夜会へ
ブクマ、評価ありがとうございます。
エーディスさんのお家の執事さんがメイドさんを連れてやってきて、色々と準備を教えてくれる。
メイドさんは家の状態を見て、どことなく複雑そうな顔をしていたが、私のおかげというよりは、殿下の本気の叱責が効いたんだと思う。殿下、落ちてるものに足の小指をぶつけたらしい……。
その後たまたま私が来て、しぶしぶ片付けが進んだって感じがする。
とにかく、エーディスさんのために色々と教えてもらわないと。
エーディスさんは本来は普段の生活のサポートもやってもらえるくらいのそれなりに資金力のある伯爵家の息子なのだけど、こまごまとした世話が煩わしいらしく、ここ数年は一人で自分の面倒をみていたらしい。
まあ、一人暮らしって自由だからね。自分の好きなように時間を使いたい人には誰かを煩わせたり煩わされたりっていうのが嫌だったのかもしれない。
ただ、こういった夜会とかの催しに関しては毎回手伝ってもらっていたということで今回は私がサポートのサポートぐらいはできるようにということみたい。
いつまでそれができるかは、正直わからないけどね。
「服に関しては、ドレスコードがあればそれに準じます。なければ、この中から招待者の格式に合いそうなものを選びます」
エーディスさんの部屋のクローゼットには意外と服があった。
まあ、隊服にも種類があったりするから仕事着が半分くらい占めてそうだけど、礼服のたぐいも結構あるようだ。
選び方なんかわからんけどな!
その他、こまごまとした話を聞いたが、絶対一回じゃ覚えられないよ……。
今回は隊服の中でパーティ用の衣装がある(仕事で護衛とかもあるから必ずプライベートで着る訳ではないらしい)ので、それを着る。
軍服、イイねぇ。
私の服は仕立てが間に合わないのでエーディスさんちの使用人さんが着てたやつのお下がりをもらった。
めっちゃ綺麗で中古には見えん……。
自分の支度をして、エーディスさんの支度を手伝う。
彼は自分で着れてしまうので特に難しいことはなかった。これが女性だとやれ化粧だ髪だと大変であろう。ドレスも男性より選択肢が多いだろうし。
ちょっとそれも体験してみたい気はするけど。
エーディスさんの髪は長いからヘアアレンジのしがいがありそうだ……。
さて、いつも格好いいがより格好いい色気を出すエーディスさんとともにいよいよ夜会である。
手配してもらったアンテ車に乗って会場へ向かう。
「とりあえずは何人かに挨拶するのに付き合ってもらうけど、ダンスが始まったら控室があるからそっちでゆっくりしてて」
「おお!ダンスですか!エーディスさん踊れるんですね。さすがは貴族」
「ま、嗜みだからね」
あんまりやる気がないエーディスさんが頬杖をついて外を眺める。
うーん絵になるなぁ。
「この夜会はお見合いみたいなもんなんですってね?ドーナリーさんがいつになったら坊っちゃんの慶事が聞けるのかって嘆いてましたよ」
ドーナリーさんはメイドさんである。
今回のためにわざわざ領地からやってきたらしい。
エーディスさんが生まれる前から伯爵家で働いているベテランで、母親の心境に近いだろう嘆きを何度となく聞かされた。
エーディスさんは大きなため息をついてこちらにちらりと視線をよこす。
「ドーナに心配かけてるとは思うけどね……」
「相手はどうやって見つけるものなんですか?」
「こういう夜会なら自分で声をかける。それ以外に招待者にこの令嬢と踊れってあてがわれるときもあるけど」
「ほお〜、頑張ってください!」
「他人事だと思って……」
エーディスさんが半眼で見てくるが、実際他人事だしねぇ。
エーディスさんがもし結婚とかになったら私はどうなるんだろう。
「ん?別に変わらないんじゃない?仕える相手が増えるだけだよ」
聞いてみると、そう返答が返って来てホッとする。
追い出されてももう一人で暮らせるかもしれないけど、なんか嫌だった。
「良かったです。追い出されちゃうかと思いました」
ポツリと漏らすと、エーディスさんが私の方を見て微笑む。
「別にそんなことしないし、俺は4男だから結婚だって別にしなくちゃいけない訳じゃない。うちの伯爵家には跡継ぎももういるし。
だから帰れるまでずっといたらいいよ」
「えへへ、ありがとうございます」
ずっといてもいいんだ。嬉しくて照れ笑いを返す。
結婚、あんまり乗り気じゃないのかな。やっぱり女性が苦手だから?
エーディスさんはハイスペ男子だから独身なんて勿体ない気はするけど。
そんなことを話している間に到着する。
既にたくさんの人が来ていて、規模の大きさを感じさせる。
さすがは有力公爵家の夜会である。
色とりどりのドレスを着た令嬢たちもとっても華やかだ。
受付を済ませ、エーディスさんに連れられていろいろな人に挨拶する。
中には会ったこともある人もいたが、これ、いつかは覚えないとまずいのかも……。
主人の交友関係位把握しないとねぇ……。
今回の参加者は若者がやっぱり多かった。
女の子たちがこちらにチラチラ視線を送っているのをビシビシ感じる。
やっぱりモテモテだよね。
そして、挨拶するべき人がまた。
「やあ、エーディス近衛副長。来てくれて嬉しいよ」
「モレルゾ隊長。お招きに預かり光栄です」
モレルゾである。普段はガラが悪いけど、今は泰然としていて貴族らしい振る舞いをしている。
「ま、今宵の宴、いい出会いがあるように祈っているよ。それでは失礼する」
そう言ってさっさと居なくなるモレルゾ。うーむ別人のようだ。最後のニヤけっぷりはいつものモレルゾだったけど。
居なくなったモレルゾの横にいた金髪の男性が私に目を留める。
「やあエーディス。そちらの方は噂の君の従者かい?可愛らしいじゃないか」
エーディスさんがさり気なく私の前に立つ。
「ご紹介が遅れました。グレルゾ卿。こちらは私の従者ツムギです」
「宜しくね、ツムギくん」
ニッコリ笑顔を向けてくるグレルゾ卿。私はジャパニーズ愛想笑いを貼り付け、会釈する。
ん?グレルゾ?
エーディスさんが私に伝えてくれる。
「こちらはグレルゾ卿。モレルゾ隊長の弟だ」
に、似てない!
愛想笑いを継続しつつも衝撃的に似てない兄弟にびっくりである。
モレルゾはガタイも良く、顔つきも厳つく男性的。あまり言うと悪いが、イケメンとまでは言えない。
グレルゾ卿はウエーブのかかった金髪のせいか流麗な雰囲気で、見目麗しいイケメンである。
……なんとなーくナルシストな空気を醸してるけど。
そのグレルゾ卿がまとめた髪を後ろに払いのけ、私にキラリと笑いかける。
「歓迎するよ。楽しんでくれたまえ」
「あ、ありがとうございます」
「エーディスも、こんなに可愛い従者ならもっと早く紹介してほしかったなあ」
「申し訳ございません」
「ま、良いけど。君なら許してあげよう」
そう言って、グレルゾ卿はエーディスさんの腰を抱き耳元で囁く。
「早く母上に会っておいでよ。君のお眼鏡に叶う令嬢を見つけるって張り切っているよ」
「身に余る光栄です」
エーディスさん、無表情で言うと、グレルゾ卿の拘束から抜けて会釈する。
「それでは、失礼します」
「じゃあね〜」
グレルゾ卿も、なんとなく厄介そうな人物である。
エーディスさんが歩きながら疲れた声で言う。
「あいつには気をつけろ。気に入られると面倒だ」
「エーディスさん、間違いなく気に入られてますね」
「あいつの好みは見た目に偏ってるからな」
つまり、綺麗で可愛いものが好き、と。男女に関わらず。
ちらりと振り返ると、美人な令嬢と談笑している。その隣のいっちゃ悪いが普通な、まあまあ可愛い令嬢には見向きもしていない。なんとわかりやすい……。
エーディスさんは今回の招待者、モレルゾの母親こと女主人の元へ向かうことになり、私は控室へ行くことになった。
エーディスさんが囁く。
「万が一何かあったら俺を呼べよ」
そう念押しされて、私は使用人に案内されて控室へ向かう。
ホールを出る前、振り返るとエーディスさんが可愛らしい令嬢をダンスホールへエスコートするところだった。
穏やかな笑みを浮かべて普通にエスコートしている。
令嬢の目にハートマークが浮かんでいても驚かないぞ。
なーんだ、普通に女性の相手ができるのか。なんで恋人がいないのか……。七不思議である。
グレルゾ登場。
お父さんの名前はバレルゾです。出てくるかな?




