殿下の訪問と招待
ブクマ、評価ありがとうございます。
「と、いうことがあったんですよ」
「ツムギ……」
「いやあ、エーディス最近私の前で酔っ払ってくれないからなぁ。見たかったなぁ」
先日の件を殿下に暴露している私。エーディスさんは迷惑をかけたという自覚があるだけに強く言えないらしく、半ば諦めの表情である。
殿下が遊びに、というかサボりに来て、今日はお休みのエーディスさんと話をしていた。
私は家のことをあれこれやりながら、たまにくる問いかけに答えていただけだったのだが……。
最初は、キイナ様がいよいよ成人になるとかで、あっちの世界では二十歳から成人なんですよ、とか話をしていただけだった。
こっちの成人はなんと15歳だという。まだまだ子どものような気がするが……。
15歳になると大人とみなされるそうで、例えば庶民なら仕事も一人前扱いになるし、貴族だと社交界デビューとなるそうだ。
その後、貴族はだいたいが18歳までの学校に入り、見聞を深めるのがこの国の常識らしい。
女の子ならその間になんとか結婚相手を見つけられればいいな、という感じだろうか。
そうして、私の世界の成人について説明しているときにお酒の話が出たのである。
こっちも基本は成人してから飲むらしいが、15歳でもう成人なので、社交の場でお酒を飲むことができる。
それで殿下がザルだという話になり、エーディスさんの酒癖についての話になり、今に至るというわけだ。
殿下いわく、エーディスさんは平気そうに見えていつの間にか酔っ払っているタイプだそうで、少し前まで普通にしてたのに急におかしくなるパターンが多いらしい。
「すっごくベタベタしてくるんだよ。鬱陶しいくらい」
「確かに……」
「エーディスは6人兄弟の末っ子だからね。甘えっ子な面が酔うと全面に出てくるわけ」
「ほうほう」
「めんどくさかったでしょ?」
「まあ、そうですね。でもまあ、あれくらいなら可愛いもんじゃないですかね?」
「そうかな〜だいぶひどいと思うけど」
笑いながら言う殿下、その言い草に笑ってしまう。
エーディスさんはブスッとしてあらぬ方向を向いている。
「うちのお姉ちゃんは酔うと脱ぐわ踊るわ泣くわキス魔になるわ、酒癖オンパレードですからね。それに比べれば」
「それは酷い……是非見たい」
ええ……。見たいのか?
「いや、ヤバいです。飲み会でお姉ちゃんの彼氏がお姉ちゃんにブチギレて騒ぎを起こして、二人してその店を出禁になったって伝説になったらしいですからね。
それ以来外で飲まなくなったのは良いんですけど、こっちは何度となく被害受けてますし」
「良いなぁ、楽しそう。私は飲んでも酔わないから、酔ってる人を見るしかお酒を飲むことを楽しむすべがないんだよね」
殿下が肩をすくめてそう言うと、エーディスさんがぼそりと呟く。
「だからって人を潰すなよ……」
「だってエーディスは結構変わるから面白いんだもの。今度またお酒持ってくるね?」
「勘弁して……」
エーディスさんは酔っておかしな行動をしても、記憶は飛ばさないタイプで後で思い出して悶絶することが多く、酒量をセーブしてたらしくここ最近は変な酔い方をしてなかったらしい。
この前は量はそこまで飲んでなかったが、一気に飲みすぎたとの反省を次の日聞いた。
いつもクールなエーディスさんが次の日おどおどしながら謝ってきたのは今思い出してもちょっと笑える。
「いや、良かったと思いますよ。カシーナさんたちも取っつきづらかったけどなんか親しみを覚えたみたいなこと言ってましたし」
「良かったねえ」
うなだれるエーディスさん。
「これからはツムギさんが面倒見てくれるだろうし心置きなく酔っ払ったらいいと思うよ」
「え……それは……」
私の言葉にさらにうなだれるエーディスさん。落ち込む背中を叩いて励ましてあげる。
「あはは、大丈夫ですよ。ちゃんと面倒見てあげますから、飲みたいだけ飲んでください」
「わぁ優しい〜。ね、ツムギさんは飲んだらどうなるの?」
お、酔っぱらいウォッチャーの次なるターゲットにされそうだ。
「残念ながら、まだ未成年なのでお酒は飲みません」
「えー。こっちじゃ成年とっくに超えてるんだから問題ないよ」
「いえいえ。お酒は二十歳になってから。これが私の常識です」
「んー残念だなぁ。お姉さんがそんなに面白いなら、ツムギさんも楽しく酔えると思うんだけどなぁ。ね、エーディス」
「ああ、うん。そうかもな」
「キス魔だったら面白いなぁ」
「そ、そうか?」
エーディスさんが引いてる。殿下の趣味がわからんな。
「色々と見てきたけど、キス魔にはお目にかかったことかないからね。ぜひ見てみたいね」
そういうことか。
殿下がにっこり笑いかけてくれる。
「ぜひ二十歳になったら飲んだくれてエーディスに熱ぅーいキスしてあげてね」
「えっ」「いや、それは……」
エーディスさんを見ると目があったので、ねえ?と同意を求める。
彼はほけっと私を見つめていて、反応が遅れた。殿下を睨む。
「ガルグール、いい加減に人をからかうな」
「あれ?想像しちゃった?顔が赤いよ?」
「馬鹿言うな」
エーディスさんが立ち上がり、部屋を出ていく。お手洗いだろうか。
殿下がくすくす笑いながら見送る。
「エーディスは本当にからかいがいがあってかわいいやつだよね」
「それ、本人に言ったら怒りますよ」
「うん。それはわかるから言わないけどツムギさんもそう思うでしょ?」
「……まあ。でも最初とは印象変わりましたね」
「ふふ、君たちが仲良くやってくれてるようで何よりだよ」
殿下は柔らかく微笑む。殿下もなんだかんだとエーディスさんが大好きなんだろうな。
「まあ、それなりに仲良くなれたとは思いますよ」
「エーディス、同年代の友人があまりいないから。主に私のせいだけど。だから君みたいに立場関係なく仲よくしてくれる友人ができたなら私も嬉しい」
殿下の下で、これだけ深い関係なのだからやっかみやら何やら色々とあるのかもしれない。
考え込む私を見て、殿下が頷く。
「上の者たちからは妬まれ、同年代や下の者からは憬れやら恐れやらであまり近づかないからね。彼も私の立場を考えると迂闊な行動はできないとずっと自分を律しているから。
軽口を叩いたり酔っ払ったり、そういうことですらただの知り合いには見せない。
だから君の話を聞いて安心した。エーディスがそういう面を見せたってことは君やチームにも少し気を許したのかもね」
「そうだったら、嬉しいですね」
私はそう言いながら、お茶菓子を差し出す。
エーディスさんが戻って来た。
「お帰り。そういえばこの間の件だけど……」
「ああ、それなら……」
話が変わったので、手が止まっていた作業に戻る。
郵便物の仕分けである。
まだ読めない文字はあるのだが、なんとなくわかる物は増えてきた。
まあ、仕分けと言っても、量があるわけではないし決まった差出人とそれ以外とで分けるくらいなのであるが……。
「エーディスさん、郵便物はここに置いておきますね」
話が終わった頃を見計らって声をかける。
ちらりと見た殿下が首を傾げる。
「あれ?あの紋章、イーノデス公爵家のじゃない?」
「え?……ツムギ、ちょっとそれ」
指されたものを差し出すと、封蝋を確認し、ちょっと嫌そうな顔をしながら封を開ける。
読み終わると、テーブルに投げた。扱いがひどい。
「さては、夜会の招待状かな」
「その通り」
げんなりした様子でため息をつくエーディスさん。
「行かないわけにはいかないね、ご愁傷さま」
「モレルゾのやつ、嫌がらせに決まってる……」
「練習時間を少しでも減らそうという涙ぐましい努力だね」
「仕方ない……」
「せっかくだからツムギさんも行ってきたら?」
「え?私ですか」
「うん。従者は従者でおもてなしがあるんじゃないかな。それに、一応名ばかりでも従者だし、少し仕事を覚えてもらうのも良いんじゃない?」
「……わかった。とりあえずはうちのやつに準備を頼む。それをツムギにも教えてもらおう」
ということで、夜会へ参加することになった。
字下げ処理を忘れた……。
なぜか、編集画面でないと入力補助メニューが出てこない仕様なんですよね。




