

 キスマークは服と髪で隠れた。たぶん。


 よし、今日も気合を入れていきますか!



「よ!昨日は夜会だったんだろ?良い娘いたか?」


 エーディスさんがクリオロさんに早速絡まれている。


「居ませんよ」

「お前も勿体無い奴だなぁ。よりどりみどりだろうに」


 それには同意だ。

 でも昨日の夜会については私のせいで早引けせざるを得なくなったので、申し訳ない。

 もしかしたらいい出会いがあったかもしれないのだし。



 と、思いながら作業をこなしていると、声をかけられた。


「もし、お忙しいところ失礼いたしますわ。エーディス様はどちらにおいでかご存知でしょうか?」

「エーディスさんなら、第3馬場で練習を……」


 思わず言葉が止まってしまった。

 美少女である。

 プラチナブロンドのウエーブのかかった長い髪。

 大きな青い瞳に、ぷっくりとした桜色の唇。

 楚々とした佇まい。

 背後には、従者らしい男性と女性を従えている。良いところのご令嬢だろうか。

 年の頃は私と同じくらいに見えるが、うむ、同じ性別でごめんね!って謝りたくなるくらい可愛い……。


「も、もし宜しければご案内します」

「ありがとうございます」


 花がほころぶと言うのはこういう笑顔を言うのであろう。

 騎士たちの羨望の眼差しを受けながら私は馬場へ彼女を案内した。


 彼女の名は、フィリーチェ•バウルム侯爵令嬢。

 そこそこ有力な貴族のお嬢様のようだ。

 そんな令嬢がエーディスさんに用……。


「エーディスさーん、お客様です」


 ちょうど切りが良さそうな時だったので、エーディスさんに声をかける。

 エーディスさんがこちらへやってきて、フィリーチェ嬢に目を留める。

 フィリーチェ嬢がエーディスさんに走り寄る。


「エーディス様、昨日はお話の途中で帰ってしまわれたので、わたくしもっとお話したくて来てしまいましたわ」

「あ、ああ。申し訳ございません。フィリーチェ嬢」

「わたくしのことを覚えていて下さったのですね!嬉しいですわ……」


 エーディスさんをうるうると見上げるフィリーチェ嬢。

 破壊力ありそうなその眼差しに、さしものエーディスさんも目が泳いでいるぞ。


 どうも彼女との歓談中だかダンス中だかに私に『呼ばれて』しまって、そのまま帰ったので、彼女の方から来てくれたとそういうわけらしい。

 それはもう申し訳ない……。


「これから休憩されませんか?わたくし、お菓子をお持ちしましたの」

「……それでは有り難く頂きます」

「他の皆様のぶんもありましてよ」

「ありがとうございまーす!」


 クリオロさんが上機嫌で従者の方から包を受け取る。

 フィリーチェ嬢は眉尻を下げる。


「どこかお部屋はありませんか?ゆっくりお話ししたくて……」

「申し訳ございません。ご案内しましょう」


 エーディスさんがフィリーチェ嬢の手をとる。

 エーディスさんにエスコートされ、頬を染めるフィリーチェ嬢と従者二人は歩いていく。

 みんながにこやかに、にやけながら見送る中、ペルーシュさんだけが難しい顔をしてこちらを見ている。

 ん?知り合いだったり?


 私はついていったほうが良いのかな?

 フィリーチェ嬢の従者もついて行ってるから、一応行くか。

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